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2023/12/30

畔田翠山「水族志」 ツルグヒ (サクラダイ)

(三二)

ツルグヒ【紀州若山】 一名アカヤハギ【阿州堂浦】エビスダヒ【土佐浦戶】イトヒキ【勢州阿曾浦】ヲヒロ【紀州田邊】

五六寸ノ者多シ形狀黃稽魚ニ似テ上唇决短ク下唇出身深紅色ニ乄

白斑アリテ縱ニ二道ニ相並ブ腹淡紅色白斑アリ頰淡紅色脇翅紅色

腹下翅深紅色ニ乄端黑色背鬣淡紅色ニ乄頭ヨリ第三ノ刺長ク出一

寸半許下鬣第一刺ノ末長ク出二寸許黃色ニ乄餘ハ淡紅色尾上下俱

ニ細長ニ乄上ハ三寸半許リ出黃色也下ハ三寸許出深紅色眼ノ邊腮

ノ上背ニ及テ黃色ヲ帶上ニ黑斑アリテ頭上ヨリ尾ノ上ニ至ル

○やぶちゃんの書き下し文

つるぐひ【紀州若山。】 一名「あかやはぎ」【阿州堂浦(だうのうら)。】・「えびすだひ」【土佐浦戶(うらど)。】・「いとひき」【勢州阿曾浦。】・「をひろ」【紀州田邊。】

五六寸の者、多し。形狀、「黃檣魚(わうしやうぎよ)」に似て、上唇、决(えぐれ)、短く、下唇、出づ。身、深紅色にして、白斑ありて、縱に二道に相(あひ)並ぶ。腹、淡紅色、白斑あり。頰、淡紅色。脇翅(わきひれ)、紅色。腹下翅(はらしたびれ)、深紅色にして、端(はし)、黑色。背鬣(せびれ)、淡紅色にして、頭(かしら)より第三の刺(とげ)、長く出づ。一寸半許(ばか)り。下鬣(したびれ)、第一刺(し)、末(すゑ)、長く出づ。二寸許(ばかり)。黃色にして、餘(よ)は淡紅色、尾、上下俱(とも)に細長(ほそなが)にして、上は三寸半許り、出づ。黃色なり。下は三寸許、出(いで)、深紅色。眼の邊(あたり)、腮(えら)の上、背に及(および)て、黃色を帶(おぶ)。上に黑斑ありて、頭上より、尾の上に至る。

[やぶちゃん注:底本のここから次のコマにかけて。さて、種同定であるが、国立国会図書館デジタルコレクションの宇井縫蔵氏の「紀州魚譜」(第三版・昭和七(一九三二)年刊)のこちらによって、

スズキ目スズキ亜目ハタ科ハナダイ亜科サクラダイ(桜鯛)属サクラダイ Sacura margaritacea

に同定されるが、畔田の記載は、「紅色」が有意に示されていることから、彼が扱った個体は同種のとなった個体であると考えられる。但し、当該ウィキによれば、『体長約』十五センチメートル。『雌雄で体の色や模様が異なる。雌性先熟で、生まれたときは全て』、『雌であるが、成長すると』、『雄に性転換する』。『雌はオレンジ色を基調とした体色で、背鰭の付け根に』一『対の黒色斑を持つ。雄は真紅の身体に白い斑紋が点在し、非常に美しい。また、婚姻色の雄は、顔の色が銀色に近い桜色となる』とある。「ぼうずコンニャクの市場魚類図鑑」の同種のページの画像で雌雄(三枚の真ん中の写真が♀)の違いが視認出来る。

「つるぐひ」同前の宇井氏の同見開きの右ページに「ツルグエ」が載り、条鰭綱スズキ目ハタ科ハナスズキ属ツルグエ(鶴虞絵(宇井氏の表記を参考にした)) Liopropoma latifasciatum とある。そこで宇井氏は田辺で『之に近いものにも用ひる』とある(実は宇井氏は「サクラダイ」の方にも同じ注記を示しておられる)。「近い」と言われても、WEB魚図鑑」の同種の画像を見ると、凡そ見間違えたり、同じ仲間とは思われない様相である。ようするに、ハタ科 Epinephelidaeのド派手な赤系統の体色を持つ多くの類に、この異名が多く使われていたものらしい。

「阿州堂浦」現在の徳島県鳴門市瀬戸町(せとちょう)堂浦(どうのうら:グーグル・マップ・データ。以下無指示は同じ)。

「土佐浦戶」高知県高知市浦戸。坂本龍馬像があることで知られる。

「勢州阿曾浦」三重県度会郡南伊勢町(ちょう)阿曽浦(あそうら)

「をひろ」恐らく特徴的な分岐して先が延びた尾鰭の上下端からの「尾廣」であろう。

「黃檣魚」ワカサダヒ(キダイ)」で既注だが、再掲すると、『最近、この手の漢語の魚類名を検索してがっくりくるのは、検索結果に、本文も画像も、私のブログとサイトが掛かってきちゃうという鏡返し現象の現実である。一つは、ブログの『栗本丹洲自筆巻子本「魚譜」 ヒメ小鯛・黄檣魚 (キグチ?)』』(スズキ目スズキ亜目ニベ科キグチ属 Larimichthys (シノニム: Pseudosciaena )。同属の本邦産はキグチ  Larimichthys polyactis )『で、今一つは、サイトの「和漢三才圖會 卷第四十九 魚類 江海有鱗魚」の「黄穡魚 はなをれだい」だ。「黃檣魚」の「黃檣」(おうしょう)は、目から鼻孔の部分と上顎の吻部が黄色く、また、背鰭に沿った背部にも三対の黄斑があることが由来で、さらにマダイ Pagrus majorに比して』、キダイは『成魚では鼻孔の周辺部が凹んでおり、口吻が前方に突き出た形になり、その形状が和船の帆を立てた帆柱(檣)に似ているからであろう。両書の内容は、よくキダイに一致しているとは言えるし、キダイの生息域は東シナ海大陸棚からその縁辺域にと広いから、問題ない』としたものである。

「决」前の「カネヒラ」に出た。「抉(えぐ)れて切れていること」の意。]

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