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2023/12/04

フライング単発 甲子夜話卷十一 25 平戶にて魂火を見し人の話

[やぶちゃん注:現在、作業中である柴田宵曲「随筆辞典 奇談異聞篇」のために必要となったので、フライングして電子化する。句読点の変更・追加と、読み・記号・改行・段落を加えた。三話からなり、原文でも改行を施してあるので、間に「*」を入れて区切りとした。]

 

11―25

 人世(じんせい)には「魂火(たまび)」と云(いふ)ものあるにや。

 予が内(うち)の泥谷(ひぢや)某(ぼう)、釣を好み、夜々(よよ)、平戶の海に浮(うかみ)て、鯛を、つる。

 これは碇(いかり)を投じては、宜(よろ)しからず。

 因(よつ)て、潮行(しほゆき)に隨(したがひ)て、海上を流れて、釣糸を下(おろ)す。

 故(ゆゑ)に、舟處(ふなどころ)を違(たが)へざる爲(ため)に、櫓(ろ)を搖(おし)て、流れ去らざらしむ。

 泥谷、乃(すなはち)、僕(しもべ)に櫓を搖(お)させ、己(おのれ)は釣を下して魚の餌(ゑ)につくを、待つ。

 又、その海の向(むかふ)は大洋(おほなだ)、其邊(あたり)半里許(ばかり)に壁立(へきりつ/かべだち)の岸(きし)あり。こゝより、常に、淸泉、湧き出づ。

 僕、主人を顧(かへりみ)て云ふ。

「先より、櫓を搖(おし)て、咽(のんど)、乾くこと、頻(しきり)なり。冀(ねがは)くは、岸に舟をつけ、泉水を一飮(ひとのみ)せん。」

 泥谷、云(いふ)。

「今、釣の最中なり。手を離つべからず。」

とて、舟を岸に着くことを、許さず。

 僕、止(やむ)ことを得ず、櫓を搖(お)し、立ちながら、睡(ねむ)る。

 泥谷、これを見るに、僕の鼻孔の中より、酸漿實(ほほづき)の如き、靑光(あをびかり)の火、出(いで)たり。

『怪し。』

と思ひたるに、

「ふはふは」

と飛行(とびゆき)て、やがて、彼(かの)岸泉(がんせん)の處に到り、泉流(せんりう)に止(とどまり)てあること、良(やや)久(しばし)なり。

 夫(それ)より、又、飛來(とびきたつ)て、やゝ近くなる。

 愈々(いよいよ)、怪(あやし)み、見(み)ゐたるに、僕の鼻孔に入(い)りぬ。

 その時、僕、驚醒(おどろきさ)めたる體(てい)なりければ、泥谷、

「いかにせし。」

と問(とひ)たれば、

「さきに、餘りに、咽(のんど)、乾(かはき)たる故、『舟を岸につけん』と申(まうし)たるを、止(とど)め給ひしゆゑ、勉强して、櫓を搖しゐたれば、不ㇾ覺(おぼえず)、睡(ねむ)りたり。然(しかる)に、夢に、岸泉(がんせん)の處に到り、水を掬(きく)し、飮みて、胸中、快(こころよ)く覺(おぼえ)たるが、睡(ねむり)、醒(さめ)ぬ。もはや、咽、乾かず。」

と言(いひ)たり。

 泥谷も、

「これを聞(きき)て、恐ろしくなりて、好(すき)なる釣を、止(やめ)て、其夜は、還りし。」

と云ふ。

   *

 又、これも、平戶のことなり。

 田村某が家の一婢(いちひ)、頗(すこぶる)、容色あり。

 田村、心に、愛すと雖ども、妻の妬(ねたみ)を恐れて、通ずること、能はず。

 その婢、年期を以て、里に歸る。

 里(さと)、殆(ほとんど)、二里。

 田村、時々、潛(ひそか)に往(ゆ)き、曉に及んで、還る。

 或日暮に、又、ゆく。時に、小雨(こさめ)、ふれり。

 途(みち)半(なかば)にして、村堤(むらづつみ)を行(ゆく)に、前路十餘間[やぶちゃん注:十間は十八・一八メートルであるから、約二十メートル。]、地上を去ること、五、六尺にして、靑光(あをびかり)の小火(せうび)あり。

