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2023/12/02

「にんじん」ジュウル・ルナアル作・岸田國士譯(正規表現版・ヴァロトン挿絵+オリジナル新補注+原文) 「赤い頰つぺた」

[やぶちゃん注:ジュール・ルナール(Jules Renard 一八六四年~一九一〇年)の “ Poil De Carotte(原題は訳すなら「人参の毛」であるが、これはフランス語で、昔、「赤毛の子」を指す表現である。一八九四年初版刊行)の岸田国士による戦前の翻訳である。

 私は既にサイト版「にんじん ジュウル・ルナアル作 岸田国士訳 挿絵 フェリックス・ヴァロトン(注:やぶちゃん copyright 2008 Yabtyan)」で、新字新仮名遣のそれを十五年前に電子化注している。そこでは、底本は岩波文庫版(一九七六年改版)を用いたが、今回は、国立国会図書館デジタルコレクションのジュウル・ルナアル作岸田國士譯「にんじん」(昭和八(一九三三)年七月白水社刊。リンクは標題のある扉)を用い、正字正仮名遣で電子化し直し、注も新たにブラッシュ・アップする。また、本作の挿絵の画家フェリックス・ヴァロトンFelix Vallotton(一八六五年~一九二五年:スイス生まれ。一八八二年にパリに出、「ナビ派」の一員と目されるようになる。一八九〇年の日本版画展に触発され、大画面モノクロームの木版画を手掛けるようになる。一九〇〇年にフランスに帰化した)の著作権も消滅している。上記底本にはヴァロトンの絵はない(当時は、ヴァロトンの著作権は継続していた)が、私は彼の挿絵が欠かせないと思っているので、岩波版が所載している画像を、今回、再度、改めて取り込み、一部の汚損等に私の画像補正を行った。

 ルビ部分は( )で示したが、ざっと見る限り、本文を含め、拗音・促音は使用されていないので、それに従った。傍点「丶」は下線に代えた。底本の対話形式の部分は、話者が示されダッシュとなる一人の台詞が二行に亙る際、一字下げとなっているが、ブラウザの不具合が起きるので、詰めた。三点リーダは「…」ではなく、「・・・」であるのはママである。各話の末尾に若い読者を意識した私のオリジナルな注を附した(岸田氏の訳は燻し銀であるが、やや語彙が古いのと、私(一応、大学では英語が嫌いなので、第一外国語をフランス語にした)でも、原文と照らしてみて、首をかしげる部分が幾分かはある。中学二年生の時、私がこれを読んだときに立ち返ってみて、当時の私なら、疑問・不明に思う部分を可能な限り、注した。原文はフランスのサイト“Canopé Académie de Strasbourg”の“Jules Renard OIL DE CAROTTE (1900)”PDF)のものをコピーし、「Internet archive」の一九〇二年版の原本と校合し、不審箇所はフランス語版“Wikisource”の同作の電子化も参考にした。詳しくは、初回の冒頭注を参照されたい。

 なお、本篇は全四章からなる長いものが、冒頭の章には「一」は、ない。

 

Akaihotupeta

 

     赤い頰つぺた

 

 

 夜の點呼が濟むと、サン・マルクの寮監先生は寢室から出て行く。すると生徒はめいめい、莢(さや)の中へ納まるやうに、できるだけ縮こまつて毛布の中へ滑り込む。外へはみ出ないやうにだ。室長のヴイオロオヌは、くるりと左右を見廻し、みんなが床に就いたのをたしかめる。それから爪先を立てゝ、そつと燈火(あかり)を小さくする。さうすると、やがて、隣り同志で、お喋りが始まるのである。枕から枕へ、ひそひそと聲が傳はり、動く唇からは、寢室いつぱいに、なんともつかぬざわめきが立ち昇つて、時々、その中で、子音の短く擦れる響きが聞き分けられる。[やぶちゃん注:「サン・マルクの寮」先行する「行きと歸り」 及び「ペン」の私の注を参照。]

 これが、低く鈍(にぶ)く、絕え間なく、はては、じれつたくなる。實際、この種の囁(ささや)きは、まるで鼠のように、姿は見せず、ただそこここで、せつせと沈默を齧(かじ)つてゐるのだとしか思えない。

