柴田宵曲「随筆辞典 奇談異聞篇」 「空飛ぶ物」
[やぶちゃん注:本書は昭和三六(一九六一)年一月に東京堂から刊行された。この総題の「随筆辞典」はシリーズ物の一書。本書については、初回の冒頭注を、また、作者については、私の『柴田宵曲 始動 ~ 妖異博物館 「はしがき」・「化物振舞」』の私の冒頭注を参照されたい。
底本は国立国会図書館デジタルコレクションのこちらを使用した。新字新仮名である。但し、加工データとして、所持する筑摩書房『ちくま文芸文庫』の「奇談異聞辞典」(底本を解題したもの・二〇〇八年刊)を加工データとして使用させて貰った。ここに御礼申し上げる。
読みが振れる、若い読者が躓くかも知れぬ箇所には《 》で読みを添えた。引用文の場合は歴史的仮名遣を用いた。なお、( )は柴田自身が附したルビである。
また、柴田のストイックな編集法を鑑み、私の注は、どうしても必要と判断したもののみとした。幸い、有意な部分は私が既に電子化注したものがあるので、それをリンクさせてもいる。但し、この原本は新字新仮名であるため、私が電子化していない引用文の原本に当たることが出来たものは、極力、視認出来るように、国立国会図書館デジタルコレクションや他のデータベースの当該部をリンクさせるように努めた。
なお、辞典形式であるので、各項目を各個に電子化する。公開は基本、相互の項目に連関性がないものが多いので、一回一項或いは数項程度とする。]
空飛ぶ物【そらとぶもの】 〔我衣十九巻本巻十一〕空中を有形のものの飛行《ひぎやう》する事、仏説などには確かに有りといへり。先年本郷五丁目の伊勢屋吉兵衛、物干にて仰向《あふむき》て昼寝し、空中をながめ居たるに、その日は誠に晴天にして、一点の白雲もなし。東の方より空中を通行するもの、背その高き事しるべからず。しかれども形はよく見えたり。四足ある獣の尾の方、馬の如くにして画《ゑ》に見る所の騏麟(きりん)の如き物ゆうゆうと歩み行く。誰ぞ呼びて見せん物と思へども、傍に人なければ、たゞ己れのみながめ居たり。北西の方へ行きて、漸々《ぜんぜん》に形を見失ひぬ。それは廿年以前の事なり。
[やぶちゃん注:「我衣」前の前の「杣小屋怪事」で述べた通りで、原本に当たれない。蜃気楼・逆転層の類いで、遠くの馬の疾走するのが、反射投影されたに過ぎまい。]
« 柴田宵曲「随筆辞典 奇談異聞篇」 「空飛ぶ異人」 | トップページ | 柴田宵曲「随筆辞典 奇談異聞篇」 「空に吹上げられる」 »