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2023/09/21

フライング単発 甲子夜話卷之十二 4 筑後の八女津媛の事幷神女の事

[やぶちゃん注:現在、作業中である柴田宵曲「随筆辞典 奇談異聞篇」のために必要となったので、フライングして電子化する。句読点の変更・追加と、読み・記号・改行・段落を加えた。標題の「幷」の字配は正確には、「筑後の八女津媛(やとめつひめ)の事幷(ならびに)神女(しんによ/じんによ)の事」である。カタカナの読みは静山が附したもの(特異的に多い)。漢文脈は読みと送りがなを総てカタカナにしてあるので、読み相当と判断した箇所は( )で囲んだ。なお、後に〔 〕で訓読文(一部の読みは推定)を配した。]

 

12―4

 或(ある)人の曰(いはく)、

「三十五、六年前、柳川侯【筑後の領主。】の公族大夫(たいふ)に立花某と云ふあり。その領せる所を「矢部(ヤベ)」と云ふ。この地、古(いにしへ)は「八女縣(ヤメノあがた)」と云(いひ)しなり。又、八女國(ヤメノくに)とも云しこと、「日本紀」に見ゆ。其山は、侯の居城の後(うしろ)まで、はびこりし高山(たかやま)と云ふ。

 或日、大夫の臣某(なにがし)、山狩に鳥銃(てつぱう)を持(もち)、拂曉(ふつぎやう)に往(ゆき)しに、常に行馴(ゆきなれ)たる路、殊の外に、異香(いかう)、薰じたれば、怪しみながら、向(むかふ)さして行(ゆく)ほどに、丈(たけ)計(ばかり)も生立(おいたち)たる茅原(かやはら)の、人もなきに、左右へ、自(おのづか)ら分れ、何か、推分(おしわけ)て、山を下るさまなれば、傍(かた)へに寄りて、これを避(さく)るに、人は無くて、地を離るゝこと、八、九尺と覺しきに、端嚴微妙、誠に繪がけるが如き天女の、袖、ふき返しながら、麓をさして來(きた)るなり。

 因(よつ)て、駭(おどろ)き、鳥銃(てつぱう)を僵(たふ)し、平伏してありしが、やがて、

『一町も過(すぎ)たり。』

と覺しき頃、人心地(ひとごこち)つきて、山に入り、狩りくらしたれど、一物をも獲(え)ずして、復(また)、もとの路に囘るに、麓の方(かた)より、また、茅(かや)、左右に偃(ふし)て、今朝(けさ)のさまなれば、路傍に、片寄り、避(さけ)てあるに、かの天女は、奧山さして、還り入りぬ。

「人々、奇異の思ひをなしたり。」

となり。

 また、彼《かの》藩の臼井省吾と云(いひ)しは、博覽の士なりしが、是(これ)を聞きて、

「それぞ、「日本紀」に見ゆる、筑紫後(ノチノシリノ)國の八女縣(ヤメノあがた)の山中に在(ま)すと云《いふ》、「八女津媛(ヤトメツヒメ)」ならんに、今に至《いたり》て、尙、其神靈あることなるベし。「景行紀」〔「景行紀」に云はく〕、

『十八年秋七月辛卯朔甲午【四日也。】)、到筑紫(シリ)ノ國御木タマフ於高田行宮(カリノミヤ)ニ。丁酉【七日也。】到ル八女(ヤメ)ノ。則越前山以テ南望ミタマヒ[やぶちゃん注:最は底本(東洋文庫)では『ノ』とあるが、送りがなとして読めない。これは誤植と断じて「粟」の下に移した。](サキ)ヲ、詔シテㇾ之、其山峰岫重疊シテ、且美麗之(ノ)シキ。若クハ神有其山(カ)ト。時水沼(ミヌマ)ノ縣主猿大海(サルオホミ)。有女神、名八女津媛(ヤトメツヒメ)ト、常レリ山中。故八女(ヤメ)ノ國之(ノ)名由ㇾ此レリ也。』。〔十八年の秋七月辛卯(かのとう)朔(ついたち)甲午(かのえうま)【四日なり。】)、筑紫(つくし)の後國(しりのくに)の御木(みけ)に到り、高田の行宮(かりのみや)に居(まし)たまふ。丁酉(ひのととり)【七日なり。】八女(やめ)の縣(あがた)に到る。則ち、前山(まへやま)を越(こえ)て、以(もつ)て、南のかた、粟の岬(さき)を望みたまひ、之(これ)に詔(みことのり)して、曰く、「其(その)山、峰岫(みねくき)、重疊(ちようでふ)して、且つ、美麗の甚しき。若(もし)くは、神其(その)山に有るか。」と。時に水沼(みぬま)の縣主(あがたぬし)「猿大海(さるおほみ)」、奏(そうし)て言ふ。「女神、有り。名を『八女津媛(やとめつひめ)』と曰ふ。常に山中に居(を)れり。故に『八女(やめ)の國』の名、此(ここ)に由(よ)り起れり。」。〕

