佐藤春夫譯「支那厯朝名媛詩鈔 車塵集」正規表現版 「秋の別れ」七歲女子
[やぶちゃん注:書誌・底本・凡例等は初回を見られたい。本篇はここ。]
秋 の 別 れ
別 路 雲 初 起
離 亭 葉 正 飛
所 嗟 人 異 雁
不 得 一 行 飛
七 歲 女 子
別れ路に雲湧きうかび
葉は散るよ峠の茶屋に
かなし、 人、 雁(かり)にあらねば
一つらに飛ばんすべなし
※
七歲女子 七世紀末。 唐朝。 この幼女が詩を能くすることが宮廷にまで聞え、則天武后が召して「送兄」といふ題を與へそれによって作らせたのがこれである。
※
[やぶちゃん注:訳詩の読点の後の字空けは総てママ。国立国会図書館デジタルコレクションの『和漢比較文学』(一九九二年十月発行)の小林徹行氏の論文「『車塵集』考」のここによれば(左ページ上段)、佐藤は最終行を弄っている。原詩は「名媛詩篇」では最終行は「不作一行歸」とし、「全唐詩」の巻七十九でも同じく「不作一行歸」であり、「古今女史」では、「不作一行飛」となっているとある。弄りの少ない「古今女史」版で推定訓読する。標題は自身のものではないが、則天武后のそれを使用する。
*
兄に送る
別かれ路(みち) 雲(くも) 初めて起こり
離亭(りてい) 葉(は) 正(まさ)に飛ぶ
嗟(なげ)く所のものは 人(ひと) 雁(かり)とは異(こと)なりて
一行(いつかう)に飛(とびさ)るを 作(な)さざること
*
・「離亭」遠くまで見送った最後の宿駅の宿屋。]
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