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2023/07/06

奇異雜談集巻第四 目錄・㊀越後上田の庄にて葬の時雲雷きたりて死人をとる事

[やぶちゃん注:本書や底本及び凡例については、初回の私の冒頭注を参照されたい。

 なお、高田衛編・校注「江戸怪談集」上(岩波文庫一九八九年刊)に載る挿絵をトリミング補正して掲げた。因みに、平面的に撮影されたパブリック・ドメインの画像には著作権は発生しないというのが、文化庁の公式見解である。]

 

竒異雜談集巻第四

          目錄

㊀越後上田(うへだ)の庄(しやう)にて葬(さう)の時(とき)雲雷(うんらい)來りて死人(しびと)をとる事

㊁下總(しもふさ)の国にて死人(しにん)棺(かん)より出て靈供(りやうぐ)の飯(いひ)をつかみくひて又棺に入(いる)是蘇(よみがへる)にあらざる事

㊂筥根山(はこねやま)火金(ひがね)の地藏にて火車(くはしや)を見る事

㊃產女(うぶめ)の由来の事

㊄國阿(こくあ)上人發心山来の事

㊅四條の西光庵(さいこうあん)、五三昧(まい)を廻(めぐ)りし事

㊆三條東洞院鳥屋(とりや)末期(まつご)の頭(かしら)より雀(すゝめ[やぶちゃん注:ママ。])のくちばし生出(をひ[やぶちゃん注:ママ。]いづ)る事

㊇江州下甲賀(しもかうか)名馬(めいば)主(しゆ)の敵(かたき)をとる事

㊈馬(むま)細橋(ほそはし)に行懸(ゆきかゝ)りわたらざる事

 

竒異雜談集巻第四

   ㊀越後上田の庄にて葬の時雲雷きたりて死人をとる事

 ある人語りていはく、ゑちご[やぶちゃん注:ママ。]の国、上田の庄に、寺あり、雲東庵とがうす。

 その檀那、庄内(しやうない)の人、死す。

 その長老、いんだうを、なす。

 葬礼、すでに山頭(さんとう)にいたるとき、電雷(でんらい)、はなはだ、なりて、人、頭(かうべ)を割るがごとし。

 大雨(《だい》う)、降ること、盆(ほどき)の水をかたむくるがごとし。

 下火(あこ)の松明(たいまつ)も、きえなんとする時に、黑雲(くろくも)一むら、龕(がん)[やぶちゃん注:ここでは棺桶のこと。]のうへに、おちくだりて、龕の盖(ふた)を、はねのけて、死人を、つかんで、あがる處を、長老、たいまつを、すてて、はしりかかりて、死人の足(あし)に、とりつく。

 なを[やぶちゃん注:ママ。]、引《ひき》て、あがる。

 

Kasya_20230706094501

 

[やぶちゃん注:底本の大型のくっきりした挿絵はこちらなお、葬送する人々の額に例の三角の白い布「天冠(てんかん・てんがん)」をつけているが、死装束の一つであるが、地方によっては、古くより親族の会葬者がつけて行うことは、多く見られる。閻魔大王や仏・菩薩に面会するための正装とする説が代表的であるが、私はそれに組み出来ない。これは、類感呪術の古形式の一つと見る。遺体は魂が空になったもので、そこには種々の魔物や妖怪が入り込み易いと民俗社会では考える。そこで、禍々しい事態が発生しないように、会葬者が遺体の複数のダミーとなって、そうした事態を避けるためのものと考えている。三十年ほど前、私の同僚は、田舎の伯母が亡くなって葬儀に行った際、天冠だけでなく、遺体と同じ白帷子を着せられた上、その恰好で火葬場へ行く会葬者たちを乗せる自動車の運転までした、と言っていた。その地方では当たり前のことらしいが、それを聴いた時、私は、すれ違った何も知らない土地の人でない対向車の運転手が見たら、驚いて、事故を起こすのではないかと心配したのを思い出す。

 

長老、手をはなさず、かたく、いだきつきて、共(とも)に、そらにあがる事、一丈ばかりあがつて、四、五間[やぶちゃん注:七・二七~九・〇九メートル。]、よこにゆくとき、死人、落つるゆへ[やぶちゃん注:ママ。]に、長老、地におちて、氣をうしなふ。

 しよにん、いだき、たすけ、死人をば、とりて、龕に、いるるなり。

 雷(かみなり)・雨(あめ)、やうやく止み、長老、氣、たいらかに[やぶちゃん注:ママ。]して、つゐに[やぶちゃん注:ママ。]、火下(あこ)を、なすなり。

 此事、ふうぶん、かくれ、なし。

「長老のきぶん[やぶちゃん注:「機分」。天性(てんせい)生まれつきの気質。]、强精(かんじやう)なり。いかなる罪人なりとも、たすけらるべし。」

と、諸人、いへり。

 その邊(へん)に高山(かうざん)あり。黑雲(くろくも)、嶺(みね)にかゝれば、火車(くはしや)、いてゝ[やぶちゃん注:ママ。]、雷雨、甚だしき事あり。

 此の葬(さう)の日、黑雲かかれるゆへ[やぶちゃん注:ママ。]に、

「葬、いかゝ[やぶちゃん注:ママ。]。」

といへば、長老、雅意(がい)にて、

「苦しからじ。たゞ葬を、せよ。」

といはれ、かくのごとく也。

[やぶちゃん注:「越後の国上田の庄」岩波文庫の高田氏の注に、『現在の新潟県南魚沼郡のほぽ全域の古称』とある。以下、二重鍵括弧は総て同書の高田氏の注からの引用である。

「庄内」『上田の庄内。庄は中世の村落形態の荘園』。

「下火」『禅宗で、葬式の時、導師が松明をとって火葬とする意を表わす儀式』。

「强精」『気丈なこと』。

「火車」『雷とともに葬礼を襲って屍体を奪いさる妖怪』。怪奇談集ではかなりメジャーな怪異であるが、幾つかの異なったパターンがあり、妖怪性の強いものから、因業者を迎えに来る地獄のそれまで、話しとしては、私の怪奇談集でもお馴染みである。少しそうした「火車」の概説と、私の怪奇談の各個リンクを注で纏めてみた「狗張子卷之六 杉田彥左衞門天狗に殺さる」を参照されたい。なお、挿絵では、引き上げるのは、見たまんまの雷神であるが、雷神が何のために遺体を奪取するのか、他の話でも実は理由が明らかにされているものは少なく、私は一種、消化不良を起こす類いである。

「雅意」『我意の意』。]

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