フライング単発 甲子夜話卷之二十六 4 神崎の蟒【平戶】
[やぶちゃん注:現在、作業中である柴田宵曲「随筆辞典 奇談異聞篇」のために必要となったので、フライングして電子化する。句読点の変更・追加と、読み・記号・改行・段落を加えた。]
26ー4
平戶神崎(こうざき)の溪間(たにま)に、細竹(ほそだけ)、繁生(はんじやう)せる所あり。
一日(いちじつ)、某士の僕(しもべ)つれだちて、こゝに來り、
「竹を伐(きら)ん。」
とするに、溪そこに、何やらん、大(おほき)なる松の木を、橫たへたる如きもの見ゆ。
あやしく思ひ、山腹の石を轉(ころが)したれば、かの大木(たいぼく)、動きたる故、驚きて、よく視れば、蟒(うはばみ)なり。
僕等(しもべら)、大(おほい)に懼れ、跡をも見ずして、逃げ歸れり。
その大きさ、二尺まはりもありしと云ふ。
また、その邊に漁(すなどり)する蜑(あま)ありしが、或日、舟行(ふなゆき)するあたりを、大魚(たいぎよ)あつて、首を出《いだ》して泳ぎゆくゆゑ、
『鰻(うなぎ)ならん。』
と思ひ、鋒(ほこ)【「鋒」は方言「モリ」。これを擲(なげうち)て魚を刺すの用。手繩あり。數尋(すひろ)なり。】を擲て、これを突(つく)に、その身に中(あた)れりと覺しく、やがて反側(はんそく)して、苦しむ體(てい)なり。
見れば、蟒なり。
蜑、大に怖れ、もりも、手繩も、そのまゝ捨(すて)て逃げ去れりと。
これより後(のち)は、此邊(このあたり)に蟒を見ること、絕えたりとなん。
「思ふに、蟒の、海を渡り、近嶋(ちかきしま)に移り、その處の山に入(いら)んと爲(な)し、中途にて、害に遭ひしなるべし。」
と、人々、云ひあへり。
■やぶちゃんの呟き
「神崎」「フライング単発 甲子夜話卷之二十六 6 平戶の海邊にて脚長を見る事」で注したが、長崎県平戸市大久保町神崎地区であろう。南で薄香湾(うすかわん)を望む。「ひなたGIS」で戦前の地図を見たが、山名はないが、西の岬のピーク『106.1』或いは、『神崎』の地名の南に『97』のピークがあるので、その孰れかであろう。前者か。
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