譚海 卷之七 江戶中橋五りん町にて石中に玉を得し事 /(フライング公開)
[やぶちゃん注:現在、作業中である柴田宵曲「随筆辞典 奇談異聞篇」のために必要となったので、フライングして電子化する。特異的に句読点・記号の変更・追加と、読みを加え、段落も成形した。]
寬政二年閏二月[やぶちゃん注:一七九〇年三月十六日から四月十三日まで。]、江戶中橋五りん町重兵衞と云ふもの家にて、玉(ぎよく)をとり出(いだ)したる事、有り。[やぶちゃん注:この町名は未だ嘗て聴いたことがない。不詳。]
この重兵衞家に、飯櫃(めしびつ)がたの石、有り。鼠色にて、筋(すぢ)、通りてある石なり。
近所の鮓(すし)作るものの、桶の「おし」になど、かしやり、用なき時は、緣(えん)の下へ、おし入置(いれおき)たる事も、年久敷(としひさしき)事なりしに、其舍弟なる者、徒(いたづら)ものにて、何心なく、眞木割斧(まきわりをの)にて、この石、扣(たた)きたるに、石、二ツに、われて、中に茶碗ほどなる、丸き玉ありしを取出(とりいだ)したるなり。
玉の形は、玉子の色にして、甚(はなはだ)、色も滑らかなる體(てい)なり。
石のわれたるを、みれば、蘊(たくはへ)てありし所は、別に、蠟など、引(ひき)たるやうに、すべらかにして、その圍(まはり)も、滑らかなる石にてありけるとぞ。
やがて、官へ訴へつゝ、此玉をも、さし上(あげ)ける。その後、いかゞ成けん、しらず。
[やぶちゃん注:私は鉱物に疎いので、包んでいた岩石も、中から出た玉石も、何かは指示出来ない。悪しからず。]
« 柴田宵曲「随筆辞典 奇談異聞篇」 「石燈籠の夢」 | トップページ | 柴田宵曲「随筆辞典 奇談異聞篇」 「石の中の玉」 »