是を證すべし。」。

 又、八、九十年にも過(すぎ)ん。予が中(うち)に、大館逸平と云(いヘ)る豪氣の士あり。

 常に殺生を好み、神崎(かんざき)と云ふ處の【平戶の地名。】山谿(さんこく)に赴き、「にた待ち」とて、鹿猿の澗泉(かんせん)に群飮(ぐんいん)するを、鳥銃(てつぱう)を以て、打(うた)んとす。

 此わざは、いつも、深夜のことにして、時は、十五日なるに、折しも、風靜(しづまり)月晴(はれ)、天色、淸潔なりしが、

『夜半にも過ぎん。』

と覺しきに、遙(はるか)に、歌うたふ聲、きこへ[やぶちゃん注:ママ。]ければ、

『かゝる山奧、且(かつ)、深夜、怪しきこと。』

と思ふうちに、近く聞こゆるゆゑ、空を仰ぎ見たれば、天女なるべし、端麗なる婦人の、空中を、步み、來れり。

 その歌は、

「吹けや松風 おろせや簾」

とぞ、聞えける。

 逸平、卽ち、

『鳥銃にて打(うた)ん。』

と思(おもひ)たるが、流石の剛强者も、畏懼(ゐく)の心、生じ、これを僵(たふし)て居たれば、天女、空中にて、

「善き了見々々。」[やぶちゃん注:繰り返し記号は前の全体「善き了見」を売り返すものと読む。]

と、言ひて、行過(ゆきすぎ)し、となり。

 是らも、彼(か)の八女津媛(ヤトノツひめ)の肥(ひ)の國まで遊行(ゆぎやう)せらるゝものか。

 又、前の逸平の、相識(あひしれ)る獵夫(れうふ)も、平戶嶋、志自岐(しじき)神社の近地(ちかきち)の野徑(のみち)を、深夜に往行(わうかう)せしに、折から、月光も薄く、時は丑の刻計(ばかり)なるに、衣裳、鮮明にして、容貌、正しき、婦人に、逢ひたり。

 獵夫、乃(すなは)ち、

『これを、斬(きら)ん。』

と思ひたるが、頻りに、懼心(くしん)、生じ、刀を拔(ぬき)得ずして過(すご)したり。

「是より、深夜に山谷(さんこく)をば、行くまじ。」

と云(いひ)しと、語(かたり)傳ふ。

 亦、かの神、遊行の類(たぐひ)か。

■やぶちゃんの呟き

「大夫(たいふ)」五位を受けた者。

「矢部(ヤベ)」現在の福岡県八女(やめ)市矢部村矢部附近か(グーグル・マップ・データ)。

「侯の居城」頭に「柳川侯」とあるので、柳川藩の柳川城跡。八女市からは、かなり隔たるが、グーグル・マップ・データ航空写真を見ると、八女市の東の山塊の南西部が、この城の東近くにまで迫っているのが判る。

「一町」百九メートル。

「御木(みけ)」「高田の行宮(かりのみや)」現在の福岡県大牟田市三池のここに比定されている。

「粟の岬(さき)」福岡県大牟田市岬(みさき)のこの附近(グーグル・マップ・データ)に比定する説がある。

「神崎(かんざき)」佐賀県神埼(かんざき)市神埼町(かんざきまち:グーグル・マップ・データ)。鎌倉時代より前は皇室領荘園であった。

「にた待ち」この「にた」は猪の泥浴びで知られる「ヌタ場」のことであろう。湿地や水溜まりで、獣が来て、体をこすり付ける場所。寄生虫やダニなどを除去したり、体温を下げるために行うものと考えられている。私は猪以外に熊がそれをするのを、ごく最近、TVで見たことがある。

 

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