「博物誌」ルナアル作・岸田國士譯(正規表現版・ボナール挿絵+オリジナル新補注+原文) 「ひなげし」
[やぶちゃん注:本電子化はサイトの「心朽窩新館」で偏愛する『ジュール・ルナール「博物誌」岸田国士訳(附 Jules Renard “ Histoires Naturelles ”原文+やぶちゃん補注版)』を公開している(新字新仮名戦後版)が、今回は国立国会図書館デジタルコレクションの正字正仮名のもの、戦前の岸田國士譯ジュウル・ルナアル 「博物誌」(昭一四(一九三九)年白水社刊)の画像(リンク先は当該書の標題附き扉二)を視認出来るようになったことから、それをブログ版として、新規まき直しで、零から始めることとしたものである。詳しくは初回の冒頭注を参照されたい。
また、ボナールの画像に就いては、十六年前のそれではなく、再度、新潮文庫版のそれを、新たにOCRで読み込み、補正・清拭して用いる。注も一からやり直すこととし、原文は前回のものを調べたところ、アクサンテギュの落ちが有意に認められたので(サイト版は敢えてそのままにしておいた)、新たにフランスのサイト“TEXTES LIBRES”の電子化された同書原文のものをコピー・ペーストさせて戴くこととすることとした。]
ひなげし
彼等は麥の中で、小さな兵士の一隊のやうに、ぱつと目立つてゐる。しかし、もつとずつと綺麗な赤い色をしてゐて、おまけに、物騷でない。
彼等の劍は穗である。
風が吹くと、彼らは飛んで行く。そして、めいめい、氣が向けば、畝(うね)のへりで、同鄕出身の女、矢車草とつい話が長くなる。
[やぶちゃん注:ボナールの挿絵はない。但し、底本では彩色された明石哲三氏の挿絵がここ(本文の前の「庭のなか」の終わった見開き左ページ)に挿入されているので、是非、見られたい。双子葉植物綱キンポウゲ目ケシ科ケシ属ヒナゲシ Papaver rhoeas (雛罌粟)と、ヤグルマソウ=キク目キク科ヤグルマギク属ヤグルマギク Centaurea cyanus 。後者は、当該ウィキによれば、『一部でヤグルマソウとも呼ばれた時期もあったが、ユキノシタ科のヤグルマソウと混同しないように現在ではヤグルマギクと統一されて呼ばれ、最新の図鑑等の出版物もヤグルマギクの名称で統一されている』とあった。原文では、“bleuet”で、フランス語のウィキでは Cyanus segetum で標題するも、これはヤグルマギクのシノニムであるので、間違いない。いやいや、何より、ヤグルマギクはフランスの国花の一種なのである。フランス語のウィキ“Emblème végétal”(「植物の紋章」)のフランスの条に、『ヤグルマギク、デイジー、ポピーはフランスの花の象徴である(ヤグルマギクは第一次世界大戦のフランス退役軍人のシンボルであ』る、と記されてある。これは、フランス語のウィキでは、『ボタン・ホールに附けられたフランスのヤグルマギクは、退役軍人、戦争犠牲者、未亡人、孤児 に対する記憶と連帯の象徴である』とある。本種の花は、正確には青というより、明るい紫色である。なお、本篇は二年先行する『ジュウル・ルナアル「ぶどう畑のぶどう作り」附 やぶちゃん補注』の中に同題(但し、表記は「雛(ひな)げし」)の同じものがある。
「矢車草」辻昶訳一九九八年岩波文庫刊「博物誌」では、注があり、『ひなげしと矢車草はどちらも、ヨーロッパではよく麦畑に生え、麦畑に縁(えん)のある言い伝えをもっている』ともあった。]
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LES COQUELICOTS
Ils éclatent dans le blé, comme une armée de petits soldats ; mais d'un bien plus beau rouge, ils sont inoffensifs.
Leur épée, c'est un épi.
C'est le vent qui les fait courir, et chaque coquelicot s'attarde, quand il veut, au bord du sillon, avec le bleuet, sa payse.
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