佐藤春夫譯「支那厯朝名媛詩鈔 車塵集」正規表現版 「もみぢ葉」靑溪小姑
[やぶちゃん注:書誌・底本・凡例等は初回を見られたい。本篇はここ。]
も み ぢ 葉
日 暮 風 吹
落 葉 依 枝
寸 心 丹 意
愁 君 未 知
靑 溪 小 姑
日はくれ風ふき
枝に葉は落つ
もゆる思ひは
君に知られず
※
靑溪小姑 五世紀。 宋の秣陵尉(まつりやうい)蔣子文(しやうしぶん)の第三妹である。 靑溪はその居住の地名で小姑(せうこ)といふのは學藝ある貴婦人に對する敬稱である。 簡素な文字のなかに情感の溢れてゐるのを見る可きである。
※
[やぶちゃん注: 調べたところ、標題は「落葉」である。
・「秣陵尉蔣子文」「秣陵」現在の南京市。後漢時代の同所の県の県長相当の人物。かの四世紀に東晋の干宝が著した志怪小説集「捜神記」の巻五の冒頭で、死後、土地神となって、永く民から祀られた話が載る。
以下、推定訓読を示す。
*
落葉(らくえふ)
日 暮れ 風 吹き
落ち葉するも 枝(えだ)に依(よ)るあり
寸心(すんしん)の丹意(たんい)
愁(うれ)ふ 君の未だ知らざるを
*
・「寸心」ちっぽけな私の心。
・「丹意」赤心。真心。ここは燃えるような恋心。]
« 奇異雜談集巻第四 ㊁下總の国にて死人棺より出て靈供の飯をつかみくひて又棺に入る是よみがへるにあらざる事 | トップページ | 梅崎春生「つむじ風」(その4) 「にらみ合い」 »