柴田宵曲「随筆辞典 奇談異聞篇」 「二恨坊の火」
[やぶちゃん注:本書は昭和三六(一九六一)年一月に東京堂から刊行された。この総題の「随筆辞典」はシリーズ物の一書。本書については、初回の冒頭注を、また、作者については、私の『柴田宵曲 始動 ~ 妖異博物館 「はしがき」・「化物振舞」』の私の冒頭注を参照されたい。
底本は国立国会図書館デジタルコレクションのこちらを使用した。新字新仮名である。但し、加工データとして、所持する筑摩書房『ちくま文芸文庫』の「奇談異聞辞典」(底本を解題したもの・二〇〇八年刊)を加工データとして使用させて貰った。ここに御礼申し上げる。
読みが振れる、若い読者が躓くかも知れぬ箇所には《 》で読みを添えた。引用文の場合は歴史的仮名遣を用いた。なお、( )は柴田自身が附したルビである。
また、柴田のストイックな編集法を鑑み、私の注は、どうしても必要と判断したもののみとした。幸い、有意な部分は私が既に電子化注したものがあるので、それをリンクさせてもいる。但し、この原本は新字新仮名であるため、私が電子化していない引用文の原本に当たることが出来たものは、極力、視認出来るように、国立国会図書館デジタルコレクションや他のデータベースの当該部をリンクさせるように努めた。
なお、辞典形式であるので、各項目を各個に電子化する。公開は基本、相互の項目に連関性がないものが多いので、一回一項或いは数項程度とする。]
二恨坊の火【にこんぼうのひ】 〔諸国里人談巻三〕摂津国高槻庄《たかつきのしやう》二階堂村<大阪府茨木市二階堂>に火あり。三月の頃より六七月までいづる。大きさ一尺ばかり、家の棟、或ひは諸木の枝梢《えだ・こづゑ》にとゞまる。近く見れば眼耳鼻口のかたちありて、さながら人の面《おもて》のごとし。讎(あだ)をなす事あらねば、人民さしておそれず。むかし此所《ここ》に日光坊といふ山伏あり。修法《しふほふ》、他にこえたり。村長(むらをさ)が妻、病《やまひ》に臥す。日光坊に加持をさせけるが、閨《ねや》に入て一七日《ひとなぬか》祈るに、則ち病癒えたり。後に山伏と女密通なりといふによつて、山伏を殺してけり。病平癒の恩も謝せず。そのうへ殺害す。この恨《うらみ》、妄火《ばうくわ》となりて、かの家の棟に毎夜飛び来《きたつ》て、長《をさ》をとり殺しけるなり。日光坊の火といふを、二恨坊の火といふなり。
[やぶちゃん注:「諸國里人談卷之三 二恨坊火」及び私の注を参照されたい。この怪火、特に知られた怨念火として知られるものである。]
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