 ヴイオロオヌは、古靴をひつかけ、一つ時寢臺の間をうろつき廻る。こつちでは一人の生徒の足をくすぐつてみたり、あつちでは、もう一人の生徒の頭巾(づきん)の總(ふさ)をひつぱつたりする。さうした揚句、マルソオのそばで立ち停るのである。この生徒とは、每晚、夜の更けるまで長つ話をし續けて、彼はそれこそ、みんなに模範を示すのだ。大抵の場合、生徒たちは、話をやめてしまつてゐる――口の上へ、毛布をだんだん引つかぶせて、順ぐりに呼吸がつまつたといふ風だ。そこで、みんな眠つてしまふのだが、その間、室長は、まだマルソオの寢臺の上へからだをこゞめ、肱をしつかり鐵の棒の上に支へ、前腕がしびれても氣がつかず、指の先までむづ痒くなつていても、それは一向平氣なのである。[やぶちゃん注:「呼吸」戦後版は『いき』とルビする。それを採る。本底本でも「二」で、そうルビするからである。「むづ痒く」戦後版は濁音で『がゆ』とルビする。それを採る。]

 彼は子供らしい物語に自ら興じ、ざつくばらんな打明け話や、所謂「心の想ひ出」といふやつで、相手の眼を冴え返らしてしまふ。やがて、相手の顏は、ほのかに、透き通るほど色づきはじめる。内側から照らされたやうだ。彼は、それが可愛くてたまらぬ。かうなるともう、皮膚ではない。髓のやうな組織だ。その後ろでは、透(すか)し紙をあてた地圖のやうに、ちよつとした雰圍氣の變化で、小靜脈がみるみるうちに縺れ合ふのである。マルソオは、それに、第一、なぜともわからず、不意に顏を赤らめるといふ魅惑的な手段をもつてゐて、それでまた、彼は、少女のやうに誰かれから好かれるわけなのだ。よく、仲間の一人が、片つ方の頰つぺたを指の先で押さへ、急にそれを放すと、そこへ白い跡が殘り、やがて、そいつが、見事な赤い色で覆はれる。それは、淸水の中へ葡萄酒をたらしたやうにぱつと擴がるのだが、その色合いは至極變化に富み、薔薇色の鼻先からライラツク色の耳に至るまで、徐々にぼかされて行くのである。誰でも、めいめいが、それをやつてみようと思へば、マルソオは機嫌よく實驗の需めに應じるのだ。人はそこで彼に「行燈(あんどん)」とか、「提燈」とか、「赤頰つぺ」とかいふ異名をつけた。が、この、自分勝手に顏色をほてらせ得るといふ性能に對して、彼を羨むものは寡(すくな)くなかつた。

 にんじんは、丁度、彼と寢臺を並べてゐたし、わけても、彼を妬ましく思つた。自分は、淋巴質の、ひよろひよろの、顏に粉(こな)をふいたピエロ――無駄とは知りながら、痛くなるほど、血の氣のない自分の皮膚を抓(つね)り上げた。そんなことをして、どうしようといふんだ! なに、それも每度のことではないが、ちよつぴり、怪しげな褐色の跡をつけるためにである。彼は、マルソオの朱色の頰を、いやといふほど引搔(ひつか)きむしり、蜜柑のやうに皮をひん剝(む)いてやりたいほどだ。[やぶちゃん注:「淋巴質」戦後版では、『りんぱしつ』とひらがなでルビする。それで採る。「褐色」戦後版では『ちゃいろ』とルビするが、通常、素直にはそう読まない。ここは「かつしよく」として読んでおく。]

 よほど前から、どうも氣になつてゐたので、彼は、その晚、ヴイオロオヌが來ると、ぢつと聽き耳を立てゝゐた。怪しいぞと思ふのは、恐らく無理ではあるまい。室長の胡散臭い素振から、ほんとのことを嗅ぎ出さうと思つたのだ。彼は、彼獨特の、あらゆる少年スパイ式術策をめぐらす。空鼾(からいびき)をかき、故さら寢返りを打ち、そつちへ丁度背中を向けてしまふやうにする。それから、魘(うな)されでもしたやうに、ひと聲、けたゝましい叫びを立てる。これで、室全體がびつくりして眼を覺まし、毛布といふ毛布は、激しく波形の運動を起こすのである。さて、ヴイオロオヌが向うへ行つてしまふと、彼は、鼻息荒く、上半身を寢臺から乘り出し、マルソオに向つて云ふ――[やぶちゃん注:「故さら」「ことさら」。]

