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2023/11/18

「博物誌」ルナアル作・岸田國士譯(正規表現版・ボナール挿絵+オリジナル新補注+原文) 「くろ鶇(つぐみ)!」

[やぶちゃん注:本電子化はサイトの「心朽窩新館」で偏愛する『ジュール・ルナール「博物誌」岸田国士訳(附 Jules Renard “ Histoires Naturelles ”原文+やぶちゃん補注版)』を公開している(新字新仮名戦後版)が、今回は国立国会図書館デジタルコレクションの正字正仮名のもの、戦前の岸田國士譯ジュウル・ルナアル 「博物誌」(昭一四(一九三九)年白水社刊)の画像(リンク先は当該書の標題附き扉二)を視認出来るようになったことから、それをブログ版として、新規まき直しで、零から始めることとしたものである。詳しくは初回の冒頭注を参照されたい。

 また、ボナールの画像に就いては、十六年前のそれではなく、再度、新潮文庫版のそれを、新たにOCRで読み込み、補正・清拭して用いる。注も一からやり直すこととし、原文は前回のものを調べたところ、アクサンテギュの落ちが有意に認められたので(サイト版は敢えてそのままにしておいた)、新たにフランスのサイト“TEXTES LIBRES”電子化された同書原文のものをコピー・ペーストさせて戴くこととすることとした。

 標題の“!”は、この「博物誌」中、ここのみに附してある特異点である。これは後注の冒頭を参照されたい。また、ボナールの挿絵であるが、今回は「Internet archive」の原本に従い、標題の前に配した。]

 

 

Kurotugumi

 

 

    くろ鶫(つぐみ)

 

 

 私の庭に、殆ど枯れかけた古い胡桃(くるみ)の樹があるが、小鳥どもは氣味惡がつて寄りつかない。たつた一羽、黑い鳥がその最後の葉の中に住んでゐる。

 然し、庭のそのほかの部分は、花の咲いた若い樹がいつぱいに植わつてゐて、陽氣な、いきいきした、色とりどりの小鳥どもが巢を掛けてゐる。

 そして、これらの若い樹はその老いぼれの胡桃の樹を馬鹿にしてゐるらしい。ひつきりなしに、彼に向つて、まるで惡態をつくやうに、おしやべりの小鳥の群れを投げつける。

 雀、岩燕、山雀、かわら鶸(ひわ)などが、入り交り、立ち交り、彼を惱ます。彼らはその翼で彼の枝の先をこづく。あたりの空氣は、彼らのきれぎれの鳴き聲で沸き返る。やがて、彼らは退散する。すると、また別の小うるさい一團が若樹のなかから飛び立つて來る。[やぶちゃん注:「山雀」は「やまがら」と読む。]

 彼らは、精の續く限り、挑みかけ、鳴き立て、金切聲をあげ、喉を嗄らす。

 そんな風にして、明けがたから日暮れ時まで、まるで惡態をつくやうに、かはら鶸、山雀、岩燕、雀などが、その老いぼれの胡桃の樹を目がけて、若樹のなかから飛び出して行く。

 然し、時々は胡桃の樹も堪忍袋の緖をきらし、その最後の葉をゆすぶり、わが家の黑い鳥を放し、そしてかう云ひ返す――

 「くそつぐみ!」[やぶちゃん注:太字は底本では傍点「ヽ」。但し、原本では特に斜体・下線などの附帯はない以下、五行空けは底本のママ。]

 

 

 

 

 

 樫鳥――「のべつ黑裝束で、見苦しいやつだ、くろ鶫(つぐみ)つて!」[やぶちゃん注:「樫鳥」「かしどり」。戦後版では『かけす』とルビする。]

 くろ鶫――「群長閣下、わたしはこれしか着るものがないのです」

 

[やぶちゃん注:五行空けはママ。臨川書店版全集注(ちなみにこちらは私の後述するのと同じく、この鳥をクロウタドリに同定してゐる)によれば、“merle”(音写「メェハラ」。「クロウタドリ」(黒歌鳥))と“merde”(同前「メェハドゥ」。「糞ったれ」の意)は音通であるとする(岩波文庫の辻昶氏の注では、後者を『少しお上品にしてメルルということがある』と解説されておられる。ちなみに、私の愛するピアニスト、靑柳いづみこさんのズバり、『メルド!日記』の冒頭によれば、『「MERDE/メルド」は、フランス語で「糞ったれ」という意味で』、『このアクの强い下品な言葉を、フランス人は紳士淑女でさえ使』い、『また、ここ一番という時に幸運をもたらしてくれる、緣起かつぎの言葉』でもあると記されてある。そうして、靑柳さんは『身の引きしまるような難關に立ち向かう時、「糞つたれ!」の强烈な一言が、絕大な勇氣を與えてくれるのでしょう。』と述べておられる。ここで表題の特異点「!」が「糞ったれ!」として鮮やかに生きてくるのである。

