佐藤春夫譯「支那厯朝名媛詩鈔 車塵集」正規表現版 「月をうかべたる波を見て」王微
[やぶちゃん注:書誌・底本・凡例等は初回を見られたい。本篇はここ。]
月をうかべたる波を見て
寒湖浮夜月
淸淺幾廻波
莫道無情水
情人當奈何
王 微
冬の湖(うみ)月をうかべて
さざらなり寄せてよる波
心なの水とは言はじ
人戀ふるこころさながら
※
王 微 十六世紀(?)。 明朝。 字は修微、揚州の妓女である。 二度も士人の妻となつたが何れも完(まつた)うしなかった。 禪に歸依して草衣道人と號した。 集があって期山草樾舘詩集(きざんさうえつくわんししふ)といふ。
※
[やぶちゃん注:作者王微については、中文サイト「中國古典戲極資料庫」の「靜志居詩話」の「卷二十三」「教坊」「王微」で、佐藤が解説した内容が確認出来る。
・「さざら」「ささら」とも言う。語素で「細かい・小さい・わずかな」などの意を表わす。が、ここでは私は「さらさらと」止めどなく岸に寄せる波音を言い、オノマトペイアと採る。
本篇の標題は調べたところ、「夜月」であった。以下、推定訓読を示す。
*
夜(よる)の月
寒(さむざ)むとした湖(うみ) 夜の月を浮かべ
淸(きよ)き淺(あさききし) 幾廻(いくたび)か波だつ
道(い)ふ莫(な)かれ 無情(むじやう)の水(みづ)と
情人(じやうにん) 當(まさ)に奈何(いかん)せん
*]
« 佐々木喜善「聽耳草紙」 一六六番 話買ひ(二話) | トップページ | 佐藤春夫譯「支那厯朝名媛詩鈔 車塵集」正規表現版 「霜下の草」小夜 / 訳詩本文~了 »