 「あめちよこ! あめちよこ!」

 返事がない。にんじんは膝で起ち上つてマルソオの腕をつかむ。そして、力まかせにゆすぶりながら、

 「やい、あめちよこ!」

 あめちよこは、聞こえないらしい。にんじんは、躍起となり、またやり出す――

 「だらしがねえぞ! おれが見てなかつたと思ふのか! やい、こら、あいつにキスさせなかつたか! え、どうだ、それでも、てめえ、あいつのあめちよこぢやないのか!」

 彼は、人にからかはれた鷲鳥みたいに、首を前に突き出し、握り拳を寢臺の緣にあてゝ伸び上る。

 が今度は、返事があつた。

 「だから、それが、どうしたんだ」

 腰を浮かしたと思ふと、にんじんは、毛布を引つかぶつた。

 室長が、とつさの間に現はれて、その場へ舞ひ戾つてゐたのだ。

[やぶちゃん注:この後、底本では、「二」の開始を、左見開きページから始めているため、九行分に行空けがあるが、二行に留めた。以下も同じ処理をした。]

 

 

     二

 

 

 「さうだ」と、ヴイオロオヌはいつた――「そうだ、僕はお前にキスした。なあ、マルソオ、その通り云つたつていゝよ。お前はちつとも惡かないんだもの・・・。僕は、お前の額にキスしたんだ。それに、にんじんは、あの年で、もう邪氣滿々なもんだから、それが純粹な、淸淨潔白な接吻で、父親が子供にする接吻みたいなものだつてことがわからないんだ。僕は、お前を子供のやうに愛してるんだ。或は、弟のやうにつていふ方がよけりや、それでもいゝ。それがあいつにやわからないんだから、明日(あした)になつたら、そこいら中へ、なんのかんのつて云ひ觸らすがいゝさ、あのちびころの間拔野郞!」[やぶちゃん注:「淸淨潔白」戦後版は『しょうじょうけっぱく』(歴史的仮名遣では「しやうじやうけつぱく」)とルビする。それに従う。]

 この言葉を聞いて、にんじんは、まだヴイオロオヌの聲が幽かに耳へ響いて來るのに、急に眠つた振りをしはじめる。それでも、頭だけは持ちあげて、その先を聞かうとしてゐた。

 マルソオは、呼吸(いき)をするかしないかで、室長の言葉に聽き入つてゐる。それは、何處までも當り前だとは思ひながら、彼は、ある祕密の暴露を懼れるやうに、慄へてゐるからだ。ヴイオロオヌは、できるだけ小聲で續ける。何を言つてるのか、ほそぼそと、遙か遠くで、音綴の區切りもわからないくらゐだ。にんじんは、またそつちへ向き直るわけにも行かず、腰をずらしながら、目立たないやうにからだを寄せて行つたが、もうなんにも聞こえない。彼の注意力はいやが上にも搔き立てられ、耳がうつろになり、漏斗の口のやうに口を開くかと思はれた。が、それでも、音らしい音は、はいつてこないのである。[やぶちゃん注:「音綴」「おんてつ」とそのまま読んでおく。「二つ以上の単音が結合して生じた音声」を指す語である。フランス語ではしばしば起きる。但し、原文では、“syllabes”(所謂、「シラブル」(英語:syllable)であるから、単に「一纏まりの音」「発音の最小単位」であって、戦後版の『音節』に書き換えられてあるその方が、躓かない。「漏斗」「じやうご」或いは「ろうと」。戦後版では『じょうご』とルビするので、それを採る。「音らしい音」の「音」は「おと」でよい。]

 彼は、時たま部屋の戶口に立つて、中の樣子を窺つたことがある。片眼を錠前に押しつけ、出來ればこの孔をもつと擴げて、見たいものを鎹かなんかで手近へ引寄せられたらと思ふ、あの努力感がこれに似たものだつたことを覺えてゐる。それにしても、ヴイオロオヌは、どうせ同じ文句を繰り返してゐるにきまつてゐるのだ――[やぶちゃん注:「鎹」「かすがひ」。]

