「博物誌」ルナアル作・岸田國士譯(正規表現版・ボナール挿絵+オリジナル新補注+原文) 「鯨」
[やぶちゃん注:本電子化はサイトの「心朽窩新館」で偏愛する『ジュール・ルナール「博物誌」岸田国士訳(附 Jules Renard “ Histoires Naturelles ”原文+やぶちゃん補注版)』を公開している(新字新仮名戦後版)が、今回は国立国会図書館デジタルコレクションの正字正仮名のもの、戦前の岸田國士譯ジュウル・ルナアル 「博物誌」(昭一四(一九三九)年白水社刊)の画像(リンク先は当該書の標題附き扉二)を視認出来るようになったことから、それをブログ版として、新規まき直しで、零から始めることとしたものである。詳しくは初回の冒頭注を参照されたい。
また、ボナールの画像に就いては、十六年前のそれではなく、再度、新潮文庫版のそれを、新たにOCRで読み込み、補正・清拭して用いる。注も一からやり直すこととし、原文は前回のものを調べたところ、アクサンテギュの落ちが有意に認められたので(サイト版は敢えてそのままにしておいた)、新たにフランスのサイト“TEXTES LIBRES”の電子化された同書原文のものをコピー・ペーストさせて戴くこととすることとした。]
鯨
コルセットを作るだけの材料は、ちやんと口に中に持つてゐる。が、なにしろ、この胴まはりぢや……!
[やぶちゃん注:「コルセット」から、哺乳綱鯨偶蹄目正鯨類 Autoceta(現生鯨類 Neoceti )の内、ヒゲクジラ小目 Mysticeti のヒゲクジラ類に同定される(言っておくと、しばしば誤認された記載があるが、コルセットに用いたのは、クジラの「骨」ではなく、「ひげ」である(ルナールがここで「ちやんと口に中に持つてゐる」と証明している)ので注意されたい)。ウィキの「鯨ひげ」によれば、『ヒゲクジラ亜目の動物の上顎部に見られる、繊維が板状となった器官で』、『ひげ板とも言う。口腔内の皮膚がヒゲクジラ類で独自に変化したもので、髭や毛とは由来が異なる。濾過摂食のためのフィルターとしての役割を持つ。弾力性などに優れることから、プラスチックなどの普及以前には各種工業素材に利用され、捕鯨の重要な目的にもなった』とあり、『素材としての鯨ひげ』の項に、『加工しやすい程度の硬さで、引っ張り強度があり、軽く、弾力性があるなどの優れた性質があるため、エンバ板とも呼ばれ、古くから様々な製品の素材に用いられてきた。古い例としては、正倉院に鯨ひげ製の如意が宝物として収められている。特にセミクジラ科』Balaenidae『のものは、長くて非常に柔軟かつ弾力があることから重宝され、結果としてセミクジラ科の乱獲の一因ともなった』(☜)『その後、弾力のある金属線やプラスチックが普及したため、現在では工芸的な用途を除いては需要は殆どない』とし、『衣服』の条に、『整形用の骨に用い』た。『西洋ではコルセットやクリノリン』(crinoline:一八五〇年代後半に欧米でスカートを膨らませるために発明された鯨ひげや針金を輪状にして重ねた骨組みの下着)『などの女性用下着やドレスの腰部、日本では裃』(かみしも)『の肩など』に使われたとあるので、サイト版では、『なにしろ、この胴まわりだけじゃ……同定しかねる!』と私は洒落たのだが、以上の記載から、
セミクジラ上科セミクジラ科ホッキョククジラ属ホッキョククジラ Balaena mysticetus
同セミクジラ科セミクジラ属ミナミセミクジラ Eubalaena Australia
同セミクジラ属タイセイヨウセミクジラ Eubalaena glacialis
同セミクジラ属セミクジラ Eubalaena japonica
の四種に絞ってよいようである。ボナールの絵はない。]
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LA BALEINE
Elle a bien dans la bouche de quoi se faire un corset, mais avec ce tour de taille !...
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