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2023/09/04

柴田宵曲「随筆辞典 奇談異聞篇」 「鬼の面」

[やぶちゃん注:本書は昭和三六(一九六一)年一月に東京堂から刊行された。この総題の「随筆辞典」はシリーズ物の一書。本書については、初回の冒頭注を、また、作者については、私の『柴田宵曲 始動 ~ 妖異博物館 「はしがき」・「化物振舞」』の私の冒頭注を参照されたい。

 底本は国立国会図書館デジタルコレクションのこちらを使用した。新字新仮名である。但し、加工データとして、所持する筑摩書房『ちくま文芸文庫』の「奇談異聞辞典」(底本を解題したもの・二〇〇八年刊)を加工データとして使用させて貰った。ここに御礼申し上げる。

 読みが振れる、若い読者が躓くかも知れぬ箇所には《 》で読みを添えた。引用文の場合は歴史的仮名遣を用いた。なお、( )は柴田自身が附したルビである。

 また、柴田のストイックな編集法を鑑み、私の注は、どうしても必要と判断したもののみとした。幸い、有意な部分は私が既に電子化注したものがあるので、それをリンクさせてもいる。但し、この原本は新字新仮名であるため、私が電子化していない引用文の原本に当たることが出来たものは、極力、視認出来るように、国立国会図書館デジタルコレクションや他のデータベースの当該部をリンクさせるように努めた。

 なお、辞典形式であるので、各項目を各個に電子化する。公開は基本、相互の項目に連関性がないものが多いので、一回一項或いは数項程度とする。

 

鬼の面【おのにめん】 〔雲萍雑志巻一〕羯摩乗親《かつまのりちか》は、きはめて面打《めんうち》の上手なりけれども、ひとヽせに一つは打たず。性《せい》、酒を好みて、酔《えひ》て舞ふことを楽しむ。ある折《をり》から老母のいへりけるは、はや米の櫃《ひつ》には蜘《くも》の巣をかけたり、勤めて打つベきにやと責めければ、乗親おどろきて、さあらば今日《けふ》よりして、懈《おこた》らず打つべきなりとて籠りけるが、四五日を経て、面打ちてあつらへたるかたへ持《もち》行き、料《れう》を持ちかへりて、母にわたしければ、母よろこびていへるは、多くの金子を得しは、面いくつ持ちたるや[やぶちゃん注:後に示した活字本では、『打(うち)たるや』である。]と問ふに、八《や》おもて打ちたり、されども心にかなはざるが、その中《うち》に七面《しちめん》あれば、みな家に残せりとて、取り出し見せたり。鬼女《きぢよ》の仮面《めん》[やぶちゃん注:二字への読み。]なりければ、見るさへ恐ろしとて傍《かたはら》におきけり。その夜、盗人《ぬすびと》入りて、親子臥したるを伺ふを見て、母かの鬼面を顔におほひて、眼《め》の穴より見ながら、やよ盗人の入りたるぞ、乗親おきよといひけるを、盗人見て、あ[やぶちゃん注:驚愕のそれ。]とさけび驚き、いづくともなく逃失《にげうせ》せぬとぞ。

[やぶちゃん注:「雲萍雑志」

「雲萍雑志」江戸中期の和漢混交文の随筆。四巻四冊。天保一三(一八四二)年に江戸で板行された。文雅人柳沢淇園(きえん:好んだ唐風名は柳里恭(りゅうりきょう))の随筆とされ、明治以来、翻刻も多いが、作者については、なお、疑問が残る。内容は、作者が日常的に聞き及んだ志士・仁人の言行逸話、自家の経歴などを記して興趣に富むが、全体に道徳臭が強く、粋人淇園の面影は見い出せない。序文に、淇園の二十巻に及ぶ原稿を大坂の木村蒹葭堂(けんかどう)が珍蔵し、桃花園某がそれを抜粋、四巻に纏めて成ったことを記してあるが、桃花園及び出版に関係した江戸の雑学者山崎美成(よししげ)が、淇園の名声に付会した偽作であろうとされる(小学館「日本大百科全書」に拠った)。国立国会図書館デジタルコレクションの「名家漫筆集」 『帝國文庫』第二十三篇(長谷川天渓校訂・昭和四(一九二九)年博文館刊)のこちらで当該部が正規表現で視認出来る(巻之一の掉尾)。読みは、それに拠った。

「羯摩乗親」不詳。]

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