柴田宵曲「随筆辞典 奇談異聞篇」 「合羽神」
[やぶちゃん注:本書は昭和三六(一九六一)年一月に東京堂から刊行された。この総題の「随筆辞典」はシリーズ物の一書。本書については、初回の冒頭注を、また、作者については、私の『柴田宵曲 始動 ~ 妖異博物館 「はしがき」・「化物振舞」』の私の冒頭注を参照されたい。
底本は国立国会図書館デジタルコレクションのこちらを使用した。新字新仮名である。但し、加工データとして、所持する筑摩書房『ちくま文芸文庫』の「奇談異聞辞典」(底本を解題したもの・二〇〇八年刊)を加工データとして使用させて貰った。ここに御礼申し上げる。
読みが振れる、若い読者が躓くかも知れぬ箇所には《 》で読みを添えた。引用文の場合は歴史的仮名遣を用いた。なお、( )は柴田自身が附したルビである。
また、柴田のストイックな編集法を鑑み、私の注は、どうしても必要と判断したもののみとした。幸い、有意な部分は私が既に電子化注したものがあるので、それをリンクさせてもいる。但し、この原本は新字新仮名であるため、私が電子化していない引用文の原本に当たることが出来たものは、極力、視認出来るように、国立国会図書館デジタルコレクションや他のデータベースの当該部をリンクさせるように努めた。
なお、辞典形式であるので、各項目を各個に電子化する。公開は基本、相互の項目に連関性がないものが多いので、一回一項或いは数項程度とする。]
合羽神【かっぱじん】 〔奥州波奈志〕在所中新田といふ所に合羽神とせうする社《やしろ》有り。みたらしめきて池の如くなるもの有り。いかなる晴天つゞきてもかるるとなし。それより用水の堀つゞきて有りし。この家人なる細産甚之丞と云ひしもの、十七八の時分、下町の若き者両人と同じく水をあみて、用水堀をくゞりくらして有りしに、三人同じくくゞりしが、いつのほどにや水無き所に出たりしに、きれいなる家居有りて、内にはた織る音の聞えしかば、いぶかり思ひて、爰はいづくぞとうちなる人に問ひしかば、爰は人の来る所ならず、早く帰れと答へし故、驚きさらんちせしかば、呼びとゞめて、こゝに来りしといふことを、三年過ぎぬうちは人に語るべからず、身に禍ひあらんと教へたり。いよいよ恐れて去りしが、またもとの用水堀に出たりき。この往来の間、いつもおぼえずなりて有りしとぞ。さるを町のもの壱人、その年の内に酒に酔ひて語り出たりしが、ほどなく死《しし》たりしかば、これにみごりやしたりけん、甚之丞は一生語らざりし。
[やぶちゃん注:私の只野真葛の「奥州ばなし かつは神」を見られたい。只野眞葛の「奥州ばなし」(附・曲亭馬琴註/私のオリジナル注附き・縦書(ルビ附)一括全篇PDF版)もサイトで公開してある。]
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