譚海 卷之五 常州磯の浦大荒井明神勝景の事
[やぶちゃん注:句読点・記号を変更・追加した。]
○水戶磯の浦は鹿島の崎と同じく、東海に遠くさし出(いで)たる所也。磯の浦に大荒井明紳と申(まうし)おはします、高き山の上に神社あり。石壇、二、三百階も上(のぼ)りて初めて樓門に至るなり。其石壇、切石にて、たゝみあげたるが、星霜をへて、靑苔(せいたい)、黑く生じ、踏(ふみ)て登るに、滑らかにして、危きほどなり。登りはてて樓門の前より見れば、東海、漫々として、磯の浦の岩石、はるかに、そばたち亂れて、さし(いで)出たる程に、波の打合(うちあふ)さま、岩(いは)ほの、眞黑なるに、波の白く、くだけ寄(より)かへるが、只、此石だんのもとに、波の打(うち)よせるように見えて、言語同斷也。石壇の左右に、老松(おいまつ)、生(はえ)しげりて、みどりを交(まぢ)へたる木(こ)の間(ま)より見れば、おもしろきこと、云(いふ)ばかりなし。鹿島より此邊までに、第一の佳景と稱すべき所也といへり。
[やぶちゃん注:「大荒井明神」茨城県東茨城郡大洗町磯浜町にある現在の大洗磯前(いそさき)神社(グーグル・マップ・データ)。]