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2023/11/25

柴田宵曲「随筆辞典 奇談異聞篇」 「大力の尼」

[やぶちゃん注:本書は昭和三六(一九六一)年一月に東京堂から刊行された。この総題の「随筆辞典」はシリーズ物の一書。本書については、初回の冒頭注を、また、作者については、私の『柴田宵曲 始動 ~ 妖異博物館 「はしがき」・「化物振舞」』の私の冒頭注を参照されたい。

 底本は国立国会図書館デジタルコレクションのこちらを使用した。新字新仮名である。但し、加工データとして、所持する筑摩書房『ちくま文芸文庫』の「奇談異聞辞典」(底本を解題したもの・二〇〇八年刊)を加工データとして使用させて貰った。ここに御礼申し上げる。

 読みが振れる、若い読者が躓くかも知れぬ箇所には《 》で読みを添えた。引用文の場合は歴史的仮名遣を用いた。なお、( )は柴田自身が附したルビである。

 また、柴田のストイックな編集法を鑑み、私の注は、どうしても必要と判断したもののみとした。幸い、有意な部分は私が既に電子化注したものがあるので、それをリンクさせてもいる。但し、この原本は新字新仮名であるため、私が電子化していない引用文の原本に当たることが出来たものは、極力、視認出来るように、国立国会図書館デジタルコレクションや他のデータベースの当該部をリンクさせるように努めた。

 なお、辞典形式であるので、各項目を各個に電子化する。公開は基本、相互の項目に連関性がないものが多いので、一回一項或いは数項程度とする。

 

 大力の尼【だいりきのあま】 〔譚海巻十二〕母の幼なかりしとき、向ひなる家に女子兄弟住むものあり。いづれの家中の娘にて有りけるか、浪人して住みわたるなり。姉は尼にて、妹は手習を女子どもにをしへ、世をわたる事なるに、この尼人折々むら気にて、ひとり言をいはるゝ時も有り。また常はものごしやさしく、うちむかひてかたらふときは、本性なる時、殊にうるはしく、なつかしき人なりしが、思ひかけず大ちからなる尼にて、それを知る人なかりしに、或時水をくみ入るゝ男、水がめの台をあしく置きたるよし、されど水をなかばくみ入れぬれば、いかがせんと妹の申しけるに、やがて姉あま立《たち》より、水くみの男をよびて、われこのかめをもてあげるまゝ、いふまゝになほしてよとて、水のたゝヘたるかめを、左右の手にて中(ちう)にもちあげ、台をなほさせければ、水くみの男おそるおそる台をなほしてにげ去りぬ。それをば母見たりしと物がたりなり。この尼うへさるべき方へ縁付きたりしが、夫のふるまひに腹たつ事ありて、やがて夫をうちふせて、大釜を引あげてかぶせつつさいなみければ、その兄弟聞き驚きて、あるまじき事とて、不縁に及びしかば、やがて親なる人の尼にせしより、かく妹の家に来居《きをり》たれども、折々本性のたがへる時は、妹をうちふせてさいなみける。力の強きまゝ妹なる人も殊にめいわくして、後々は別れ別れになりぬるとぞ。

[やぶちゃん注:事前に「譚海 卷十二 狂人の尼勇力の事(フライング公開)」を公開しておいたので見られたい。]

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