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2023/08/27

柴田宵曲「随筆辞典 奇談異聞篇」 「大猫の怪」

[やぶちゃん注:本書は昭和三六(一九六一)年一月に東京堂から刊行された。この総題の「随筆辞典」はシリーズ物の一書。本書については、初回の冒頭注を、また、作者については、私の『柴田宵曲 始動 ~ 妖異博物館 「はしがき」・「化物振舞」』の私の冒頭注を参照されたい。

 底本は国立国会図書館デジタルコレクションのこちらを使用した。新字新仮名である。但し、加工データとして、所持する筑摩書房『ちくま文芸文庫』の「奇談異聞辞典」(底本を解題したもの・二〇〇八年刊)を加工データとして使用させて貰った。ここに御礼申し上げる。

 読みが振れる、若い読者が躓くかも知れぬ箇所には《 》で読みを添えた。引用文の場合は歴史的仮名遣を用いた。なお、( )は柴田自身が附したルビである。

 また、柴田のストイックな編集法を鑑み、私の注は、どうしても必要と判断したもののみとした。幸い、有意な部分は私が既に電子化注したものがあるので、それをリンクさせてもいる。但し、この原本は新字新仮名であるため、私が電子化していない引用文の原本に当たることが出来たものは、極力、視認出来るように、国立国会図書館デジタルコレクションや他のデータベースの当該部をリンクさせるように努めた。

 なお、辞典形式であるので、各項目を各個に電子化する。公開は基本、相互の項目に連関性がないものが多いので、一回一項或いは数項程度とする。

 

 大猫の怪【おおねこのかい】 〔醍醐随筆〕美作《みまさか》の国なる士の家に十五六歳なる嫡男有りける。ねやに入りて寝るに、夜半過ぎぬるころ、必ずものに襲はるゆゑにうめき強し。人往きてみれば何もなし。心地はいかにと問へば、老人のむくつけきにくげなるが来て、うへより胸のあたりを押《おさ》ふるに、手足なえて物もいはれずといふ。とぎする者二人三人も添ひ臥しぬればその事なし。独り寝れば必ず襲はるゝなり。主人怒りて、弓馬の家に生まるゝ人は勇を専らとす。汝すでに十五六に及びて、かくつたなく臆しぬれば、我家をつぐ事なるまじ、出家せよとはたる。かの童男この言あくまではづかしく涙落しむ。その夜人を入れず。たゞひとり殊に戸もさゝず、ともしびもかゝげずふし居たる。何にてもあれ、今夜は逃さじと匕首《あひくち》[やぶちゃん注:鍔のない短刀。]を手に持ちながら、きぬかづきてねぶらで待ちぬるに、夜半ころ身もたゆく、心ほれぼれとしてねぶらんとするを、さればこそと思へば、かの老人常の如く胸を押へんとするに、匕首をもてひしと切る。切られてさるとき、従者ども呼びければ、手々《てんで》に燭をさしあげて来《きた》る。血流れて閨《ねや》の中をひたせり。血についてたづねもとむるに、屛風の後《うしろ》に大狗《おほいぬ》ほどの猫ふしたり。肩より腰まで二つに切られて死たりけり。猫もよく化けて人をまどはすものなり。またある家の厠へゆけば、必ず手を出して尻をなづるとて行く人なし。さはあるまじとて試みにゆけば、またなでられて逃げかへる。後によく考へ見れば、厠にすゝき生ひたりけるが、風に吹かれてなびくとき尻をなづるなり。されば世に不思議なる事も皆この理《ことわり》あるなり。この理なければこの事なし。或ひは[やぶちゃん注:ママ。抄録写本(後注参照)は「或は」で問題ない。]附草依木《くさつき、気に依る》怪など、悪気・死気消散せずして暫時奇怪をなすものあれど、妖は虫人興[やぶちゃん注:抄録写本(後注参照)は「山人興」。こちらは「さんじんおこし」か。孰れも意味不詳でどちらが正しいかも判らない。]といひ、見ㇾ怪不ㇾ怪《かいにみゆるも、かいにあらず》その怪自消《おのづからきゆ》といへり。心を悩ますにあらず。〔半日閑話巻十六〕浦賀奉行内藤外記、八月中旬頃台所向《だいどころむき》へ何の獣とも知れざるもの出《いで》て飯を喰《くら》ひ、或ひは[やぶちゃん注:ママ。]魚などとり喰ひ、中番[やぶちゃん注:一日の勤務・作業などが交替制で行なわれる場合の、中ほどの番。勝手向きのその差配担当者。]などを化かし、或時は奥方納戸に居られし処、奥方の名を呼びしゆゑ、障子を明け見られしに何も居らず、障子を立て置き候処、また呼びしゆゑ気味悪くなり、人を呼び尋ねし処、一同何もなく、右の類《たぐゐ》数度《すど》に及びしゆゑ、内藤下知して落しをかけ置かれしに、或夜右の落しへ何とも知れざるもの掛りしゆゑ、近習右の趣を申せしかば、落し共《とも》に取寄せ、大方狸なるべしとて、色々に落しを見られしかども、中闇《くら》きゆゑ何の獣とも知れず。依ㇾ之《これによりて》中番に申付け、引出《ひきいだ》させしに、画《ゑ》に書きし虎に少しも違《たが》はざる大猫にて、しらふ[やぶちゃん注:「白斑」。白い斑点。]等も虎の如くなり。さてさて珍しき猫なりとて縲(しば)り置かるゝり置かるゝに、右の沙汰専ら致せしにや、土岐山城守より使者を以て、先年山城守在所へ参り候節、道中にて貰ひ秘蔵致し飼ひ置きし猫を預るもの取逃《とりにが》せし処、この方様《はうさま》にてとらへなされ候由承り申候、何卒御返し下され候様願ひ奉り候、殊に山城守大坂在番中にては有ㇾ之、預りの者迷惑致し候間、何分願ひ奉り候由、口上を以て申入れけれども、もしや山師等承り、似せを以て申入るだも知れざるゆゑ、断りを申し返せし処、また候《ぞろ》使者参り、先年取逃せし節、漸々《やうやう》親類衆を頼み貰ひし間、少しも相違無レ之、若《もし》し危《あやう》く思召し候はゞ、この親類衆へ御聞合せ下さるべき由にて、五人の名前を書付に致し持参の内に、阿部備中守殿など名前ありし由なり。さてさて珍しき事なり。猫名まみといふ。その後返されしや否をいまだ聞かず。もつとも内藤氏直咄《ぢきばな》しなり。

[やぶちゃん注:前者の「醍醐随筆」は大和国の医師・儒者中山三柳の随筆。初版は寛文一〇(一六七〇)年(徳川家綱の治世)。国立国会図書館デジタルコレクションの『杏林叢書』第三輯(富士川游等編・大正一三(一九三八)年吐鳳堂書店刊)のこちらで正字版の当該部を視認出来る(但し、この底本は文化年間(一八〇四年~一八一八年:徳川家斉の治世)の抄録写本底本である)。

「美作国」とは、現在でいう美作市・勝央町・奈義町・美咲町・津山市・鏡野町・真庭市・新庄村・西粟倉村・久米南町を含む岡山県北のエリア。

 後者の「半日閑話」「青山妖婆」で既出既注。国立国会図書館デジタルコレクションの『日本隨筆全集』第四巻(昭和二(一九二七)年国民図書刊)のここで当該部が正字で視認出来る。標題は「○土岐山城守の大猫」。]

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