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2023/10/29

「博物誌」ルナアル作・岸田國士譯(正規表現版・ボナール挿絵+オリジナル新補注+原文) 「七面鳥」

「博物誌」ルナアル作・岸田國士譯(正規表現版・ボナール挿絵+オリジナル新補注+原文) 「鵞鳥」

[やぶちゃん注:本電子化はサイトの「心朽窩新館」で偏愛する『ジュール・ルナール「博物誌」岸田国士訳(附 Jules Renard “ Histoires Naturelles ”原文+やぶちゃん補注版)』を公開している(新字新仮名戦後版)が、今回は国立国会図書館デジタルコレクションの正字正仮名のもの、戦前の岸田國士譯ジュウル・ルナアル 「博物誌」(昭一四(一九三九)年白水社刊)の画像(リンク先は当該書の標題附き扉二)を視認出来るようになったことから、それをブログ版として、新規まき直しで、零から始めることとしたものである。詳しくは初回の冒頭注を参照されたい。

 また、ボナールの画像に就いては、十六年前のそれではなく、再度、新潮文庫版のそれを、新たにOCRで読み込み、補正・清拭して用いる。注も一からやり直すこととし、原文は前回のものを調べたところ、アクサンテギュの落ちが有意に認められたので(サイト版は敢えてそのままにしておいた)、新たにフランスのサイト“TEXTES LIBRES”の電子化された同書原文のものをコピー・ペーストさせて戴くこととすることとした。

 

 

    

 


Sitimentyou1

 

     

 

 

 彼女は庭の眞ん中を氣取つて步き廻る。恰も帝政時代の暮しでもしてゐるやうだ。

 ほかの鳥たちは、暇さへあれば、めつたやたらに、喰つてばかりゐる。ところが、彼女はちやんと決まつた時間に食事をとるほかは、絕えず姿を立派に見せることに浮身をやつしてゐる。羽根には全部糊がつけてある。そして尖つた翼の先で地面に筋を引く、自分の通る道をちゃんと描(か)いておくやうだ。彼女は必ずその道を進み、決してわきへは行かない。

 彼女はあんまりいつも反(そ)り身になつてゐるので、自分の脚といふものを見たことがない。

 彼女は決して人を疑はない。で、私がそばに寄つて行くと、早速もう自分に敬意を表しに來てくれたつもりでゐる。

 もう、彼女は得意そうに喉をぐうぐう鳴らしてゐる。

 「畏れながら七面鳥の君」と私は彼女に云ふ。「君がもし鵞鳥か何かだつたら、僕もビュフォンがしたやうに君の讃辭を書くところさ、君のその羽根を一枚拜借してね。ところが、君はただの七面鳥にすぎないんだ。」

 きつと私の云ひ方が氣に障つたに違ひない。彼女の頭にはかつと血がのぼる。嘴のところに癇癪の皺が垂れさがる。彼女は今にも眞つ赤に怒り出しさうになる。で、その尾羽根の扇子をばさりと一つ鳴らすと、この氣むづかしやの婆さんは、くるりと向ふをむいてしまふ。

 

Sitimentyou2

 

      

 

 道の上に、またも七面鳥學校の寄宿生たち。

 每日、天氣がどうであらうと、彼女らは散步に出かける。

 彼女らは雨を恐れない。どんな女も七面鳥ほど上手に裾はまくれまい。また、日光も恐れない。七面鳥は日傘を持たずに出かけるなんていふことはない。

 

[やぶちゃん注:鳥綱キジ目キジ科シチメンチョウ亜科シチメンチョウ属シチメンチョウMeleagris gallopavoなお、一貫して「彼女」とあるが、ここでルナールの記す dinde は、特にシチメンチョウの♀を指す女性名詞である。しかし、所謂、我々が通常、想起する形象はシチメンチョウの♂であり、フランス語では別に“dindon”の語で表わす。標題の後に掲げた挿絵は、の絵であり、は最後に掲げたものがそれである。所謂、性的二型である。なお、本篇の「二」は、二年先行する『ジュウル・ルナアル「ぶどう畑のぶどう作り」附 やぶちゃん補注』の中に同じものがある。

「帝政時代」所謂、「アンシャン・レジーム」( Ancien régime :「古い体制」)。「フランス革命」以前のブルボン朝、特に十六~十八世紀のフランスの絶対王政期の社会・政治体制を指す。

「君がもし鵞鳥か何かだつたら、僕もビュフォンがしたやうに君の讃辭を書くところさ、君のその羽根を一枚拜借してね。」岩波文庫版の辻昶氏の注に、『昔はがちょう』(先行する「鵞鳥」である)『の羽の軸の先で「鵞(が)ペン」を作った』とある。

「ビュフォン」フランスの博物学者(数学者・植物学者)ビュフォン伯ジョルジュ=ルイ・ルクレール(Georges-Louis Leclerc, Comte de Buffon 一七〇七年~一七八八年)。当該ウィキによれば、一七四九年から一七七八年までに三十六巻が『刊行され、ビュフォン没後にラセペードによって』八『巻が追加された』「一般と個別の博物誌」( Histoire naturelle, generale et particuliere )の『著者としても著名である。これはベストセラーとなり、博物学や科学思想の発展に影響を及ばした』とあるのを指すと考えてよい。

「君はただの七面鳥にすぎないんだ」同前で辻氏は、ここに注して、『七面鳥というフランス語「ダーンド」には、「ばかな女」という意味もある』とある。所持する日仏辞書で引くと、“ dinde ”には俗語で『間抜けな女』と、形容詞で『間の抜けた』とあり、また、“dindon”には同じく『間抜けな男』、成句で『だまされる』、『人の物笑いになる』という意があった。]

 

 

DINDES

 

I

Elle se pavane au milieu de la cour, comme si elle vivait sous l'Ancien Régime.

Les autres volailles ne font que manger toujours, n'importe quoi. Elle, entre ses repas réguliers, ne se préoccupe que d'avoir bel air. Toutes ses plumes sont empesées et les pointes de ses ailes raient le sol, comme pour tracer la route qu'elle suit : c'est là qu'elle s'avance et non ailleurs.

Elle se rengorge tant qu'elle ne voit jamais ses pattes.

Elle ne doute de personne, et, dès que je m'approche, elle s'imagine que je veux lui rendre mes hommages.

Déjà elle glougloute d'orgueil.

- Noble dinde, lui dis-je, si vous étiez une oie, j'écrirais votre éloge, comme le fit Buffon, avec une de vos plumes. Mais vous n'êtes qu'une dinde...

J'ai dû la vexer, car le sang monte à sa tête. Des grappes de colère lui pendent au bec. Elle a une crise de rouge. Elle fait claquer d'un coup sec l'éventail de sa queue et cette vieille chipie me tourne le dos.

 

 

II

Sur la route, voici encore le pensionnat des dindes.

Chaque jour, quelque temps qu'il fasse, elles se promènent.

Elles ne craignent ni la pluie, personne ne se retrousse mieux qu'une dinde, ni le soleil, une dinde ne sort jamais sans son ombrelle.

 

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