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2023/11/05

「博物誌」ルナアル作・岸田國士譯(正規表現版・ボナール挿絵+オリジナル新補注+原文) 「馬」

[やぶちゃん注:本電子化はサイトの「心朽窩新館」で偏愛する『ジュール・ルナール「博物誌」岸田国士訳(附 Jules Renard “ Histoires Naturelles ”原文+やぶちゃん補注版)』を公開している(新字新仮名戦後版)が、今回は国立国会図書館デジタルコレクションの正字正仮名のもの、戦前の岸田國士譯ジュウル・ルナアル 「博物誌」(昭一四(一九三九)年白水社刊)の画像(リンク先は当該書の標題附き扉二)を視認出来るようになったことから、それをブログ版として、新規まき直しで、零から始めることとしたものである。詳しくは初回の冒頭注を参照されたい。

 また、ボナールの画像に就いては、十六年前のそれではなく、再度、新潮文庫版のそれを、新たにOCRで読み込み、補正・清拭して用いる。注も一からやり直すこととし、原文は前回のものを調べたところ、アクサンテギュの落ちが有意に認められたので(サイト版は敢えてそのままにしておいた)、新たにフランスのサイト“TEXTES LIBRES”の電子化された同書原文のものをコピー・ペーストさせて戴くこととすることとした。

 

 

    

 

 

 決して立派ではない、私の馬は、むやみに節くれ立つて、眼の上がいやに落ち窪み、胸は平べつたく、鼠みたいな尻尾と英吉利女のやうな絲切齒を持つてゐる。しかし、こいつは、私をしんみりさせる。いつまでも私の用を勤めながら、一向逆らひもせず、默つて勝手に引き廻されてゐるといふことが、考へれば考へるほど不思議でしやうがないのである。

 彼を車につける度每に、私は、彼が今にも唐突な身振りで「いやだ」と云つて、車を外してしまひはせぬかと思ふ。

 どうして、どうして。彼は矯正帽でもかぶるやうに、その大きな頭を上げ下げして、素直にあとすさりをしながら、轅の間にはゐる。

 だから、私も彼には燕麥でも玉蜀黍でもちつとも惜しまず、たらふく喰はせてやる。からだにはうんとブラシをかけ、毛の色の櫻んぼのやうな光澤(つや)が出るくらゐにしてやる。鬣(たてがみ)も梳(す)くし、細い尻尾も編む。手で、また聲で、機嫌をとる。眼を海綿で洗ひ、蹄に蠟を引く。

 いつたい、こんなことが彼には嬉しいだらうか?

 わからない。

 彼は屁をひる。

 特に、彼が私を車に載せて引いて行つてくれる時に、私はつくづく彼に感心する。私が鞭で毆りつけると、彼は足を早める。私が止まれと云ふと、ちやんと私の車を止めてくれる。私が手綱を左に引くと、おとなしく左へ曲る。わざと右へ曲るやうなこともせず、私を何處か蹴とばして溝へ叩き込むやうなこともしない。

 彼を見てゐると、私は心配になり、恥ずかしくなり、そして可哀さうになる。

 彼はやがてその半睡狀態から覺めるのではあるまいか? そして、容赦なく私の地位を奪ひ取り、私を彼の地位に追ひ落すのではあるまいか?

 彼は何を考えてゐるのだらう。

 彼は屁をひる。續けざまに屁をひる。

 

Uma

 

[やぶちゃん注:哺乳綱奇蹄目ウマ科ウマ属ウマ(ノウマ) Equus caballus(或いはノウマの亜種とする場合は、Equus ferus caballus )。但し、フランス語の“cheval”は、特に♂の馬を指す。辻昶訳一九九八年岩波文庫刊「博物誌」では、標題の訳を『雄馬』とされておられる。エンディングの一行が大好きだ。私もしょっちゅう、屁をひる。続けざまに屁をひるからである。

「英吉利女のやうな絲切齒」辻氏は訳で『イギリスおんなのみたいな門歯(もんし)』と訳され、後注で、『フランス人はよく、やせていて「長いとがった歯をもった」イギリス女の姿を頭に浮べる。』とされる。馬の糸切り歯に対して、ということであろう。]

 

 

 

 

LE CHEVAL

 

Il n'est pas beau, mon cheval. Il a trop de noeuds et de salières, les côtes plates, une queue de rat et des incisives d'Anglaise. Mais il m'attendrit. Je n'en reviens pas qu'il reste à mon service et se laisse, sans révolte, tourner et retourner.

Chaque fois que je l'attelle, je m'attends qu'il me dise :

“ non ”, d'un signe brusque, et détale.

Point. Il baisse et lève sa grosse tête comme pour remettre un chapeau d'aplomb, recule avec docilité entre les brancards.

Aussi je ne lui ménage ni l'avoine ni le maïs. Je le brosse jusqu'à ce que le poil brille comme une cerise.

Je peigne sa crinière, je tresse sa queue maigre. Je le flatte de la main et de la voix. J'éponge ses yeux, je cire ses pieds.

Est-ce que ça le touche ?

On ne sait pas.

Il pète.

C'est surtout quand il me promène en voiture que je l'admire. Je le fouette et il accélère son allure. Je l'arrête et il m'arrête. Je tire la guide à gauche et il oblique à gauche, au lieu d'aller à droite et de me jeter dans le fossé avec des coups de sabots quelque part.

Il me fait peur, il me fait honte et il me fait pitié.

Est-ce qu'il ne va pas bientôt se réveiller de son demi sommeil, et, prenant d'autorité ma place, me réduire à la sienne ?

A quoi pense-t-il ?

Il pète, pète, pète.

 

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