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2023/11/11

「博物誌」ルナアル作・岸田國士譯(正規表現版・ボナール挿絵+オリジナル新補注+原文) 「ばつた」

[やぶちゃん注:本電子化はサイトの「心朽窩新館」で偏愛する『ジュール・ルナール「博物誌」岸田国士訳(附 Jules Renard “ Histoires Naturelles ”原文+やぶちゃん補注版)』を公開している(新字新仮名戦後版)が、今回は国立国会図書館デジタルコレクションの正字正仮名のもの、戦前の岸田國士譯ジュウル・ルナアル 「博物誌」(昭一四(一九三九)年白水社刊)の画像(リンク先は当該書の標題附き扉二)を視認出来るようになったことから、それをブログ版として、新規まき直しで、零から始めることとしたものである。詳しくは初回の冒頭注を参照されたい。

 また、ボナールの画像に就いては、十六年前のそれではなく、再度、新潮文庫版のそれを、新たにOCRで読み込み、補正・清拭して用いる。注も一からやり直すこととし、原文は前回のものを調べたところ、アクサンテギュの落ちが有意に認められたので(サイト版は敢えてそのままにしておいた)、新たにフランスのサイト“TEXTES LIBRES”の電子化された同書原文のものをコピー・ペーストさせて戴くこととすることとした。

 

 

    ばつた

 

 

 こいつは蟲の世界の憲兵といふところか?

 一日ぢゆう跳び廻つては、影なき密獵者の搜索に躍起になつてゐるが、それがどうしてもつかまらない。

 どんなに高く伸びた草も、彼の行動を遮ることははできない。

 彼は何ものも恐れない。彼には七里ひと跳びの長靴があり、牡牛のやうな頸、天才的な額、船の龍骨のような腹があり、セルロイドの翅(はね)と惡鬼のような角があり、そして後ろには大きな軍刀を吊してゐる。

 憲兵として立派な働きをするやうな人間には、必ずまたいろんな惡癖があるものだが、打明けたところ、ばつたは嚙み煙草をやるのである。

 噓だと思ふなら、指で追ひ駈けてみ給へ。彼を相手に鬼ごつこをやり、そして跳ねる隙を狙つて、うまく苜蓿の葉の上でつかまへたら、その口をよく見てみ給へ。恐ろしい格好をした吻(くち)の先から、煙草の嚙み汁のような黑い泡を滲ませる。[やぶちゃん注:「苜蓿」「うまごやし」。]

 然し、さう云つてゐる間に、もう彼をつかまへてゐられなくなる。彼は死にもの狂ひになつて跳ね出さうとする。綠色の怪物は、急に激しく身をもがいて君の手を摺り拔け、脆い、取り外し自在のからだが、可憐な腿(もも)を一本、君の手の中に殘して行く。

 

Batuta

 

[やぶちゃん注:叙述内容は、例えば本邦の昆虫綱直翅(バッタ)目雑弁(バッタ)亜目バッタ科トノサマバッタ属トノサマバッタ Locusta migratoria を髣髴させるが(同種はフランスにも棲息する)、底本のボナールの挿絵を見ると、これはもう、イナゴ(バッタ科 Acrididae の内、イナゴ亜科 Oxyinae などに属する種の総称。狭義にはイナゴ属 Oxya にのようにも見受けられる。標題の“SAUTERELLE”は、辞書では「バッタ・イナゴ」で出るので以上二比定で留めておく。但し、臨川書店刊『ジュール・ルナール全集』第五巻所収の佃裕文訳「博物誌」の標題訳は、ズバり、『きりぎりす』となっている。しかし、前の「蟋蟀(きりぎりす)」の注で述べた通り、フランスに棲息するキリギリスは、我々が普通に知っている本邦産のキリギリスとは似ていない、キリギリス亜科 Ephippiger  Ephippiger ephippiger という種のようである。フランス語の当該種のページを参照されたい。

「七里ひと跳びの長靴」辻昶訳一九九八年岩波文庫刊「博物誌」では、注があり、『フランスの文学者ペロー』(Charles Perrault 一六二八年~一七〇三年)『の『童話』(「親指小僧」)の中に出てくる、ひと足で二十八キロメートル(約七里)進める靴』とある。所持する訳本によれば、「人食い鬼」が逃げた「親指小僧」を探して捕まえるためのアイテムとして登場する。

「鬼ごつこ」前掲書で辻氏は『陣取りごっこ』と訳され、注して、『四角いところの四すみに陣取った四人が、陣を交換しようとして走っているあいだに、まん中にいるもうひとりが、急いであいている陣をとるあそび。』とある。

「恐ろしい格好をした吻(くち)の先」ペンチのような大顎を指す。大型のバッタ類の場合、噛まれると、かなり痛い。出血に及ぶこともある。私も少年期に体験した。]

 

 

 

 

LA SAUTERELLE

 

Serait-ce le gendarme des insectes ?

Tout le jour, elle saute et s'acharne aux trousses d'invisibles braconniers qu'elle n'attrape jamais.

Les plus hautes herbes ne l'arrêtent pas.

Rien ne lui fait peur, car elle a des bottes de sept lieues, un cou de taureau, le front génial, le ventre d'une carène, des ailes en Celluloïd, des cornes diaboliques et un grand sabre au derrière.

Comme on ne peut avoir les vertus d'un gendarme sans les vices, il faut bien le dire, la sauterelle chique.

Si je mens, poursuis-la de tes doigts, joue avec elle à quatre coins, et quand tu l'auras saisie, entre deux bonds, sur une feuille de luzerne, observe sa bouche :

par ses terribles mandibules, elle sécrète une mousse noire comme du jus de tabac.

Mais déjà tu ne la tiens plus. Sa rage de sauter la reprend. Le monstre vert t'échappe d'un brusque effort et, fragile, démontable, te laisse une petite cuisse dans la main.

 

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