 「さうだ、僕の愛情は純の純なるものだ。それがつまり、このちびころの間拔け野郞にやわからないんだ!」

 さて、室長は、影の如く靜かに、マルソオの額の上へこゞんでこれにキスをし、ちよび髭の先をこすりつけ、それから、からだを起して、そこを立ち去る。寢臺の列の間をすべり拔けて行く間、にんじんはそいつを見送つてゐる。ヴイオロオヌの手がどうかして誰かの枕の端に觸れると、こいつは安眠妨害だ。その生徒は、大きく溜息をついて寢返りをうつのである。

 にんじんは、しばらく樣子を窺つてゐる。ヴイオロオヌがまた突然引返して來ないとも限らないからだ。既にもうマルソオは、寢床の中で縮こまつてゐる。毛布を眼までかぶり、その實、眠るどころではなく、どう考へていゝかわからないさつきの出來事を、それからそれへと想ひ浮かべてゐるのだ。あんなことはちつとも厭(いや)らしいことではない、だから、苦にするには及ばないと彼は思つた。それにしても、掛布團の下の暗闇の中に、ヴイオロオヌの面影がちらちらと浮かびあがる。それは今まで數々の夢の中で、彼をぽつとさせた、あの、女たちの面影のやうに優しいものだ。

 にんじんは待ち草臥れた。瞼が、磁氣を帶びたやうに、兩方から近づく。彼は、消えさうで消えない瓦斯の燈をぢつと見つめてゐようと思ふ。が、パツパツと音を立てク、火口(ひぐち)から出澁る小さな焰の明滅を、やつと三つ數へたきりで、彼は眠入つてしまふ。

 

 

    三

 

 

 翌朝、洗面所で、みんながタオルの隅をちよいと水に浸し、頰骨の上を、さも冷たさうに、輕く撫でゝゐる間に、にんじんは、意地の惡い眼附でマルソオの方を視てゐた。が、やがて、精いつぱい獰猛な調子で、一音一音を喰ひしばつた齒の間から吹き出すやうに、またぞろ、喰つてかゝる――

 「あめちよこ! あめちよこ!」

 マルソオの頰は朱色に染まる。が、彼は怒らずに、殆ど哀願せんばかりの眼つきで應へる――

 「だつて、そりや噓だつて云つてるぢやないか。君が勝手にさう思つてるんだ」

 室長が手の檢査をしにやつて來た。生徒たちは、二列に並んで、機械的に最初は手の甲、次に掌と、素早くひつくり返して見せるのである。それが濟むと、その兩手をなるべく溫いところへしまひ込む。ポケツトの中とか、或は、一番近くにある羽根布團のぬくもりの下とか。日頃、ヴイオロオヌは、手なんか見ないのが普通である。それが、今日に限つて、生憎、にんじんの手が綺麗でないと云ふ。もう一度水道で洗つて來るやうに――この注意が、にんじんの氣に入らない。なるほど、靑味がかつた汚點(しみ)のやうなものが目につく。しかし、彼は、それが凍傷(しもやけ)の始まりだと云ひ張つた。どうせ、睨(にら)まれてゐるんだ。[やぶちゃん注:「溫い」は戦後版に従い、「あたたかい」と訓じておく。]

 ヴイオロオヌは、彼を寮監先生のところへやらねばならぬ。

 寮監は、朝早くから起き、暗綠色の書齋で、歷史の講義を準備してゐる。これは自分の暇々に、上級組の生徒にしてやろうといふのだ。テーブル掛の上へ、太い指先を平たく押しつけて、主要なところへ標柱を樹てたつもりになる。――此處は羅馬帝國の沒落、眞ん中は土耳古軍の君府攻略、その先は、近代史、これが何處から始るかわからず、何處まで行つても終わらない代物だ。

 彼は、だぶだぶの部屋着を着てゐる。繡ひのはひつた飾り紐が頑丈な胸を取り卷き[やぶちゃん注:ここは行末で、底本の版組では、禁則処理が出来ない版組みであったと思われるので、読点がない。しかし、やはり読点があるべきところで、戦後版でも読点が打たれている。]圓柱の周りに綱を取りつけたやうだ。この男、ひと目見れば、物を食ひすぎるといふことがわかる。顏つきが、腫れぼつたく、何時も、やゝぎらぎらしてゐる。彼は怒鳴るやうに話をする。婦人に向つてさへもさうだ。頸筋の皺が、カラアの上で、緩やかに韻律正しく波を打つてゐる。彼はまた眼のくり玉の丸いことゝ、髭の濃いことが特徵である。

