佐藤春夫譯「支那厯朝名媛詩鈔 車塵集」正規表現版 「手巾を贈るにそへて」陳眞素
[やぶちゃん注:書誌・底本・凡例等は初回を見られたい。本篇はここ。芥川龍之介の影が本書には色濃く残っていることから、個人的には「手巾」は芥川龍之介の同名の小説(大正五(一九一六)年十月発行の『中央公論』初出。後、処女作品集「羅生門」に収録された)から断然、「ハンケチ」と読みたく思う。]
手巾を贈るにそへて
愁 聽 玉 漏 夜 偏 長
薄 命 如 儂 固 自 當
一 縷 機 絲 聊 寄 恨
莫 敎 抛 擲 阿 誰 傍
陳 眞 素
うれひぞ長く更くる夜に
身をこそうらみ一すぢに
織りてまゐらすものをしも
誰がよき閨に人や捨つらむ
※
陳 眞 素 明朝の妓女。 未詳。
※
[やぶちゃん注:訳中の「閨」は「閏」と誤っている。恐らくは誤植で校正で佐藤自身も気づかなかったのであろうが、「乳房をうたひて」趙鸞鸞での全く同様のそれは、作者解説での同じ字の同じ誤りではあるが、これは肝心要の佐藤の訳文での誤植であり、正直、佐藤の校正不注意がひど過ぎる。講談社文芸文庫版で訂した。
ネットで調べても、この詩人の、この詩の記載が、中文サイトでも見出せなかった。全面的に信用が出来るものではないが、国立国会図書館デジタルコレクションを検索してみたところ、機会的表示で、或いは、詩の標題は「贈汗巾」とする検索結果が出た。原文に当たれないので、或いは機会判読が誤っている可能性は十分あるのだが、まあ、詩題としてはおかしくないので、取り敢えず、それを当てて、推定訓読しておくが、どうもこの詩、上手く読めない。
*
汗巾(かんきん)を贈る
愁(うれ)へて玉漏(ぎやくらう)を聽く夜(よ)は 偏(ひと)へに 長し
薄命 儂(わらは)のごときは 固(もと)より當(あ)たれり
一縷(いちる)の機絲(はたいと) 聊(かりそ)めに恨みを寄す
阿-誰(たれ)か傍(ちか)きに抛擲(はうてき)せしむる莫(な)かれ
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・「玉漏」珠玉で飾った美しい水時計。または、水時計の美称。中国の水時計は大掛かりなもので、宮中に置かれたものが多い。]
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