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2023/12/09

「にんじん」ジュウル・ルナアル作・岸田國士譯(正規表現版・ヴァロトン挿絵+オリジナル新補注+原文) 「銀貨」

[やぶちゃん注:ジュール・ルナール(Jules Renard 一八六四年~一九一〇年)の “ Poil De Carotte(原題は訳すなら「人参の毛」であるが、これはフランス語で、昔、「赤毛の子」を指す表現である。一八九四年初版刊行)の岸田国士による戦前の翻訳である。

 私は既にサイト版「にんじん ジュウル・ルナアル作 岸田国士訳 挿絵 フェリックス・ヴァロトン(注:やぶちゃん copyright 2008 Yabtyan)」で、新字新仮名遣のそれを十五年前に電子化注している。そこでは、底本は岩波文庫版(一九七六年改版)を用いたが、今回は、国立国会図書館デジタルコレクションのジュウル・ルナアル作岸田國士譯「にんじん」(昭和八(一九三三)年七月白水社刊。リンクは標題のある扉)を用い、正字正仮名遣で電子化し直し、注も新たにブラッシュ・アップする。また、本作の挿絵の画家フェリックス・ヴァロトンFelix Vallotton(一八六五年~一九二五年:スイス生まれ。一八八二年にパリに出、「ナビ派」の一員と目されるようになる。一八九〇年の日本版画展に触発され、大画面モノクロームの木版画を手掛けるようになる。一九〇〇年にフランスに帰化した)の著作権も消滅している。上記底本にはヴァロトンの絵はない(当時は、ヴァロトンの著作権は継続していた)が、私は彼の挿絵が欠かせないと思っているので、岩波版が所載している画像を、今回、再度、改めて取り込み、一部の汚損等に私の画像補正を行った。

 ルビ部分は( )で示したが、ざっと見る限り、本文を含め、拗音・促音は使用されていないので、それに従った。傍点「丶」は下線に代えた。底本の対話形式の部分は、話者が示されダッシュとなる一人の台詞が二行に亙る際、一字下げとなっているが、ブラウザの不具合が起きるので、詰めた。三点リーダは「…」ではなく、「・・・」であるのはママである。各話の末尾に若い読者を意識した私のオリジナルな注を附した(岸田氏の訳は燻し銀であるが、やや語彙が古いのと、私(一応、大学では英語が嫌いなので、第一外国語をフランス語にした)でも、原文と照らしてみて、首をかしげる部分が幾分かはある。中学二年生の時、私がこれを読んだときに立ち返ってみて、当時の私なら、疑問・不明に思う部分を可能な限り、注した。原文はフランスのサイト“Canopé Académie de Strasbourg”の“Jules Renard OIL DE CAROTTE (1900)”PDF)のものをコピーし、「Internet archive」の一九〇二年版の原本と校合し、不審箇所はフランス語版“Wikisource”の同作の電子化も参考にした。詳しくは、初回の冒頭注を参照されたい。

 なお、本篇は三章からなるが、「一」と「二」の間は、ページ冒頭に各章を配した関係から、「一」の後に三行、「二」の前に二行分の行空けがあるが、ここでは、一律、総て二行空けにした。]

 

Ginka

 

     銀  貨

 

 

       

 

ルピツク夫人――お前、なんにも失(な)くしたもんはないかい、にんじん?

にんじん――ないよ。

ルピツク夫人――すぐに「ない」なんて、どうして云ふのさ、知りもしないくせに。まづカクシをひつくり返してごらん。[やぶちゃん注:「カクシ」ポケット。]

にんじん――(カクシの裏を引き出し、驢馬の耳みたいに垂れた袋を見つめてゐる)――あゝ、さうか。返してよ、母さん。

ルピツク夫人――返すつて、何をさ? 失くなつたもんがあるのかい。母さんは、いゝ加減に訊いて見たんだ。さうしたら、やつぱりさうだ。何を失くしたのさ。

にんじん――知らない。

ルピツク夫人――そらそら! 噓を吐こうと思つて、もう、うろうろしてるぢやないか、あわ喰つた[やぶちゃん注:ママ。]鮒(ふな)みたいに・・・。ゆつくり返事をおし。何を失くした? 獨樂かい?[やぶちゃん注:「吐こう」「つこう」。「獨樂」「こま」。]