 にんじんは、彼の前へ突つ立つた。帽子を股ぐらに挾んでゐる。動作の自由を保つためである。

 恐ろしい聲で、寮監は訊ねた。

 「なんの用だ?」

 「先生、室長が、僕の手は穢いから、さう云ひに行けつて云つたんです。だけど、そんなことないんです」

 で、もう一度、俯仰天地に恥ぢずとばかり、にんじんは、兩手をひつくり返して見せた――初めは裏、次は表と、なほ念のため、彼は繰返した――初めに表、次に裏。

 「なに、そんなことはない?! 謹愼四日、わかつたか」

と、寮監は云つた。

 「先生、室長に、僕、にらまれてるんです」

 にんじんが云つた。

 「なに? にらまれてる! 八日だ、わかつたか」

 にんじんは、相手の人物を識つてゐた。こんな生優しいことでは、びくともしない。なんでも來いと覺悟をしてゐるからだ。彼は直立不動の姿勢を取り、兩膝をぎゆつと締め合わせ、橫面(よこづら)をぴしやりと來るぐらゐ庇(へ)とも思はず、いよいよ圖に乘つてきた。

 といふのは、この寮監先生、實は時折、手の甲のことで强情(すね)たりする生徒を、ぴしやり![やぶちゃん注:字空けなしはママ。]とやる罪のない癖があるのだ。そこで、來るなと思つたら、時を測つて、ぴよこりと蹲む。上手(うま)く行けば、寮監は、すかを喰つてよろける。みんながどつと吹き出す。ところが、先生は、もう一度やり直さうとはしない。自分の番に狡(ずる)い眞似をするのは、彼の威嚴に係はるからだ。この頰をと思つたら、一發で擊ち止めるか、さもなくば、手出しはしないことだ。[やぶちゃん注:「この寮監先生、實は時折、手の甲のことで强情(すね)たりする生徒を、ぴしやり!とやる罪のない癖があるのだ。」の「手の甲のことで强情(すね)たりする生徒を」の箇所は、小学生が読んでも明らかに訳としておかしいと判る。臨川書店『全集』の佃氏の訳では、『言うことを聞かない生徒をときおり逆手に張り倒すのが、院長先生の罪のない習癖なのだ。』となっており、全く躓かない。なお、「狡(ずる)い」のルビは、上の「に」に附されてある。誤植であるので訂した。]

 「先生・・・」と、にんじんは、ほんとに太々(ふてぶて)しく、昂然と云ひ放つた――「室長とマルソオとが、變なんです」

 すると寮監の眼は、不意に羽蟲でも飛び込んだやうに、しばしぱツとする。テーブルの端を兩方の拳で押へ、腰を浮かし、にんじんの胸へぶつからんばかりに、顏を突出し、そして、喉の奧から訊ねるのである――

 「どう變なんだ?」

 にんじんは、當てが外れたらしい。彼が待ち設けてゐたのは――尤も、その後はどうなるかわからないが――例へば、アンリ・マルタン著すところの歷史大全が、覘ひ過たず飛んで來ることだつた。ところが、これはまた、詳しい譯を聽かうといふのだ。[やぶちゃん注:「覘ひ過たず」「ねらひあやまたず」。]

 寮監は、待つてゐる。頸筋の皺がみんな集まつて、たゞ一つの圓座をつくり、皮で出來た太い環の上に、頭が斜(はす)かひに載(の)つてゐるのだ。

 にんじんは躊(ためら)つてゐる。うまい言葉が見つかりさうもないとわかるまでの間である。すると、急に悄氣(しよげ)た顏をし、背中をまるめ、見るからにぎごちなく、照れ臭さうに、彼は膝の間へ手をやり、ぺしやんこになつた帽子を拔き出す。だんだん前こゞみになる。肩をすぼめる。それから、その帽子をそつと頤のあたりまで持ち上げ[やぶちゃん注:ここも前と同じく行末で、読点があるべきところである。戦後版では読点がある。]それからまたゆつくり、さりげなく、精一杯神妙に、綿のはいつた帽子の裏へ、默つて、その猿面(さるづら)を埋めてしまふ。

 

 

    四

 

 

