佐藤春夫譯「支那厯朝名媛詩鈔 車塵集」正規表現版 「骰子を咏みて身を寓するに似たり」金陵妓
[やぶちゃん注:書誌・底本・凡例等は初回を見られたい。本篇はここ。]
骰子を咏みて身を寓するに似たり
一 片 微 寒 骨
翻 成 面 面 心
自 從 遭 點 汚
抛 擲 到 如 今
金 陵 妓
枯れさらばうた骨の屑
これがみなさまの御心配
汚㸃(しみ)をつけられ申してより
ほうり投げられてまづ斯樣(かよう)
[やぶちゃん注:佐藤の作者解説には、金陵妓の項はない。これは「金陵」(南京の古名)の「妓」女という意味だから、無名なのだろう。時代も判らない。
但し、国立国会図書館デジタルコレクションの『和漢比較文学』(一九九二年十月発行)の小林徹行氏の論文「『車塵集』考」のここによれば、佐藤は詩句を、転句と結句の二箇所で弄っていることが判る。それによれば、『「點汚」「如今」を『名媛詩篇』では「點染」「于今」に作る。『古今女史』詩集巻四も同じ。『名媛璣囊』巻四は「點汗」「于今」に作る。「于」は「於」に通じて意味に差異はないが、訳者は「如今」のほうが一般読者には分かり易いと判断したものと推察される』と述べておられる。また、標題も載り、「詠骰子」である。
佐藤の訳題の「骰子」は「ガイシ」よりも「さいころ」と訓じたい気がする。
個人的には、転句のそれは「點染」を採りたい。それで、原詩の一型を復元し、以下、推定訓読する。
*
詠骰子
一片微寒骨
翻成面面心
自從遭點染
抛擲到于今
骰子(さいころ)を詠む
一片(いつぺん)の微(わづ)かなる寒骨(かんこつ)たれり
翻(か)へりて 面面(めんめん)が心(おもひ)と成る
染(し)みを點(つ)けらるるに遭(あ)ひしより
抛擲(なげうちす)てられ 今に到(いた)れり
*
・「自從」は前置詞で「~より・~から」で本邦の助詞に当たるので、ひらがなとした。]
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