柴田宵曲「随筆辞典 奇談異聞篇」 「巨鐘を動かす」

［やぶちゃん注：本書は昭和三六（一九六一）年一月に東京堂から刊行された。この総題の「随筆辞典」はシリーズ物の一書。本書については、初回の冒頭注を、また、作者については、私の『柴田宵曲　始動　～　妖異博物館　「はしがき」・「化物振舞」』の私の冒頭注を参照されたい。

　底本は国立国会図書館デジタルコレクションのこちらを使用した。新字新仮名である。但し、加工データとして、所持する筑摩書房『ちくま文芸文庫』の「奇談異聞辞典」（底本を解題したもの・二〇〇八年刊）を加工データとして使用させて貰った。ここに御礼申し上げる。

　読みが振れる、若い読者が躓くかも知れぬ箇所には《　》で読みを添えた。引用文の場合は歴史的仮名遣を用いた。なお、（　）は柴田自身が附したルビである。

　また、柴田のストイックな編集法を鑑み、私の注は、どうしても必要と判断したもののみとした。幸い、有意な部分は私が既に電子化注したものがあるので、それをリンクさせてもいる。但し、この原本は新字新仮名であるため、私が電子化していない引用文の原本に当たることが出来たものは、極力、視認出来るように、国立国会図書館デジタルコレクションや他のデータベースの当該部をリンクさせるように努めた。

　なお、辞典形式であるので、各項目を各個に電子化する。公開は基本、相互の項目に連関性がないものが多いので、一回一項或いは数項程度とする。］

　巨鐘を動かす討こ勁　〔甲子夜話^巻二〕淇園先生の門人（名忘）或日一人言ふ。大仏殿の巨鐘も一人にて動かすべしと。一人は巨鐘決して動くべからずと云ふ。因て翌日両人彼処に往けり。その一人朝より掌を以て彼の鐘を推す。此くの如くすること良《やや》久しくして昼に及び、遂に未《ひつじ》刻［やぶちゃん注：午後二時前後。］にも至れるころ、鐘少しづつ動くと覚えしが、稍〻《やや》動きて纔か人目にかゝる程に動きしが、後《のち》次第に動き出《いで》て、人力を仮《か》らずして自ら動きたり。因《よつ》て前日動かずと云ひし人も、閉口して服したりと云ふ。物の積功知るべし。

［やぶちゃん注：ルーティン電子化で既に正規表現版を「甲子夜話卷之二　３１　京大佛の巨鐘を動かせし人の事」として電子化している。］