只野真葛 むかしばなし (105) 小便組女顚末
一、世のもてあましものとする小便組(せうべんぐみ)の女を、さる公義衆、かゝへられしに、おさだまりのごとく、三日ばかりは、よくつとめ、のちは、床(とこ)の上に小便をしたりしを、少しも、おどろく色、なかりしかば、大便を、したゝか、仕(し)ておきし、とぞ。
[やぶちゃん注:「小便組」江戸時代、妾(めかけ)奉公に出て、わざと、寝小便を垂れ、暇(いとま)を出されるのをよいことに、支度金や給金を詐取する女、或いは、そうした詐欺行為を企む集団や仲間。「おししぐみ」「ししぐみ」「手水組(ちょうずぐみ)」或いは、単に「小便」とも呼んだ。]
主人は、やはり、いかりの色なく、下人に申付(まふしつけ)て、犬をくゞし[やぶちゃん注:「括(くく)す」縛る。]たるごとく、四ツ繩にしばらせて、中庭に𢌞(まわし)おろし、むしろにて、小屋をかけて、後(うしろ)に大部な、くひ、打(うち)て、それに、繩を結付(ゆひつけ)、人のくひあませし飯汁(めしじる)を、ひとつ器(うつは)に入れて、日に、三度ヅヽ、あてがひ、いやしめ、かひて、出入(でいりの)人々に見せて、
「床上(とこうへ)に、糞(くそ)まり仕(し)ちらし候畜生を、かひたるてい、御覽ぜよ。」
とて、はぢをあたひ[やぶちゃん注:ママ。]しと聞(きく)ぞ、こゝろよきしかたなる。
此主人、「きりやう人(じん)」[やぶちゃん注:「器量人」。]と見へたり。
やどは、このよしを聞つけて、日ごとに、いとまを願(ねがひ)にくれども、一向、とりあわず、
「畜生を、人と見たがへしは、手前のそゝう[やぶちゃん注:ママ。「粗相」「麁喪」。]なり。されど高金(たかがね)いだして、かゝへしもの故、約束の日數(ひかず)、通(かよふ)は、かふ心なり。」[やぶちゃん注:「かふ心」は「孝心(かうしん)」が正しい。或いは、「妾買(めかけが(か)ひ)」に懸けた洒落かも知れぬ。]
とて、ゆるさず、百日近く糺明(きうめい)して後(のち)、ゆるしたり。
小便組の、よき、いましめなり。
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