にんじん――さうさう、うつかりしてた。獨樂だつた。さうだよ、母さん。

ルピツク夫人――そうぢやないよ、母さん。獨樂なもんか。こまは先週、あたしが取上げたんだ。[やぶちゃん注:確かに、原文は“Non, maman. Ce n’est pas ta toupie. Je te l’ai confisquée la semaine dernière.”で« »等で囲まれておらず、逐語的にはこうなるが、これは日本語としては達意の訳になっていない。臨川書店『全集』の佃氏の、『「『いいや、ママ』だろ。独楽じゃないよ。それは先週、母さんが取り上げたろう」』がよい。]

にんじん――そいぢや、小刀だ。[やぶちゃん注:「小刀」戦後版では、『こがたな』のっルビがある。それを採る。]

ルピツク夫人――どの小刀? 誰だい、小刀をくれたのは?

にんじん――だれでもない。

ルピツク夫人――情けない子だよ、お前は・・・。こんなこと云つてたら、きりがありやしない。まるで、母さんの前ぢや口が利けないみたいぢやないか。だけどね、今は二人つきりだ。母さんは優しく訊いてるんだよ。母親を愛してる息子は、なんでも母親にほんとのことを云はなけれや。どうだらう、母さんは、お前が、お金を失くしたんだと思ふがね。銀貨さ。母さんはなんにも知らないよ。でも、ちやんと見當がつくんだ。そうぢやないとは云はせないよ。そら、鼻が動いてゐる。

にんじん――母さん、そのお金は僕んでした。小父さんが、日曜にくれたんです。そいつを失くしちやつたんだ。僕が損しただけさ。惜しいけど、僕、諦めるよ。それに、そんなもん、大して欲しかないんだもの。銀貨の一つやそこら、あつたつて無くつたつて![やぶちゃん注:「小父さん」先の「名づけ親」「泉」「李(すもゝ)」に登場した名づけ親の、最終章の「にんじんのアルバム」の「八」で『名づけ親のピエエル爺さん』と、その名が明らかにされる人物。]

ルピツク夫人――それだ。減らず口は好い加減におし。それをまた、あたしが聽いてるからだ、お人好しみたいに。ぢや、なにかい、小父さんの志を無にしようつて云ふんだね。そんなにお前を甘やかしてくれるのに・・・。どんなに怒ることか。

にんじん――だつて、若しか僕が、そのお金を好きなことに使つたとしたらどうなの? それでも、一生そのお金の見張りをしてなけやいけないか知ら?

ルピツク夫人――うるさいツ! 偉(え)らさうに! このお金はね、失くしてもいけないし、ことわらない前(さき)に使つてもいけません。これやもうお前に渡さないよ。代りがあるなら持つといで。探しといで。造れるなら造つてごらん。まあ、そこはいゝやうにするさ。あつちへおいで。つべこべ云はずに!

にんじん――はあ。[やぶちゃん注:原文は“oui, maman”で、「はい、母さん」。決して、ここで現今の高校生の人を小ばかにしたやうな、「ハア?」をやつてゐる訳ではない。念のため。]

ルピツク夫人――その「はあ」は、これからやめて貰はうかね。一風變つたつもりか知らないけど・・・。それから、すぐに鼻唄を歌つたり、齒と齒の間で口笛を吹いたり、氣樂な馬方の眞似をしたら、今度は承知しないよ。母さんにや、そんなことしたつて、なんにもなりやしないんだ。

 

 

       

 

 にんじんは、小刻(こきざ)みに、裏庭の小徑を往きつ戾りつしてゐる。彼は呻き聲を立てる。少し探しては、時々鼻を啜る。母親が觀てゐるやうな氣がする時は、動かずにゐる。さもなければ、蹲んで、酸模(すかんぽ)を、また細かな砂を指の先でほじくつてゐる。ルピツク夫人の姿が見えないと思ふと、もう探すのを止(よ)して、頤を前に突き出し、しやなりしやなりと步き續ける。[やぶちゃん注:「呻き聲」「うめきごゑ」。「蹲んで」「しやがんで」。]

 一體全體、例の銀貨は何處に落ちてるんだらう? 遙か上の、木の枝か、その邊の古巢の奧か?

