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2023/11/08

「博物誌」ルナアル作・岸田國士譯(正規表現版・ボナール挿絵+オリジナル新補注+原文) 「鼠」

[やぶちゃん注:本電子化はサイトの「心朽窩新館」で偏愛する『ジュール・ルナール「博物誌」岸田国士訳(附 Jules Renard “ Histoires Naturelles ”原文+やぶちゃん補注版)』を公開している(新字新仮名戦後版)が、今回は国立国会図書館デジタルコレクションの正字正仮名のもの、戦前の岸田國士譯ジュウル・ルナアル 「博物誌」(昭一四(一九三九)年白水社刊)の画像(リンク先は当該書の標題附き扉二)を視認出来るようになったことから、それをブログ版として、新規まき直しで、零から始めることとしたものである。詳しくは初回の冒頭注を参照されたい。

 また、ボナールの画像に就いては、十六年前のそれではなく、再度、新潮文庫版のそれを、新たにOCRで読み込み、補正・清拭して用いる。注も一からやり直すこととし、原文は前回のものを調べたところ、アクサンテギュの落ちが有意に認められたので(サイト版は敢えてそのままにしておいた)、新たにフランスのサイト“TEXTES LIBRES”の電子化された同書原文のものをコピー・ペーストさせて戴くこととすることとした。

 

 

    

 

 

 ランプの光で、書きものの今日の頁を綴つてゐると、微かな物音が聞えてくる。書く手を休めると、もの音もやむ。紙をごそごそやり始めると、また聞えて來る。

 鼠が一匹、眼を覺ましてゐるのである。

 女中が布巾やブラシを入れて置く暗い穴の緣を、行つたり來たりしてゐるのがわかる。

 やがて床(ゆか)へ飛び降り、臺所の敷石の上を驅け廻る。それから竈のそばへ移り、流しの下へ移り、皿の中へ紛れ込む。で、次々に、だんだん遠くへ偵察を進めながら、次第に私の方へ近づいて來る。

 私がペンを置くと、その度にその靜けさが彼を不安にする。私がペンを動かし始めると、多分何處かにもう一匹鼠がゐるだらうと思つて、彼は安心する。

 やがて、彼の姿は見えなくなる。テーブルの下にはいつて、私の足の間にゐるのである。彼は椅子の脚から脚へ驅け廻る。私の木靴をすれすれに掠め、その木のところをちよつと齧つてみ、或は大膽不敵にも、たうとうその上に登る。

 さうなると、私は足を動かすこともできなければ、あんまり大きな息もできない。それこそ、彼は逃げてしまふだらう。

 然し、私は書くのをやめるわけにはいかぬ。で、彼に見棄てられて、いつもの獨りぽつちの退屈に落ち込むのが怖(こは)さに、私は句讀點をつけてみたり、ほんのちよつと線を引いてみたり、少しづつ、ちびちびと、恰度彼がものを齧るのとおんなじ調子で書いて行く。

 

Nezumi_20231108081201

 

[やぶちゃん注:哺乳綱齧歯(ネズミ)目ネズミ亜目ネズミ上科ネズミ科 Muridae のネズミ類。人家や、その周辺に棲息する「家ネズミ」類のヨーロッパでの(日本も変わらない)代表種は、クマネズミ属ドブネズミ Rattus norvegicus 、或いは  Rattus sp. となるが、フランス語の“souris”は第一次的意義では、「二十日鼠」を指し、本篇のそれも雰囲気から、「家ネズミ」の代表種の一つである、ネズミ科ハツカネズミ属ハツカネズミ Mus musculus (棲息域からは亜種イエハツカネズミ Mus musculus domesticus(ヨーロッパ西部・アジア南西部・アメリカ・アフリカ・オセアニア)に限定してもよいか)ととるべきであろう。ボナールの絵もそれっぽい。実際、一九九四年臨川書店刊『ジュール・ルナール全集』の第五巻の佃裕文訳「博物誌」では標題を『はつかねずみ』と訳しておられる。なお、俗語で“souris d'hôtel”と言うと、「ホテル専門の女泥棒」の意があり、ルナールはそこも暗に比喩的に示唆しているようにも思われる。]

 

 

 

 

LA SOURIS

 

Comme, à la clarté d'une lampe, je fais ma quotidienne page d'écriture, j'entends un léger bruit. Si je m'arrête, il cesse. Il recommence, dès que je gratte le papier.

C'est une souris qui s'éveille.

Je devine ses va-et-vient au bord du trou obscur où notre servante met ses torchons et ses brosses.

Elle saute par terre et trotte sur les carreaux de la cuisine. Elle passe près de la cheminée, sous l'évier, se perd dans la vaisselle, et par une série de reconnaissances qu'elle pousse de plus en plus loin, elle se rapproche de moi.

Chaque fois que je pose mon porte-plume, ce silence l'inquiète. Chaque fois que je m'en sers, elle croit peut-être qu'il y a une autre souris quelque part, et elle se rassure.

Puis je ne la vois plus. Elle est sous ma table, dans mes jambes. Elle circule d'un pied de chaise à l'autre.

Elle frôle mes sabots, en mordille le bois, ou hardiment, la voilà dessus !

Et il ne faut pas que je bouge la jambe, que je respire trop fort : elle filerait.

Mais il faut que je continue d'écrire, et de peur qu'elle ne m'abandonne à mon ennui de solitaire, j'écris des signes, des riens, petitement, menu, menu, comme elle grignote.

 

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