フライング単発 甲子夜話卷之十七 29 孔雀の飛たるを見たる事
[やぶちゃん注:現在、作業中である柴田宵曲「随筆辞典 奇談異聞篇」のために必要となったので、フライングして電子化する。句読点の変更・追加と、読み・記号・改行・段落を加えた。漢文部は後に〔 〕で推定訓読(一部補塡)を示した。]
29-17 孔雀の飛(とび)たるを見たる事
孔雀は、處々に飼(かひ)てあれども、其(その)飛ぶを見たる者、なし。
予、在城せしとき、庭籠(ていろう)に養置(やしなひおき)たるが、掃夫(さうふ)、誤(あやまり)て、籠(かご)を開きしかば、其(その)雄、出(いで)たり。
「あれ々々。」
と云ふ中(うち)に、飛揚(とびあが)りて、空を翔(かけ)ること、雲に及(およぶ)が如く、最も高ふ[やぶちゃん注:ママ。]して、その行くこと、平かなり。
丹霄(たんせう)を彌(わた)りて、外城にや到りけん、其尾を曳(ひく)を仰ぎ見れば、風鳶(たこ)に孔雀をしつらへたるに異ならず。「本草綱目」に、
『孔雀ハ、交趾・雷羅ノ諸州、甚多シ。生ズ二高山喬木之上ニ一。又云、「數十群飛シ、棲二-遊ス岡陵ニ一。」又云、「雨レバ則尾重クシテ、不ズㇾ能ハ二高飛スルコト一、南人因テ往テ捕フㇾ之ヲ。」。』〔孔雀ハ、交趾(かうち)・雷・羅の諸州、甚だ、多し。高山の喬木の上に生ず。又、云はく、「數(す)十、群飛し、岡陵(かうりよう)に棲遊(せいいう)す。」と。又、云はく、「雨(あめふ)れば、則ち、尾、重くして、高飛すること能はず、南人、因(より)て、往(ゆき)て、之れを捕ふ。」と。〕
これ等の文、讀過(よみすご)せる人は、多かるべけれど、飛(とび)たる所を見し者、あらざるべし。
■やぶちゃんの呟き
「丹霄」(現代仮名遣の音は「たんしょう」)は、「朝焼けの澄み切った雲一つ無い大空」の意。
「交趾」コーチ。ベトナム北部のホン(ソンコイ)川流域の地方。
「雷」雷州。唐代から元初にかけて、現在の広東省雷州市一帯に設置された州。
「羅」比較的新しい羅州は、南北朝から北宋初年にかけて、現在の広東省湛江市北部に設置された州。
『「本草綱目」に、……』同じ部分が、私の「和漢三才圖會卷第四十四 山禽類 孔雀(くじやく) (インドジャク・マクジャク)」に引用されているので、参照されたい。これを見ると、静山の引用は、複数の箇所を継ぎ接ぎしたものであることが判る。敢えて、それを本文では分離しなかった。
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