 その日、簡單に取調べがあつて、ヴイオロオヌは暇を出された。出て行く時は悲痛だつた。まづ儀式といふところだ。

 「また還(かえ)つて來るよ。ちつと休むだけだ」

 ヴイオロオヌはさう云つた。

 しかし、誰にもさうとは信じられなかつた。寮では、よく職員の入れ替へをやる。まるで、黴が生えるとでも思つてるやうだ。今度も多分、室長の更迭といふわけだらう。彼が出て行くのは、他のものが出て行つた、あれと變りはない。たゞ、好いのほど、早く出て行く。殆んど全體が、彼を愛してゐた。ノートの表題を書く技術では、彼に匹敵するものはないと認めてゐた。例へば、ギリシャ語の練習帳の表紙に「Cahiers d'exercices grecs appartenant à・・・」と、書くのだが、頭文字は看板の字のやうに恰好が取れてゐた。どの椅子も空つぽになる。彼の机の前に、みんなが圓陣を作る。指環の綠の石が光つてゐる彼の美しい手が、しなやかに紙の上を往き來する。頁の下に、卽興的な署名をする。その署名たるや、水に石を投げ込んだやうに、正確で、然も氣紛れな線の、波と渦だ。そして、それが、ちやんと花押(かきはん)になり、小さな傑作なのだ。花押の尻尾(しつぽ)はくねりくねつて花押そのものゝ中へ沒し去つてゐる。そいつを見つけ出すのには、極くそばで眺め、よくよく探さなければならぬ。云ふまでもなく、全體はひと筆の續け書きだ。ある時の如き、彼は「天井の中心飾り」と稱する線のこんぐらかりを見事に描いてみせた。小さい連中は、感嘆これを久しうした。[やぶちゃん注:「Cahiers d'exercices grecs appartenant à・・・」フランス語で「・・・」(そこに人名が入る)「の所有に係るギリシャ語練習帳」の意。但し、「・・・」部分は原文ではフランス語なので、“Points de suspension”俗に言う「トロン・ポワン」、“...”である。「描いて」戦後版では「描」に『か』とルビする。それを採る。]

 彼が暇を出されたといふので、この連中は、ひどく悲しがつた。

 彼等は、最初の機會に、寮監をとつちめなけりやならんと相談を決めた。つまり頰を膨らし、唇で山蜂の飛ぶ音を眞似、かくて不滿の意を表はすといふ次第だ。そのうちに、きつとやらずにはゐないだらう。

 さしあたり、彼等は、悲しみを分ち合つた。ヴイオロオヌは、自分が慕はれてゐるのを知り、休みの時間に發(た)つといふ思はせぶりをやつたものだ。彼の姿が運動場に現はれる。小使が鞄を擔いで後から從(つ)いて來る。さあ、小さい連中は、悉く、駈けつけた。彼は、一人一人手を握り、顏を撫でる。そして、取圍まれ、押しのめされ、微笑みながら、感動しつゝ、自分のフロツクの襞(ひだ)を、破れない程度に引き寄せる努力をしてゐた。鐵棒にぶらさがつてゐたものは、でんぐり返しを中途で止め、それから、口を開けたまゝ、額に汗をかき、シヤツの袖をまくり上げ、粘土(ねばつち)のついた指を擴げたまゝ、地べたへ飛び降りる。もつとおとなしいものは、運動場の中を千篇一律に廻つてゐたが、これは、「左樣なら」のしるしに手を振つてみせる。小使は、鞄の下で背中を曲げ、距りを保つために止つてゐる。ところが、それをいゝことに、一番小さいのが、濡れた砂の中へ突つ込んだ五本の指を、その小使の白い前掛へべつたりと押しつける。マルソオの頰は、繪に描いたやうに薔薇色に染まつた。彼は、生まれてはじめて、眞劍な心の苦しみを味はつた。が、しかし、室長に對して、幾分、「從妹(いとこ)」のやうな氣持で名殘を惜しんでゐることは、なんとしても自分にわかり、それが、また空恐ろしく、彼は、ずつと離れて、不安げに、殆ど顏もあげ得ずに立つてゐる。ヴイオロオヌは、なんのこだわりもなく、彼の方へ進んで行つた。丁度その時、硝子が何處かで、木ツ葉微塵[やぶちゃん注:ママ。「木端微塵」が正しい。]に破(わ)れる音がした。

