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2023/11/15

柴田宵曲「随筆辞典 奇談異聞篇」 「神竜」 / 「し」の部~了

[やぶちゃん注:本書は昭和三六(一九六一)年一月に東京堂から刊行された。この総題の「随筆辞典」はシリーズ物の一書。本書については、初回の冒頭注を、また、作者については、私の『柴田宵曲 始動 ~ 妖異博物館 「はしがき」・「化物振舞」』の私の冒頭注を参照されたい。

 底本は国立国会図書館デジタルコレクションのこちらを使用した。新字新仮名である。但し、加工データとして、所持する筑摩書房『ちくま文芸文庫』の「奇談異聞辞典」(底本を解題したもの・二〇〇八年刊)を加工データとして使用させて貰った。ここに御礼申し上げる。

 読みが振れる、若い読者が躓くかも知れぬ箇所には《 》で読みを添えた。引用文の場合は歴史的仮名遣を用いた。なお、( )は柴田自身が附したルビである。

 また、柴田のストイックな編集法を鑑み、私の注は、どうしても必要と判断したもののみとした。幸い、有意な部分は私が既に電子化注したものがあるので、それをリンクさせてもいる。但し、この原本は新字新仮名であるため、私が電子化していない引用文の原本に当たることが出来たものは、極力、視認出来るように、国立国会図書館デジタルコレクションや他のデータベースの当該部をリンクさせるように努めた。

 なお、辞典形式であるので、各項目を各個に電子化する。公開は基本、相互の項目に連関性がないものが多いので、一回一項或いは数項程度とする。

 なお、本篇を以って、「し」の部は終わっている。]

 神領の鹿【しんりょうのしか】 〔甲子夜話巻廿二〕肥前の領内に沖の神嶋<長崎県西彼杵郡内か>と云ふ古蹟の霊場あり。此処鹿多し。里俗相伝ふ、神の使令にして、殊に愛せらるゝ町なりと。因て農夫猟師曽て神境に入て捕殺することなし。この辺り鹿を得るに鳥銃を以てすること常なり。吾士に某なる者あり。曰く、神領の中と雖ども、もと獣類、これを取る何ぞ妨げあらん。その友固く止むれども不ㇾ聴。一日鳥銃を持てかの神領の中に入るに、鹿忽ち出来る。即ち一発するにその腹に中つ。鹿驚くことなし。士以て不ㇾ中と為し、再び放してまたその腹に中るに、鹿自若たり。士愈〻疑ひ、またこれをうたんとす。然るに鹿の山中より出るもの、無数にして算ふべからざるに至る。士始めて駭く。神の所為にしてその罰あらんかと。乃ち鳥銃を負ひ走帰る。その友見てあやしみ云ふ。汝何事にか遭ふ。士曰く、異ることなし。友曰く、勿れ、面色土の如し、惟ふに山中怪魅に遇ふならん。士明かに前事を告ぐと。かゝる奇異の事あれば、此処の鹿は神の使令する所と云はんも然るべきのみ。

[やぶちゃん注:事前に「フライング単発 甲子夜話卷二十二 30 沖の神嶋、鹿の事」で正字表現のものを公開しておいた。

「沖の神嶋」「長崎県西彼杵郡内か」の「彼杵」は「そのぎ」と読み、郡としては今も一部が残っているが、以下に示す「野崎島」は同郡内であったことはない。ここは、所持する筑摩書房『ちくま文芸文庫』の「奇談異聞辞典」(底本を解題したもの・二〇〇八年刊)では、この割注が、『長崎県北松浦郡小値賀町野崎島内か』に変更されている。ここ(グーグル・マップ・データ)である。小値賀町は「おぢかちょう」、野崎島は「のざきじま」と読む。これは宵曲の誤りである。]

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