 時として、何も探してゐない、何も考へてゐない人達が、金貨を拾ふといふこともある。現にあつたことなのだ。しかし、にんじんは、地べたを逼ひ廻り、膝と爪とを擦り切らし、しかも、留針(ピン)一本拾はずにしまふだらう。[やぶちゃん注:「逼ひ」の漢字はママ。複数回、既出既注。岸田氏の「這」の意の思い込み誤用。]

 彷徨(さまよ)ふ疲れ、當てのない望みに疲れ、にんじんは、とても駄目だと諦めた。で、母親の樣子を見に家へ歸つてみる決心をした。多分彼女はもう落ちついてゐるだらう。銀貨がみつからなければ、もう仕方がない。[やぶちゃん注:「家」前例に徴して「うち」と訓じておく。]

 ルピツク夫人は、影も姿も見えない。彼は、恐る恐る呼んでみる――

 「母さん・・・ねえ・・・母さん・・・」

 返事がない。彼女はたつた今出掛けたばかりだ。そして、仕事机の抽斗を開けたまゝにしてゐる。毛糸、針、白、赤、黑の糸卷の間に、にんじんは、幾つかの銀貨を發見した。[やぶちゃん注:「抽斗」「ひきだし」。]

 それらの銀貨は、そこで、歲月(としつき)を經てゐるらしかつた。どれもこれも眠つてゐるやうだ。稀に眼を覺ましてゐるのもある。隅から隅へ押し合ひ、入り混(まじ)り、そして數は無數だ。

 つまり三つかと思へば四つ、さうかと思へばまた八つなのだ。數へやうにも數へやうがない。抽斗を逆まにし、毛糸の毬(たま)を引つ搔き廻せばいゝのだ。あとは證據と云へば何がある?[やぶちゃん注:「逆ま」戦後版では、『さかさま』。読みは、それで採る。]

 突嗟の思ひつき、これが、事重大な場合でないと彼を見放さないのである。この突嗟の 思ひつきで、彼は今、意を決し、腕を差し伸べ、銀貨を一つ盜んだ。そして逃げ出した。[やぶちゃん注:「事」「こと」。]

 見つかつたらといふ心配で、彼は、躊ふことも、後悔することも、またもう一度仕事机のほうへ引つ返すこともできないのである。[やぶちゃん注:「躊ふ」「ためらふ」。]

 彼は眞つ直ぐに飛び出した。あんまり先へのめつて、止ることすら難かしい。小徑をぐるぐる廻り、此處といふ場所を探し、そこで銀貨を「失く」し、踵で押し込み、腹這ひに寢轉がる。そして、草に鼻をくすぐらせながら、滅多矢鱈に逼ひずつて、不規則な圓をそこ此處に描(か)く。一人が眼隱しをして匿された品物のまわりを廻ると、一人の音頭取りがはらはらしながら、脚を叩いて、[やぶちゃん注:「逼ひ」同前。「描く」戦後版では『描(か)く』と振る。それで採っておく。]

 「もう少し、お藏に火が點(つ)きさう、もう少し、お藏に火が點きさう・・・」

 かう叫ぶあの無邪氣な遊びそのまゝだ。

 

 

       

 

にんじん――母さん、母さん、あれ、あつたよ。

ルピツク夫人――母さんだつて、あるよ。

にんじん――だつて・・・。そらね。

ルピツク夫人――母さんだつて、こら・・・。

にんじん――どら、見せてごらん。

ルピツク夫人――お前、見せてごらん。

にんじん――(彼は銀貨を見せる。ルピツク夫人は、自分のを見せる。にんじんは二つを手に取り、較べてみ、云ふべき文句を考へる) おかしいなあ。何處で拾つたの、母さんは? 僕は、この小徑(こみち)の梨の木の下で拾つたんだ。見つける前に二十度もその上を步いてるのさ。光つてるんだらう。僕、はじめ、紙ぎれか、それとも、白い堇だらうと思つてたんだもの。だから、手を出す氣にならなかつたの。きつと僕のポケツトから落つこつたんだらう、いつか草ん中を轉(ころ)がり廻つた時・・・氣違いの眞似をして…。しやがんでみてごらん、母さん、この野郞(やろう)がうまく隱れたとこをさ、隱(かく)れ家(が)をさ。人に苦勞させやがつて、こいつ得意だらう。[やぶちゃん注:ト書きの下の一字空けはママ。戦後版では空白はなく、ここに『――』が入っている。「小徑(こみち)」「二」で同じ単語があったが、そちらにルビを振らずに、ここで入れているのは、ママ。「堇」「すみれ」。「ポケツト」はママ。「Ⅰ」の初めでは同じ単語“poche”を「カクシ」と訳しており、驚くべきことに次のルピック夫人の台詞では、またまた「カクシ」と訳してある。訳を変える意図が私には全く判らない。「小徑」と同様、訳御や、ルビの先行附け等の一貫性が認められないのは、少し不満がある。]

