「博物誌」ルナアル作・岸田國士譯(正規表現版・ボナール挿絵+オリジナル新補注+原文) 「小蜂」
[やぶちゃん注:本電子化はサイトの「心朽窩新館」で偏愛する『ジュール・ルナール「博物誌」岸田国士訳(附 Jules Renard “ Histoires Naturelles ”原文+やぶちゃん補注版)』を公開している(新字新仮名戦後版)が、今回は国立国会図書館デジタルコレクションの正字正仮名のもの、戦前の岸田國士譯ジュウル・ルナアル 「博物誌」(昭一四(一九三九)年白水社刊)の画像(リンク先は当該書の標題附き扉二)を視認出来るようになったことから、それをブログ版として、新規まき直しで、零から始めることとしたものである。詳しくは初回の冒頭注を参照されたい。
また、ボナールの画像に就いては、十六年前のそれではなく、再度、新潮文庫版のそれを、新たにOCRで読み込み、補正・清拭して用いる。注も一からやり直すこととし、原文は前回のものを調べたところ、アクサンテギュの落ちが有意に認められたので(サイト版は敢えてそのままにしておいた)、新たにフランスのサイト“TEXTES LIBRES”の電子化された同書原文のものをコピー・ペーストさせて戴くこととすることとした。]
小 蜂
いくらなんでも、それでは自慢の腰つきが臺なしになる。
[やぶちゃん注:昆虫綱膜翅(ハチ)目細腰(ハチ)亜目コバチ上科 Chalcidoidea というグループを形成する寄生蜂の一群が存在するが、これは数ミリメートルから一ミリメートル以下の極めて小型の種群である。原文の標題の“La Guêpe”は英語の“wasp”に相當するもので、これはベッコウバチ(クモバチ)科 Pompilidae ・アナバチ科 Sphecidae ・セナガアナバチ科 Ampulicidae ・スズメバチ科 Vespidae などの大形のハチ類の総称であり、コルセットをした女性の比喩という叙述内容の推定からも、「小蜂」という譯語は不適切と言わざるを得ない。臨川書店刊ジュール・ルナール全集第五巻所収の佃裕文訳「博物誌」では、標題を『すずめ蜂』と訳している。しかし乍ら、スズメバチでは、挿絵のようなフルーツと思われるようなものに群がることは、ちょっと考え難い上に(彼らは基本は肉食である。但し、開けられたジュースなどにも潜り込むからあり得ないわけではない)、形状もスズメバチには私には見えないし、スズメバチ類が食卓に飛来したら、こんな落ち着き払ったユーモアを口にする余裕はない。通常、人を刺さないアナバチ科ジガバチ亜科は、この「自慢の腰つき」のフォルムとの親和性が高いが、彼らは、所謂、「狩バチ」の典型的種群であって、やはり、このように食卓に「群れる」ことはないと思われるから(但し、通常時には花の蜜を吸うようだから、あり得ないわけではない)、同定は膜翅目 Hymenoptera で留めておくしかないかとも思われる。但し、個人的には、最もスマートで、腹部前半分が赤茶色の素敵な色をした、あの細腰亜目アナバチ科ジガバチ亜科ジガバチ族ジガバチ属サトジガバチ(ヤマジガバチ・ジガバチ)Ammophila sabulosa を掲げておきたい気持ちは、私には、あるのである。しかも同種はフランスに広く棲息しているのである。但し、一九九四年臨川書店刊『ジュール・ルナール全集』第五巻所収の佃裕文訳「博物誌」の後注によれば、『「彼女はすずめ蜂のような(細くくびれた)腰をしてる」というのは当時のコルセット使用の時代には広く行われた表現であった』とあるからには、やっぱり、細腰亜目スズメバチ上科スズメバチ科スズメバチ亜科 Vespinae のホオナガスズメバチ属 Dolichovespula ・ヤミスズメバチ属 Provespa ・スズメバチ属 Vespa ・クロスズメバチ属 Vespula を挙げざるを得ないか。
辻昶訳一九九八年岩波文庫刊「博物誌」では、本文全体に対して注があり、『女が男から男へとびまわっていると、子供ができて、ウエストが太くなってしまうぞ、ということをにおわせている。』とあった。眼からウエスト!]
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LA GUEPE
Elle finira pourtant par s'abîmer la taille !
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