 みんなの視線が、鐵格子のはまつた、謹愼室の小さな窓の方へ昇つて行つた。不細工な、野蠻なにんじんの顏がのぞいてゐる。彼は顰(しか)めツ面をしてみせた。眼が髮の毛の間から見え、白い齒を殘らず剝(む)き出し、檻の中の蒼ざめた小惡獸そのまゝだ。彼は、右手を、喰ひ込むやうな硝子の割(わ)れ目へ威勢よく突つ込み、そして、その血みどろな拳固でヴイオロオヌを威嚇した。

 「ちびころの間拔(まぬ)け野郞(やろう)! これで氣がすんだか!」[やぶちゃん注:戦後版では、この前に独立一行で、『ヴィオロオヌはそれに応(こた)えた――』の一文が入っている。うん! これは、やっぱりほしいな!]

 「へん!」と、にんじんは、叫ぶがいなや、もう一枚の硝子を陽氣にぶち毀し――「なんだつて、そいつにキスするんだい。どうして俺にしないんだ、え?」

 それから、彼は、切れた手から流れる血を、顏いちめんに塗りたくり、かう附け加へた――

 「おれだつて、赤い頰(ほ)つぺたになれるんだ、いざつて云や・・・」

 

[やぶちゃん注:原本ではここから。本章も私の大好きな(しかし――相応の痛みを伴って――でもある。特にエンディングの鬼のような「にんじん」のガラスを素手で割るシークエンスは思わず、手が震える。私はその映像を確かに見たデジャ・ヴユがあり、若い頃、実際に、酔ってそれをやって、血だらけになった経験があるのである)章である。が、一つ、気になるのが、この室長ヴィオロンヌの年齡である。髭を生やしてゐる点、ヴァロトンの插絵からは、相応な年齡が考えられるのであるが、二十代後半か、三十代か? 当時の私塾のこのやうな職員は幾つぐらいだったのだろう? 識者の御教授を願いたいものである。本邦の戦前の大学寮等の寮監や寮長は、えらい爺さんが多かったが……。

「ライラツク色」:ライラックはヨーロツパ原産の双子葉植物綱モクセイ目モクセイ科ハシドイ属ムラサキハシドイSyringa vulgaris 。春、芳香のある鮮やかな紫色・薄紫色・白色の花を咲かす。ここでは薄い紫色を言う。

「淋巴質」原文“lymphatique”。体質や気質が「リンパ質の」といふ意味で、不活発・無気力・遅鈍な傾向の人格を古典的精神医学でかく言った。嘗つては、こういった性情は、体内のリンパ液が過剰状態にあるため、と考えられていたことに拠る。

「あめちよこ」原文は“Pistolet”。これは「拳銃」であるが、俗語で「変な奴」の意があり、ピストルと相俟って、隠微な意味をも含むようだ。訳のそれは、本来は「小粒の飴玉」のことだが、ここでは明らかに、「舐めさせる」で、男性の同性愛行為の相手役(受け手)を卑しんで言つた語である。

「俯仰天地に恥じず」「孟子」の「盡心 上」にある「仰不愧於天、俯怍不於人、二樂也。」(仰(あふ)ぎて天に愧ぢず、俯(ふ)して人に怍(は)ぢざるは、二つの樂しみなり。)に基づく故事成句。反省してみても、自分の心や行動に、少しもやましい点がないことを言う成句である。

「土耳古軍の君府攻略」一四五三年のオスマン・トルコによる「コンスタンティノープル(現在のイスタンブール)占領」を指す。

「花押(かきはん)」原文は“paraphe”。これは“parafe”と同義で、辞書では、「①署名の終わりの飾り書きや余筆」、「②簡略化した署名・書判(かきはん)」を意味するが、ここでは書いているヴィオロオヌ自身の「署名」のことを言つている。

「アンリ・マルタン」(Henri Martin 一八〇三年~一八八三年)はフランスの歷史家。畢生の大作「フランス史」(“ Histoire de France)三部作十九巻の作者として知られる。