ルピツク夫人――さうぢやないとは云はない。母さんは、お前の上着の中にあつたのをみつけたんだ。あんなに云つてあるのに、お前はまた、着物を着替へる時にカクシのものを出しとくのを忘れてる。母さんは、物を几帳面にすることを敎へようと思つたんだ。自分で懲りるやうに自分で搜しなさいと云つたんだ。ところが、探せばきつと見つかるつていふことが、やつぱりほんとだつた。さうだらう、お前の銀貨は、一つが二つになつた。えらい金滿家だ。終りよければ總てよし。だがね、いつといてあげるが、お金は仕合せの元手ぢやないよ。

にんじん――ぢや、僕、遊びに行つていゝ、母さん?

ルピツク夫人――いゝとも、遊んでらつしやい。子供臭い遊びはもう決してするんぢやないよ。さ、二つとも持つてお行き。

にんじん――うゝん、僕、一つで澤山だよ。母さん、それしまつといて、またいる時まで・・・ね、さうしてね。

ルピツク夫人――いやいや、勘定は勘定だ。お前のものはお前が持つてゐなさい。兩方とも、これはお前のもんだ。小父さんのと、梨の木のと・・・。梨の木の方は、持主が出れば、こりや別だ。誰だらう? いくら考へてもわからない。お前、心當りはないかい?

にんじん――さあ、ないなあ。それに、どうだつていゝや、そんなこと・・・。明日(あした)考へるよ。ぢや、行つて來るよ、母さん、有りがたう。

ルピツク夫人――お待ち。園丁のだつたら?

にんじん――今すぐ、訊いて來てみようか?

ルピツク夫人――ちよつと、坊や、助けておくれ。考へてみておくれ。父さんは、あの年で、そんなうつかりしたことをなさる筈はないね。姉さんは、貯金はみんな貯金箱に入れておくんだからね。兄さんはお金を失くす暇なんかない。握ると一緖に消えちまふんだから・・・。

さうしてみると、どうもこりや、あたしだよ。[やぶちゃん注:「考へてみておくれ。」底本では、この句点の前に読点があって、『、。』となっている。戦後版では句点である。原文を見ても、句点が相応しい。誤植と断じて句点にした。]

にんじん――母さんだつて? そいつあ、變んだなあ。母さんは、あんなにきちんと、なんでもしまつとくくせに・・・。[やぶちゃん注:「變んだなあ」の「ん」はママ。戦後版では『変だなあ』である。]

ルピツク夫人――大人(おとな)だつて、どうかすると、子供みたいな間違ひをするもんだよ。なに、檢べてみればすぐわかる。とにかく、これや、あたしの問題だ。もう話はわかつた。心配しないでいゝよ。遊んどいで。あんまり遠くへ行かずに・・・。その暇に母さんは、仕事机の抽斗の中をちよつとのぞいて來るから・・・。

 

にんじんは、もう走り出してゐたが、振り向いて、一つ時、遠ざかつて行く母親の後を見送つてゐる。やがて、突然、彼は彼女を追ひ拔く。その前に立ち塞がる。そして、默つて、片一方の頰を差出す。[やぶちゃん注:以上のト書きは底本ではここで、ポイント落ちで、全体が本文一字下げとなっている。]

 

ルピツク夫人――(右手を振り上げ、崩れかゝる)お前の噓吐きなことは百も承知だ。しかし、これほどまでとは思つてなかつた。噓の上へまた噓だ。何處までゞも行くさ。初めに卵一つ盜めば、その次ぎは牛一匹だ。そして、しまひに、母親を締め殺すんだ。

 

最初の一擊が襲ひかゝる。[やぶちゃん注:このト書きも、ここで、同前。]

 

