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2023/11/20

柴田宵曲「随筆辞典 奇談異聞篇」 「関守の情」

[やぶちゃん注:本書は昭和三六(一九六一)年一月に東京堂から刊行された。この総題の「随筆辞典」はシリーズ物の一書。本書については、初回の冒頭注を、また、作者については、私の『柴田宵曲 始動 ~ 妖異博物館 「はしがき」・「化物振舞」』の私の冒頭注を参照されたい。

 底本は国立国会図書館デジタルコレクションのこちらを使用した。新字新仮名である。但し、加工データとして、所持する筑摩書房『ちくま文芸文庫』の「奇談異聞辞典」(底本を解題したもの・二〇〇八年刊)を加工データとして使用させて貰った。ここに御礼申し上げる。

 読みが振れる、若い読者が躓くかも知れぬ箇所には《 》で読みを添えた。引用文の場合は歴史的仮名遣を用いた。なお、( )は柴田自身が附したルビである。

 また、柴田のストイックな編集法を鑑み、私の注は、どうしても必要と判断したもののみとした。幸い、有意な部分は私が既に電子化注したものがあるので、それをリンクさせてもいる。但し、この原本は新字新仮名であるため、私が電子化していない引用文の原本に当たることが出来たものは、極力、視認出来るように、国立国会図書館デジタルコレクションや他のデータベースの当該部をリンクさせるように努めた。

 なお、辞典形式であるので、各項目を各個に電子化する。公開は基本、相互の項目に連関性がないものが多いので、一回一項或いは数項程度とする。

 

 関守の情【せきもりのじょう】 〔梅翁随筆巻四〕寛政のはじめ、朝大に雨ふりて程なく晴天となり、春色いと長閑(のどか)にして、浪人の体《てい》の者、十二三歳と十歳とばかりの男子弐人連れて、箱根を越して休み居ける所に、雲助来り金五両合力《がふりき》すべしといふ。侍は思ひも寄らぬ事なれば、不埒なるよし答へければ、しからば汝が伴ひし子壱人、女子を男の姿に似せて関を越しゝ事訴ふべしと云ふ。この侍大におどろき、身貧しければ持合せ少なし、金壱両遣はすべしといへども、雲助は得心せずして、つひに訴へに行きけるまゝ侍は進退こゝに極りて、いかんともすべき様なき所に、百姓体《てい》なる旅人来り、このよしを聞き、ひそかに我連れたる男子と、侍の子と衣類を替へ置きける。其所へ雲助に案内させ役人来り、侍の子を改むるに、二人とも男子に相違なければ、虎口の程をのがれ、百姓の子と替へてわかれ行きけり。此百姓体のものは土地の人なるが、内々役人の下知によつて斯く計らひけるとなり。この浪人運つよく役人の情にあひ、必死の程をのがれたり。

[やぶちゃん注:「梅翁随筆」作者不詳の寛政年間を中心とした見聞巷談を集めた随筆。国立国会図書館デジタルコレクションの『日本隨筆大成』第二期第六(昭和三(一九二八)年日本随筆大成刊行会刊)のここ(左ページの「『○箱根の關守情ある事』)で正規表現版が視認出来る。この話、何か、まさに春陽の景の中で、最後にほのぼのとして、実際のショート・フィルムを見るような気がした。

「寛政のはじめ」寛政元(一七八九)年で、寛政は十三年まで。]

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