 酸漿實(ほゝづき)の如し。

 田村、怪しみ、

『狐狸の所爲(しよゐ)。』

とし、已(すで)に斬らんとす。

 然(しか)れども、火、未(いまだ)、遠し。

 因(よつ)て、これに、近(ちかづ)かんとするに、火、乃(すなはち)、田村が前に行くこと、初(はじめ)の如し。

 田村、立止(たちどま)れば、火も、亦、止る。

 田村、爲(せ)ん方なくして行く内に、覺へ[やぶちゃん注:ママ。]ず、婢の家に抵(いた)る。

 婢、いつも、窓下(さうか)に臥す。因(よつ)て、密(ひそか)に戶を開(ひらき)て入(い)る。

 今夜も、常の如く入(いら)んとするに、火は、田村に先だつて、窓中(さうちゆう)に入る。

 田村、愈(いよいよ)、怪しみ、卽(すなはち)、返(かへら)んと爲(せ)しが、

『約信を失ふも、如何(いかが)。』

と、乃(すなはち)、戶を開きて入るに、婢、よく寐(ね)て、不ㇾ覺(さめず)。

 田村、搖起(ゆりおこ)せば、婢、驚き寤(さ)め、且つ、曰ふ。

「君、來(きた)ること、何ぞ遲き。待(まつ)こと、久(ひさし)。ふして、遂に睡(ねむ)れり。然(しか)るに、夢中に『君を、迎へん。』とて、出(いで)て、村堤の邊(あたり)に到るとき、君に逢ふ。因(より)て、相伴(あひともな)ひて、家に入る、と思へば、君、我を、起し給へり。」

と云(いふ)。

 田村、聞(きき)て、婢の情(なさけ)深(ふかき)を悅(よろこぶ)と雖も、旁(かたは)ら、恐懼(きようく)の心を生じ、これより、往(ゆく)こと、稀になりし、となん。

 是も亦、魂火なるべし。

   *

 又、平戶城下の町に、家、富める商估(しやうこ)あり。

 或日、城門外の幸橋(さひはひばし)に納涼(すずみ)して居(をり)たるとき、其鼻孔より、小火(せうくわ)出(いで)たり。

 これも、酸漿實の如くにして、靑光あり。

 その人は云(いふ)に及ばず、餘人も、

「あれ、」

「あれ、」

と云(いふ)うち、次第に、遠く、去る。

 あきれて視(み)ゐたるに、愈々、高くあがり、報恩寺の森に、入りたり。

 商(あきんど)、思ふに、

『こゝは、我が檀那寺(だんなでら)なり。あの火は、魂(たましひ)なるべければ、我(われ)、死、近きにあらん。貨財を有(も)つとも、死して後(のち)、何の益(えき)ぞ。蚤(はや)く散じて、快樂を盡(つく)さん。』

迚(とて)、日夜、飮宴(いんえん)し、或(あるいは)又、遊觀(いうくわん)に日を送りたるに、程(ほど)經ても、死(し)する樣子なく、其中(そのうち)に、家產、竭(つき)て、貧寠(ひんる)の身となりければ、剃髮して、道心者(だうしんじや)となり、市里(いちさと)に乞食(こつじき)せり。

 それより、三、四年を經て、夏(なつ)、夕(ゆふべ)、かの幸橋に涼(すずん)で居(をり)たるに、以前、小火の去(さり)ゆきたる寺林(じりん)の梢より、何か、星の如きもの、飛出(とびいで)たり。

「怪し。」

と望(のぞみ)ゐたるに、來(きた)ること、近くなるゆゑ、不審に思(おもひ)たるに、間近くなると、餘人も、怪(あやし)み見るうち、忽ち、道心が鼻孔の中に、入りぬ。

 己(おのれ)も不思議ながら、爲(せ)ん方もなく、さり迚(とて)、貧が、富にも、復(ふく)せず。

 多くの年月(としつき)をおくり、壽(じゆ)、九十(くじふ)を越(こえ)て、終(をは)れり、と、云(いふ)。

 是又、魂火の一つか。

 或(あるいは)、云(いふ)、

「人世、乘除(じやうじよ)は、何事にもあることなれば、此商(このあきんど)、財を散ぜずんば、必(かならず)、死せしなるべし。財、盡(つき)、身(み)、窮せしより、壽命は延(のび)しならん。」

と。

 斯言(かかるげん)、甚(はなはだ)、深理(しんり)あり。

■やぶちゃんの呟き

「人世」現世。六道の内のこの世である人間道のこと。

「魂火」「たまび」と読んだが、「こんくわ」でもよい。

「泥谷」「ひぢや」は現行姓の圧倒的に多い読みを参考に、かく読んでおいた。

「壁立の岸」この海岸が同定出来ないのは、海好きの私には悔しい。現地の方で、候補があれば、御教授願いたい。

「商估」商売店。

「幸橋」ここ(グーグル・マップ・データ)。

「報恩寺」ここ(グーグル・マップ・データ)。但し、幸橋からは平戸瀬戸を挟んで、東南東約二・五キロメートル離れた本土側であり、距離自体は短いものの、幸橋は低く、しかも両者の間には平戸城を挟んでいて、幸橋から報恩寺は見えない(「グーグルアース」で確認済み)。しかし、この一文は、火の玉となった方の商人の二つに分離した心の視線で見えているのであって、問題はないのである。

「小火の去ゆきたる寺林の梢より、何か、星の如きもの飛出でたり。怪しと望みゐたるに、」こちらは激しく問題がある。寺林の遙か上空なら、幸橋から見えなくもないが、その「林の梢」は絶対に見えない。これによって、この静山が聴いた奇談は、明らかに誰かの創作であり、地形上、あり得ない描写があることから、かなり頭の足りない迂闊な輩の杜撰なデッチアゲと判ってしまうのである。

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