[やぶちゃん注:原本では、ここから。

「あわ喰つた鮒」原文は“ablette étourdie”。既に「釣針」で述べた通り、(音写「アブレット」)。辞書にはコイ属の一種とあるが、これはコイ科の誤りであると思う。ネット上での検索を繰返すことで、どうも本邦には棲息しない(従って和名もない。「ギンヒラウオ」とする辞書を見かけたが、辞書編集者が勝手につけたもののように感ずる。当該ウィキでは「ブリーク」(bleak)とするが気に入らない)コイ科アルブルヌス族アルブルヌス属の Alburnus alburnus 、若しくは、その仲間である。étourdie”は、「お落ち着きのない・輕率な」という形容詞である。因みに、一九九五年臨川書店刊の佃裕文訳の「ジュール・ルナール全集3」では、ここを、『銀ひらうお』と訳し、『ブリーク』といふルビが振られてあるから、確定である。

「酸模(すかんぽ)」ナデシコ目タデ科スイバ属スイバ Rumex acetosa 。私は「すっかんぽ」と呼び、幼少の時から、田圃周辺や野山を散策する際に、しょっちゅうしゃぶったものだった。なお、「すかんぽ」は若芽を食用にすると、やはり酸っぱい味がするナデシコ目タデ科ソバカズラ属イタドリ変種イタドリ Fallopia japonica ver. japonica の別名でもあるが、原文の“OSEILLE”(オザィエ)は、確かにスイバを指す。

「遙か上の、木の枝か、その邊の古巢の奧か?」先の佃裕文氏訳の『ジュール・ルナール全集』第三巻では、ここに注をされ、『カササギは光る物を自分の高い巣に運んで隠すといわれる』と記しておられる。カササギは先にも注したが、スズメ目カラス科カササギ Pica pica 。「カカカカツ」「カチカチ」「カシャカシャ」といつた五月蠅い鳴き声を出す。本邦では大伴家持の「かささぎのわたせる橋におく霜のしろきをみれば夜ぞふけにける」等で七夕の橋となるロマンティクな鳥であるが(但し、日本では佐賀縣佐賀平野及び福岡縣筑後平野にのみに棲息する。但し、これが日本固有種か、半島(韓国に旅した際、実際に金属製のハンガーで巣を拵えている同種を何度も見た)からの渡来種かは評価が分かれている)、ヨーロツパでは、キリストが架刑された際にカササギだけが嘆き悲しまなかったという伝承からか、お喋り以外にも、「不幸・死の告知・悪魔・泥棒(雑食性から。学名の“ pica 自体がラテン語で「異食症の」といふ意味である)とシンボリックには極めて評価が悪い。ここでは「鵲」は示されていないものの、佃氏の注するように、造巣や好奇心のために何でもかんでも持って行く(口にする)カササギの習性を念頭に置いた叙述と考えてよい。

「稀に眼を覺ましてゐるのもある。」この部分全体は、原文では、“Elles semblent vieillir là. Elles ont l'air d'y dormir, rarement éveillées, poussées d'un coin à l'autre, mêlées et sans nombre.”とあり、当該箇所は“rarement éveillées”と思われるが、“rarement”は「稀に」以外に、「滅多に~ない」の意味を持つ副詞で、“rarement éveillées”は「(銀貨は)滅多に眼を覚ますこともなく」の意味であろう。「目を覺ましてゐる」と訳すと、「目を覚ましていない銀貨」と「眼を覚ましてゐる銀貨」の違いが髣髴としてこなければ、良訳とは言えないと私は思う。少なくとも、若年の読者に対しては、である。「にんじん」は是非とも、小学生高学年から中学生頃に、初読して欲しい作品である(私は中学二年の時が初読であった)。

「もう少し、お藏に火が點(つ)きさう、もう少し、お藏に火が點(つ)きさう・・・」原文は“-Attention ! ça brûle, ça brûle !”とある。目隱し鬼に似たようなフランスの子どもの遊びであろうと思われるが、詳細は不明。御教授を乞うものである。]

 

 

 

 

    La Pièce d’Argent

 

     I

 

     MADAME LEPIC

   Tu n’as rien perdu, Poil de Carotte ?

     POIL DE CAROTTE

   Non, maman.

     MADAME LEPIC

   Pourquoi dis-tu non, tout de suite, sans savoir ? Retourne d’abord tes poches.

     POIL DE CAROTTE

Il tire les doublures de ses poches et les regarde

          pendre comme des oreilles d’âne.

   Ah ! oui, maman ! Rends-le-moi.

     MADAME LEPIC

   Rends-moi quoi ? Tu as donc perdu quelque chose ? Je te questionnais au hasard et je devine ! Qu’est-ce que tu as perdu ?

     POIL DE CAROTTE

   Je ne sais pas.

