譚海 卷之六 遠州櫻ケ池大蛇の事(フライング公開)
[やぶちゃん注:現在、作業中である柴田宵曲「随筆辞典 奇談異聞篇」のために必要となったので、フライングして電子化する。特異的に句読点・記号の変更・追加と、読みを加え、段落も成形した。]
○遠州櫻が池は、東海道袋井宿の北海邊、近處に有(あり)。
每年、秋の彼岸の中日に、祭禮とて、村民、赤飯を拵(こしら)へ、箱にをさめ、牢(かた)く封じて持行(もちゆき)、その所の山伏に賴(たのみ)て池の神に供(きやう)しもらふ。山伏、其箱を、あまた、船につみのせてこぎ出(いで)、池の中心にいたつて、棹をとゞめ、箱どもを、水底へ押入(おしいる)るに、すべて、浮ぶ事、なし。二、三日有(あり)て、其沈みたる箱、おのづから、浮上(うかびあが)るを見れば、皆、もとの如くにして、箱の内に納(をさめ)たる赤飯は、むなしくなく成(なり)てあり、人々、不思議とする事也。
「この池の神、大蛇なる。」
よしを云(いふ)。
又、或說には、圓光大師の師の房、こゝに水定(すいぢやう)して、池の主(ぬし)と成(なり)たる事、大師の夢に告(つげ)ありければ、大師、こゝにくだりて、誦經(ずきやう)とぶらひありしかば、其房の靈、善果(ぜんくわ)をえられし事、と、いへり。
よく、世にしりていふ事也。
[やぶちゃん注:私の「諸國里人談卷之四 櫻が池」を参照されたい。
「圓光大師の師の房」「圓光大師」は浄土宗宗祖法然の諡(おくりな)。「師の房」前のリンク先の「阿闍梨皇圓」のこと。私の注を見られたい。
「水定」水界に身を投じて即身成仏すること。
「誦經」経文をそらで覚えて唱えること。]
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