「博物誌」ルナアル作・岸田國士譯(正規表現版・ボナール挿絵+オリジナル新補注+原文) 「雲雀(ひばり)」
[やぶちゃん注:本電子化はサイトの「心朽窩新館」で偏愛する『ジュール・ルナール「博物誌」岸田国士訳(附 Jules Renard “ Histoires Naturelles ”原文+やぶちゃん補注版)』を公開している(新字新仮名戦後版)が、今回は国立国会図書館デジタルコレクションの正字正仮名のもの、戦前の岸田國士譯ジュウル・ルナアル 「博物誌」(昭一四(一九三九)年白水社刊)の画像(リンク先は当該書の標題附き扉二)を視認出来るようになったことから、それをブログ版として、新規まき直しで、零から始めることとしたものである。詳しくは初回の冒頭注を参照されたい。
また、ボナールの画像に就いては、十六年前のそれではなく、再度、新潮文庫版のそれを、新たにOCRで読み込み、補正・清拭して用いる。注も一からやり直すこととし、原文は前回のものを調べたところ、アクサンテギュの落ちが有意に認められたので(サイト版は敢えてそのままにしておいた)、新たにフランスのサイト“TEXTES LIBRES”の電子化された同書原文のものをコピー・ペーストさせて戴くこととすることとした。]
雲 雀(ひばり)
私は嘗て雲雀といふものを見たことがない。夜明けと同時に起きてみても無駄である。雲雀は地上の鳥ではないのだ。
今朝から、私は土くれや枯草を頻りに踏み廻つてゐる。
灰色の雀や、ペンキ色のなまなましい鶸(ひわ)が群れをなして、茨の生垣の上で波打つてゐる。
樫鳥(かけす)は公式の服裝で木から木へ閱兵して廻る。
一羽の鶉(うづら)が、苜蓿畑をすれすれに掠めながら、墨繩を張つたやうな直線を描いて飛んで行く。[やぶちゃん注:「苜蓿畑」「うまごやしばたけ」。]
女よりも上手に編物をやつてゐる羊飼のうしろには、羊どもがぞろぞろ從ひ、どれもこれも似通つてゐる。
そして、なに一ついい前觸れをもつてこない鴉さへほほゑましいほど、すべてが新鮮な光のなかに浸る。
まあ、私とおんなじやうにして、ぢつと耳を澄ましてみるがいい。
そら、聞えはせぬか――何處はるかに高く、金の杯のなかで水晶のかけらを搗き碎いてゐるのが……。
雲雀がどこで囀つてゐるのか、それを誰が知らう?
空を見つめてゐると、太陽が眼を焦がす。
雲雀の姿を見ることはあきらめなければならない。
雲雀は天上に棲んでゐる。そして、天上の鳥のうち、この鳥だけが、我々のところまで屆く聲で歌ふのである。
[やぶちゃん注:鳥綱スズメ目スズメ亜目スズメ小目スズメ上科ヒバリ科ヒバリ属ヒバリ Alauda arvensis 。
「雀」スズメ上科スズメ科スズメ属スズメ基亜種 Passer montanus montanus (ヨーロッパからアフリカ北部・モンゴル北部・満州・オホーツク海に分布する)。
「鶸(ひわ)」何度も出た通り、これはスズメ上科ヒワ亜科ヒワ族ヒワ属ゴシキヒワ Carduelis carduelis。
「茨」フランスで垣根等する野茨は、バラ目バラ科バラ属イヌバラ(犬薔薇)Rosa canina である。
「樫鳥(かけす)」スズメ目カラス科カケス属カケス Garrulus glandarius 。但し、約三十もの亜種がいるのでカケスGarrulus sp. とすべきか。
「鶉(うづら)」フランスのウズラはウズラの基準種であるキジ目キジ科ウズラ属ウズラCoturnix coturnix である。「ヨーロッパウズラ」等とも呼ぶが、こちらが正統なフランスの「ウズラ」である。ジビエ料理には、それを改良した本邦でお馴染みのウズラ Coturnix japonica が使用されているようではある。
「苜蓿」被子植物門双子葉植物綱マメ目マメ科マメ亜科ウマゴヤシ属ウマゴヤシ Medicago polymorpha 若しくは、ウマゴヤシ属Medicagoの種。ヨーロッパ(地中海周辺)原産の牧草。江戸時代頃、国外の荷物に挟み込む緩衝材として本邦に渡来した帰化植物である。葉の形はシロツメクサ(クローバー:マメ科シャジクソウ属 Trifolium亜属Trifoliastrum節シロツメクサ Trifolium repens )に似ている。『ジュウル・ルナアル「にんじん」フェリックス・ヴァロトン挿絵 附やぶちゃん補注』や、『ジュウル・ルナアル「ぶどう畑のぶどう作り」附 やぶちゃん補注』でもお馴染みのアイテムである。
「羊」哺乳綱鯨偶蹄目ウシ亜目ウシ科ヤギ亜科ヒツジ属ヒツジ Ovis aries 。
「鴉」スズメ目カラス科カラス属 Corvus sp.。
因みに……私は雲雀(ひばり)というと、原民喜の遺書を思い出すのを常としている。古いものでは、二〇〇六年三月十三日附の「花幻忌」、最も新しいものでは、今年の祥月命日に公開した『――七十二年目の花幻忌に――原民喜「心願の國」(昭和二八(一九五三)年角川書店刊「原民喜作品集」第二巻による《特殊》な正規表現版)』を見られたい……。]
*
L'ALOUETTE
Je n'ai jamais vu d'alouette et je me lève inutilement avec l'aurore. L'alouette n'est pas un oiseau de la terre.
Depuis ce matin, je foule les mottes et les herbes sèches.
Des bandes de moineaux gris ou de chardonnerets peints à vif flottent sur les haies d'épines.
Le geai passe la revue des arbres dans un costume officiel.
Une caille rase des luzernes et trace au cordeau la ligne droite de son vol.
Derrière le berger qui tricote mieux qu'une femme, les moutons se suivent et se ressemblent.
Et tout s'imprègne d'une lumière si neuve que le corbeau, qui ne présage rien de bon, fait sourire.
Mais écoutez comme j'écoute.
Entendez-vous quelque part, là-haut, piler dans une coupe d'or des morceaux de cristal ?
Qui peut me dire où l'alouette chante ?
Si je regarde en l'air, le soleil brûle mes yeux.
Il me faut renoncer à la voir.
L'alouette vit au ciel, et c'est le seul oiseau du ciel qui chante jusqu'à nous.
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