只野真葛 むかしばなし (99)
一、長庵、幼年の時に、守女(もりをんな)ども兩人、父樣、出前《しゆつまへ》に玄關口に駕(かご)の有(あり)しを、長庵を、のせて、かつぎあげしに、そのゆれる事、地震のごとし。
あと棒の女、聲かけて、
「八助、こしを、すへろ、すへろ。」
と、いへば、先ぽうの女、きいたふりにて、
「ヲヽ、うちへ歸りて、すゑよう。」
と、灸(きう)の氣に成(なり)てこたへし故、大わらひと成(なり)し。
[やぶちゃん注:「長廬」真葛の弟で工藤平助の長男「長庵元保」。幼名は安太郎。家内のネーミングは「藤袴」。あや子より二歳下。二十二歳で早逝した。]
« 只野真葛 むかしばなし (98) | トップページ | 只野真葛 むかしばなし (100) 影の病い――芥川龍之介が自身の怪談集に採録したもの »