 さて、「くろ鶇」だが、“Merle”は私の辞書では、確かに『鶇』とあるのだが、スズメ目ツグミ科ツグミ属クロツグミ Turdus cardisは名の割には、腹部が白く(丸い黒斑点はある)、「のべつ黑裝束で」というのに違和感がある。これは「クロツグミ」ではなく、が全身真黒で、黄色い嘴と、目の周りが黄色い同じツグミ属のクロウタドリTurdus merulaではないかと思われる。

 以下、脇役その他大勢も比定しておく。

「胡桃(くるみ)」はヨーロッパに広く分布するブナ目クルミ科ジュグランス属カシグルミ(ジュグランス・ニグラ) Juglans regia であろう。

「雀」スズメ目スズメ科スズメ属スズメ基亜種 Passer montanus  montanus (ヨーロッパからアフリカ北部・モンゴル北部・満州・オホーツク海に分布する)。

「岩燕」はスズメ目スズメ亜目ツバメ科ツバメ亜科 Delichon 属イワツバメDelichon dasypus ではなく(ヨーロッパには分布しない)、恐らくは、スズメ目ムクドリ科ムクドリ属ホシムクドリ Sturnus vulgaris であろう。全集の佃氏の訳でも、『椋鳥』と訳されてある。

「山雀」もおかしい。スズメ目スズメ亜目シジュウカラ科ヤマガラ属ヤマガラ Sittiparus varius はヨーロッパには棲息しない。これはスズメ目シジュウカラ科シジュウカラ属(標準和名は未記載であるが、通俗和名は「ヨーロッパシジュウカラ」) Parus major であろう。全集でも、『四十雀』と訳されてある。

「かわら鶸(ひわ)」もダメ。スズメ目アトリ科ヒワ属カワラヒワ Carduelis sinica もヨーロッパに棲息しない。全集では『アトリ』と訳されてある。これはスズメ目アトリ科アトリ属アトリ Fringilla montifringilla である(漢字では「花鶏」でこれを「あとり」と読む)。

「樫鳥」スズメ目カラス科カケス属カケス Garrulus glandarius 。但し、約三十もの亜種がいるのでカケスGarrulus sp. とすべきか。

「見苦しいやつだ、くろ鶫(つぐみ)つて!」岩波の辻氏の訳では、『いやなやつだ!』と訳され、『いやなやつだ』に『ヴイ』(ィ)『ラン・メルル』とルビされておられ、後注で、『フランスのつぐみの羽はつやのある黒色である。とても不愉快な人間のことをフランス語で「いやなつぐみ」(ヴイ』(ィ)『ラン・メルル)という』とあった。

 なお、最後の二行のアフォリズムは二年先行する『ジュウル・ルナアル「ぶどう畑のぶどう作り」附 やぶちゃん補注』の「囁(ささや)き」の中に既に出ている。また、全集の佃氏の後注によれば、この「くろ鶫」の冒頭の「群長閣下」は、『アルフォンス・ドーデ』かの名作で私も大好きな『『風車小屋だより』「散文の幻想詩Ⅱ野原の郡長殿」への賛辞である』とある。]

 

 

 

 

MERLE !

 

Dans mon jardin il y a un vieux noyer presque mort qui fait peur aux petits oiseaux. Seul un oiseau noir habite ses dernières feuilles.

Mais le reste du jardin est plein de jeunes arbres fleuris où nichent des oiseaux gais, vifs et de toutes les couleurs.

Et il semble que ces jeunes arbres se moquent du vieux noyer. A chaque instant, ils lui lancent, comme des paroles taquines, une volée d'oiseaux babillards.

Tour à tour, pierrots, martins, mésanges et pinsons le harcèlent. Ils choquent de l'aile la pointe de ses branches. L'air crépite de leurs cris menus ; puis ils se sauvent, et c'est une autre bande importune qui part des jeunes arbres.

Tant qu'elle peut, elle nargue, piaille, siffle et s'égosille.

Ainsi de l'aube au crépuscule, comme des mots railleurs, pinsons, mésanges, martins et pierrots s'échappent des jeunes arbres vers le vieux noyer.

Mais parfois il s'impatiente, il remue ses dernières feuilles, lâche son oiseau noir et répond : “ Merle ! ”

 

 

 

LE GEAI. - Toujours en noir, vilain merle !

LE MERLE. - Monsieur le sous-préfet, je n'ai que ça à me mettre.

 

[やぶちやん後注:“TEXTES LIBRES”の“MERLE !”は“La Pie”の項に付隨する形であり、項目として獨立していない。戦後版で依拠した“In Libro Veritas”版でも、やはり同じであり、これで、“TEXTES LIBRES”は“In Libro Veritas”版をコピー・ペーストして一部を修正したに過ぎないサイトであることがほぼ断定出来るように思う。なお、後の二行は原本を参考に三行空けた。]

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