フライング単発 甲子夜話卷之十 31 蚊、打皷を妨る事
[やぶちゃん注:現在、作業中である柴田宵曲「随筆辞典 奇談異聞篇」のために必要となったので、フライングして電子化する。句読点の変更・追加と、読み・記号・改行・段落を加えた。標題の「妨る」は「さまたぐる」。]
10―31
觀世新九郞、言(いひ)しは、
「蚊は、小蟲なれども、伶俐なるものなり。夏、夜に、皷(づづみ)を打(うつ)とき、しらべを握りたる方(かた)の手にとまらず、打手(うちて)の方にとまりて、血を吸ふ。握りたる手にとまりては、打手にて、うたるゝ慮(おもんぱか)り有るかと思はるゝ。」
新九郞、その業(わざ)の者にて、
「年來(としごろ)、經驗するに、替らず。」
と云ふ。
■やぶちゃんの呟き
「皷」は底本では「鼓」であるが、江戸期の書を見ると、「皷」と書くケースがしばしば見られるため、敢えてこれに代えた。
「しらべ」「調べ」。邦楽用語。動詞「調ぶ」の名詞形で、日本の伝統音楽に於いて、「演奏する」・「調律する」・「試奏する」などの意味を持っている。小鼓は、左手で持って、右肩に置くが、左手は単に支えるだけではなく、緒(お)を絞めたり、緩めたりして、調子に変化を加えて、右手で打ち鳴らす。
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