     MADAME LEPIC

   Prends garde ! tu vas mentir. Déjà tu divagues comme une ablette étourdie. Réponds lentement. Qu’as-tu perdu ? Est-ce ta toupie ?

     POIL DE CAROTTE

   Juste. Je n’y pensais plus. C’est ma toupie, oui, maman.

     MADAME LEPIC

   Non, maman. Ce n’est pas ta toupie. Je te l’ai confisquée la semaine dernière.

     POIL DE CAROTTE

   Alors, c’est mon couteau.

     MADAME LEPIC

   Quel couteau ? Qui t’a donné un couteau ?

     POIL DE CAROTTE

   Personne.

     MADAME LEPIC

   Mon pauvre enfant, nous n’en sortirons plus. On dirait que je t’affole. Pourtant nous sommes seuls. Je t’interroge doucement. Un fils qui aime sa mère lui confie tout. Je parie que tu as perdu ta pièce d’argent. Je n’en sais rien, mais j’en suis sûre. Ne nie pas. Ton nez remue.

     POIL DE CAROTTE

   Maman, cette pièce m’appartenait. Mon parrain me l’avait donnée dimanche. Je la perds ; tant pis pour moi. C’est contrariant, mais je me consolerai. D’ailleurs je n’y tenais guère. Une pièce de plus ou de moins !

     MADAME LEPIC

   Voyez-vous ça, péroreur ! Et je t’écoute, moi, bonne femme. Ainsi tu comptes pour rien la peine de ton parrain qui te gâte tant et qui sera furieux ?

     POIL DE CAROTTE

   Imaginons, maman, que j’ai dépensé ma pièce, à mon goût. Fallait-il seulement la surveiller toute ma vie ?

     MADAME LEPIC

   Assez, grimacier ! Tu ne devais ni perdre cette pièce, ni la gaspiller sans permission. Tu ne l’as plus ; remplace-la, trouve-la, fabrique-la, arrange-toi. Trotte et ne raisonne pas.

     POIL DE CAROTTE

   Oui, maman.

     MADAME LEPIC

   Et je te défends de dire « oui, maman », de faire l’original ; et gare à toi, si je t’entends chantonner, siffler entre tes dents, imiter le charretier sans souci. Ça ne prend jamais avec moi.

 

     II

 

   Poil de Carotte se promène à petits pas dans les allées du jardin. Il gémit. Il cherche un peu et renifle souvent. Quand il sent que sa mère l’observe, il s’immobilise ou se baisse et fouille du bout des doigts l’oseille, le sable fin. Quand il pense que madame Lepic a disparu, il ne cherche plus. Il continue de marcher, pour la forme, le nez en l’air.

   Où diable peut-elle être, cette pièce d’argent ? Là-haut, sur l’arbre, au creux d’un vieux nid ?

   Parfois des gens distraits qui ne cherchent rien trouvent des pièces d’or. On l’a vu. Mais Poil de Carotte se traînerait par terre, userait ses genoux et ses ongles, sans ramasser une épingle.

   Las d’errer, d’espérer il ne sait quoi, Poil de Carotte jette sa langue au chat et se décide à rentrer dans la maison, pour prendre l’état de sa mère. Peut-être qu’elle se calme, et que si la pièce reste introuvable, on y renoncera.

   Il ne voit pas madame Lepic. Il l’appelle, timide :

   Maman, eh ! maman !

   Elle ne répond point. Elle vient de sortir et elle a laissé ouvert le tiroir de sa table à ouvrage. Parmi les laines, les aiguilles, les bobines blanches, rouges ou noires, Poil de Carotte aperçoit quelques pièces d’argent.

   Elles semblent vieillir là. Elles ont l’air d’y dormir, rarement réveillées, poussées d’un coin à l’autre, mêlées et sans nombre.

   Il y en a aussi bien trois que quatre, aussi bien huit. On les compterait difficilement. Il faudrait renverser le tiroir, secouer des pelotes. Et puis comment faire la preuve ?

   Avec cette présence d’esprit qui ne l’abandonne que dans les grandes occasions, Poil de Carotte, résolu, allonge le bras, vole une pièce et se sauve.

   La peur d’être surpris lui évite des hésitations, des remords, un retour périlleux vers la table à ouvrage.

