柴田宵曲「随筆辞典 奇談異聞篇」 「紀州屋敷怪談」
[やぶちゃん注:本書は昭和三六(一九六一)年一月に東京堂から刊行された。この総題の「随筆辞典」はシリーズ物の一書。本書については、初回の冒頭注を、また、作者については、私の『柴田宵曲 始動 ~ 妖異博物館 「はしがき」・「化物振舞」』の私の冒頭注を参照されたい。
底本は国立国会図書館デジタルコレクションのこちらを使用した。新字新仮名である。但し、加工データとして、所持する筑摩書房『ちくま文芸文庫』の「奇談異聞辞典」(底本を解題したもの・二〇〇八年刊)を加工データとして使用させて貰った。ここに御礼申し上げる。
読みが振れる、若い読者が躓くかも知れぬ箇所には《 》で読みを添えた。引用文の場合は歴史的仮名遣を用いた。なお、( )は柴田自身が附したルビである。
また、柴田のストイックな編集法を鑑み、私の注は、どうしても必要と判断したもののみとした。幸い、有意な部分は私が既に電子化注したものがあるので、それをリンクさせてもいる。但し、この原本は新字新仮名であるため、私が電子化していない引用文の原本に当たることが出来たものは、極力、視認出来るように、国立国会図書館デジタルコレクションや他のデータベースの当該部をリンクさせるように努めた。
なお、辞典形式であるので、各項目を各個に電子化する。公開は基本、相互の項目に連関性がないものが多いので、一回一項或いは数項程度とする。]
紀州屋敷怪談【きしゅうやしきかいだん】 〔半日閑話巻十五〕文化十三子年七月下旬頃、咄しに承り候へば、喰違《くひちがひ》紀州御屋鋪内御門《うちごもん》にて、或時詰居候《つめをりさふらふ》門番、ふと咽《のど》をつき[やぶちゃん注:「咽喉の具合が悪くなり」の意か。]候ゆゑ、次の間へ出で湯をのみ候処、いづこよりか女出て、肩を喰ひ付き死す。この声に驚き、両人右の処へ出《いづ》れば、この者もその女の為に喰殺《くひころ》さるとぞ。その後また御長屋にて子供を枕蚊屋《まくらがや》の内へ休ませ置きし処、その行処《ゆくゑ》を不ㇾ知《しれず》失せたり。蚊屋はその儘にて少々も破れも不ㇾ見《みえず》、依《よつ》て夫婦驚き早々探しけれども不ㇾ知、翌日隣家縁の下より、右の子供死骸出《いづ》ると、隣家の者物語りしよし、秋田源八郎語ㇾ之《これをかたる》。
[やぶちゃん注:「半日閑話」「青山妖婆」で既出既注。国立国会図書館デジタルコレクションの『日本隨筆全集』第四巻(昭和二(一九二七)年国民図書刊)のここで当該部が正字で視認出来る。標題はそのままで『○紀州屋敷怪談』である。
「喰違」塀が、一続きでなく、互い違いになるように作ってあることを言うが、ここはは、江戸城外郭城門の一つである四谷門と赤坂門との間にあった喰違門(くいちがいもん)。清水坂から紀州家中屋敷に行く喰違土手の前に当たることからの名であるとされる。
「紀州御屋鋪」紀伊和歌山藩徳川上家屋敷跡は現在の東京都千代田区紀尾井町にあった。千代田区観光協会のサイトのここで位置が確認出来る。
「内御門」屋敷内にも門があり、そこに番人を置いた長屋門であろう。
「枕蚊屋」子どもなどの枕元を覆う小さい蚊屋。]
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