フライング単発 甲子夜話卷之五十二 15 毛を雨(あめふら)す
[やぶちゃん注:現在、作業中である柴田宵曲「随筆辞典 奇談異聞篇」のために必要となったので、フライングして電子化する。句読点の変更・追加と、読み・記号・改行・段落を加えた。目録の標題にはㇾ点はないが、上記ブログ標題では、かく、読んでおいた。]
52―15 雨ス毛ヲ
八月十四日には、風雨、烈しく、處々に出水(でみづ)したり。
後に聞けば、
「毛を、降らせし。」
と云ふ。
「その狀(かたち)、三、四寸なるも有り。」
亦、
「短かきも、有りし。」
と、人々、語れり。予、
「怪か。」
と問ひたれば、林氏、云ふ。
「陰氣の形を爲(な)したる者にて、獸毛(じうまう)には非ざるべし。」
と。
また、後に、「怪異辨斷」【西川如見著。】を披閱すれば、『中華・日本の南方に當りて、無量の大國あり。その鳥、空中を往來す。不可知(しるべからず)。豈(あに)、妖ならんや。』と。
然れば、鳥毛(うまう)の降れるなり【前書を按ずるに、『傳(つたえ)聞く、西南の蠻夷に、大國、甚だ、多し。其國、大鳥(おほとり)の羽毛、畜獸(ちくじう)の毛に似たる者、多く、有ㇾ之(これあり)。未(いまだ)、日本・中華に於て、無ㇾ之(これなき)處(ところ)の者也。その鳥、數(す)千百、群れ飛んで、遠く、山海(さんかい)を往來するに、如何なる故にや、其翼下(よくか)の毳毛(ぜいまう)[やぶちゃん注:細かく柔らかい毛。以下の活字本では『セイマウ』と振っている。]を落す事あり。其毛、風氣《ふうき》に乘じて、遠く降(くだ)れるを「雨毛(けをあめふらす))[やぶちゃん注:細かな雨を降らす。]」と云(いへ)り』。】。
■やぶちゃんの呟き
これって、一頃、UFO地球外生命体の乗物と肯定する者(私も高校時代まではその一人であった。研究会も作った)の間で流行った、「エンゼル・ヘア」(Angel Hair)かいな? 一九五二年、天使の髪が空から漂い、フランスの町オロロン(私は十代の前半に読んだUFO研究書では、この地名の方をよく覚えている)とガイヤックに落ちたとされる。サイト「WordsSideKick.com」の「フランス、オロロンのエンジェルヘアufo」を読まれたい。一方、それより前のポルトガルの「ファティマの奇跡」の際にもこれが降ったとも言われる。また、ブログ「珍奇ノート」の「エンゼル・ヘア ― UFOとともに現れる繊維状の謎の物体 ―」もよいが、何より、「Yahoo! Japan 知恵袋」のこちらの「エンゼル・ヘア」への質問で「ベストアンサー」とされた「笑われ男さん」の記事がコンパクトながら、よくフラットなデータとしてよく纏まっていると思う。なお、英文ウィキの当該記事もよく書けている。
「八月十四日」本篇の前後では、年を特定出来ない。
「怪異辨斷」「西川如見著」西川如見(にしかわじょけん 慶安元(一六四八)年~享保九(一七二四)年)はの天文暦算(れきさん)家。肥前国の人。本名は忠英。天文・地理・暦学・博物学など、広く研究した。儒教的自然観と実証主義的立場を調和させ、漢洋知識の折衷をはかった。著に「華夷通商考」などがある(小学館「日本国語大辞典」に拠った)。国立国会図書館デジタルコレクションの『西川如見遺書』第五編「怪異断弁」(全八巻)・西川忠亮明治三二(一八九九)年出版)のここの左丁から、次のコマにかけて、書かれてある。
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