   Il va droit, trop lancé pour s’arrêter, parcourt les allées, choisit sa place, y « perd » la pièce, l’enfonce d’un coup de talon, se couche à plat ventre, et le nez chatouillé par les herbes, il rampe selon sa fantaisie, il décrit des cercles irréguliers, comme on tourne, les yeux bandés, autour de l’objet caché, quand la personne qui dirige les jeux innocents se frappe anxieusement les mollets et s’écrie :

   Attention ! ça brûle, ça brûle !

 

     III

 

     POIL DE CAROTTE

   Maman, maman, je l’ai.

     MADAME LEPIC

   Moi aussi.

     POIL DE CAROTTE

   Comment ? la voilà.

     MADAME LEPIC

   La voici.

     POIL DE CAROTTE

   Tiens ! fais voir.

     MADAME LEPIC

   Fais voir, toi.

     POIL DE CAROTTE

   Il montre sa pièce. Madame Lepic montre la sienne. Poil de Carotte les manie, les compare et apprête sa phrase.

   C’est drôle. Où l’as-tu retrouvée, toi, maman ? Moi, je l’ai retrouvée dans cette allée, au pied du poirier. J’ai marché vingt fois dessus, avant de la voir. Elle brillait. J’ai cru d’abord que c’était un morceau de papier, ou une violette blanche. Je n’osais pas la prendre. Elle sera tombée de ma poche, un jour que je me roulais sur l’herbe, faisant le fou. Penche-toi, maman, remarque l’endroit où la sournoise se cachait, son gîte. Elle peut se vanter de m’avoir causé du tracas.

     MADAME LEPIC

   Je ne dis pas non.

   Moi je l’ai retrouvée dans ton autre paletot. Malgré mes observations, tu oublies encore de vider tes poches, quand tu changes d’effets. J’ai voulu te donner une leçon d’ordre. Je t’ai laissé chercher pour t’apprendre. Or, il faut croire que celui qui cherche trouve toujours, car maintenant tu possèdes deux pièces d’argent au lieu d’une seule. Te voilà cousu d’or. Tout est bien qui finit bien, mais je te préviens que l’argent ne fait pas le bonheur.

     POIL DE CAROTTE

   Alors, je peux aller jouer, maman ?

     MADAME LEPIC

   Sans doute. Amuse-toi, tu ne t’amuseras jamais plus jeune. Emporte tes deux pièces.

     POIL DE CAROTTE

   Oh ! maman, une me suffit, et même je te prie de me la serrer jusqu’à ce que j’en aie besoin. Tu serais gentille.

     MADAME LEPIC

   Non, les bons comptes font les bons amis. Garde tes pièces. Les deux t’appartiennent, celle de ton parrain et l’autre, celle du poirier, à moins que le propriétaire ne la réclame. Qui est-ce ? Je me creuse la tête. Et toi, as-tu une idée ?

     POIL DE CAROTTE

   Ma foi non et je m’en moque, j’y songerai demain. À tout à l’heure, maman, et merci.

     MADAME LEPIC

   Attends ! si c’était le jardinier ?

     POIL DE CAROTTE

   Veux-tu que j’aille vite le lui demander ?

     MADAME LEPIC

   Ici, mignon, aide-moi. Réfléchissons. On ne saurait soupçonner ton père de négligence, à son âge. Ta soeur met ses économies dans sa tirelire. Ton frère n’a pas le temps de perdre son argent, un sou fond entre ses doigts.

   Après tout, c’est peut-être moi.

     POIL DE CAROTTE

   Maman, cela m’étonnerait ; tu ranges si soigneusement tes affaires.

     MADAME LEPIC

   Des fois les grandes personnes se trompent comme les petites. Bref, je verrai. En tout cas ceci ne concerne que moi. N’en parlons plus. Cesse de t’inquiéter ; cours jouer, mon gros, pas trop loin, tandis que je jetterai un coup d’oeil dans le tiroir de ma table à ouvrage.

   Poil de Carotte, qui s’élançait déjà, se retourne,

    il suit un instant sa mère qui s’éloigne. Enfin,

   brusquement, il la dépasse, se campe devant

   elle et, silencieux, offre une joue.

     MADAME LEPIC

     Sa main droite levée, menace ruine.

 

   Je te savais menteur, mais je ne te croyais pas de cette force. Maintenant, tu mens double. Va toujours. On commence par voler un oeuf. Ensuite on vole un boeuf. Et puis on assassine sa mère.

 

   La première gifle tombe.

 

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