柴田宵曲「随筆辞典 奇談異聞篇」 「義眼と蜂」
[やぶちゃん注:本書は昭和三六(一九六一)年一月に東京堂から刊行された。この総題の「随筆辞典」はシリーズ物の一書。本書については、初回の冒頭注を、また、作者については、私の『柴田宵曲 始動 ~ 妖異博物館 「はしがき」・「化物振舞」』の私の冒頭注を参照されたい。
底本は国立国会図書館デジタルコレクションのこちらを使用した。新字新仮名である。但し、加工データとして、所持する筑摩書房『ちくま文芸文庫』の「奇談異聞辞典」(底本を解題したもの・二〇〇八年刊)を加工データとして使用させて貰った。ここに御礼申し上げる。
読みが振れる、若い読者が躓くかも知れぬ箇所には《 》で読みを添えた。引用文の場合は歴史的仮名遣を用いた。なお、( )は柴田自身が附したルビである。
また、柴田のストイックな編集法を鑑み、私の注は、どうしても必要と判断したもののみとした。幸い、有意な部分は私が既に電子化注したものがあるので、それをリンクさせてもいる。但し、この原本は新字新仮名であるため、私が電子化していない引用文の原本に当たることが出来たものは、極力、視認出来るように、国立国会図書館デジタルコレクションや他のデータベースの当該部をリンクさせるように努めた。
なお、辞典形式であるので、各項目を各個に電子化する。公開は基本、相互の項目に連関性がないものが多いので、一回一項或いは数項程度とする。]
義眼と蜂【いれめとはち】 〔甲子夜話巻四十八〕入れ歯と云ふことは有れど、また入れ眼と云ふことも有りとよ。先年或る歌妓その事を語る。因てその状を尋ぬれば、或家の奥方疾を得て一目眇せり。婦人のことなれば殊に憂へて、眼科に頼んで治療を求めたるに、医とても回復の方なしと云ふゆゑ、奥方ますます悶えて強ひて治療を乞ふ。医さらば入れ目を為んと云ひて、とゝのひたり。その仕方は目匡(まぶた)の間に、仏工の用ゆる玉眼と云ふものを容るゝなり。傍人さへも真の眼と思へり。かの奥方は大いに悦びて、知らぬふりして有りしに、人もまた知るものなし。一日家宴ありて客群坐せしとき、游蜂ありて屋内に入る。坐中皆懼れ動きたるとき、蜂奥方の眼辺に飛ぶ。然るに目曽て逃(まじろ)かず。この時人皆その入れ目たるを知れりとぞ。咲(わら)ふべき話なり。
[やぶちゃん注:事前に「フライング単発 甲子夜話卷之四十八 25 入眼」を電子化し、注もしておいた。]
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