「天井の中心飾り」原文では“cul-de-lampe”。これは「①建築學用語では迫持(せりもち)受け飾り」、「②印刷用語では章末・卷末等のカツト」を言う。岸田氏及び昭和四五(一九七〇)年明治図書刊の『明治図書中学生文庫』14の倉田清氏訳の「にんじん」では、前者の意味でとり、一九九五年臨川書店刊の佃裕文氏の『ジュール・ルナール全集』第三巻では後者の意味で『彼は飾り文様(キュルドランプ)と呼ばれる、書物の各章末に入れられる線の複雑に絡み合った装飾』と訳されておられる。印象としては佃氏の訳に軍配が上がるように思う。

「山蜂」原文は“bourdons”。本邦で「山蜂(ヤマバチ)」といふとニホンミツバチのことを指すが、フランス語でも、ハチ目ハチ亜目ミツバチ科ミツバチ亜科ミツバチ族ミツバチ属Apis(セイヨウミツバチ Apis mellifera等の多種を含む)の♂の意味があるが、ここではミツバチ科マルハナバチ亜科のマルハナバチ属 Bombus の仲間を指していると思われる。確認したところ、年臨川書店全集の佃氏訳でも『マルハナ蜂』と訳されてある。

「粘土(ねばつち)」原文は“colophane”。これは「コルフォニウム脂(し)」、「滑り止めの松脂(まつやに)」のことである。

「從妹(いとこ)のやうな氣持」この「從妹」の部分の原文は“petite cousine”で、普通に考えれば、「從弟」「可愛い從弟」と譯してよいところである(なお、原作は鉤括弧に当たるやうなクォーテーション・マークはない)。前掲の倉田清氏の訳では傍点付きで『いとこ』(しかし、この傍点は意味深長に特に強調するといふ意味よりも、前後がひらがな続きで読みにくいので、単に読み易さを考えた配慮であろう)、佃氏の訳では、極めて直截的に『恋人』と訳してゐる。想像するに、フランス語のニュアンスとしては同性愛の揶揄として佃氏の意味でとる人が多いのであろうが、岸田氏が「從弟」とせずに「從妹」として、かぎ括弧を付した絕妙な優しさを味わいたい。

 なお、原文の各章の間は、一行空けに留めた。]

 

 

 

 

    Les Joues rouges

 

     I

 

   Son inspection habituelle terminée, M. le Directeur de l’Institution Saint-Marc quitte le dortoir. Chaque élève s’est glissé dans ses draps, comme dans un étui, en se faisant tout petit, afin de ne pas se déborder. Le maître d’étude, Violone, d’un tour de tête, s’assure que tout le monde est couché, et, se haussant sur la pointe du pied, doucement baisse le gaz. Aussitôt, entre voisins, le caquetage commence. De chevet à chevet, les chuchotements se croisent, et des lèvres en mouvement monte, par tout le dortoir, un bruissement confus, où, de temps en temps, se distingue le sifflement bref d’une consonne.

   C’est sourd, continu, agaçant à la fin, et il semble vraiment que tous ces babils, invisibles et remuants comme des souris, s’occupent à grignoter du silence.

   Violone met des savates, se promène quelque temps entre les lits, chatouillant çà le pied d’un élève, là tirant le pompon du bonnet d’un autre, et s’arrête près de Marseau, avec lequel il donne, tous les soirs, l’exemple des longues causeries prolongées bien avant dans la nuit. Le plus souvent, les élèves ont cessé leur conversation, par degrés étouffée, comme s’ils avaient peu à peu tiré leur drap sur leur bouche, et dorment, que le maître d’étude est encore penché sur le lit de Marseau, les coudes durement appuyés sur le fer, insensible à la paralysie de ses avant-bras et au remue-ménage des fourmis courant à fleur de peau jusqu’au bout de ses doigts.

   Il s’amuse de ses récits enfantins, et le tient éveillé par d’intimes confidences et des histoires de coeur. Tout de suite, il l’a chéri pour la tendre et transparente enluminure de son visage, qui paraît éclairé en dedans. Ce n’est plus une peau, mais une pulpe, derrière laquelle, à la moindre variation atmosphérique, s’enchevêtrent visiblement les veinules, comme les lignes d’une carte d’atlas sous une feuille de papier à décalquer. Marseau a d’ailleurs une manière séduisante de rougir sans savoir pourquoi et à l’improviste, qui le fait aimer comme une fille. Souvent, un camarade pèse du bout du doigt sur l’une de ses joues et se retire avec brusquerie, laissant une tache blanche, bientôt recouverte d’une belle coloration rouge, qui s’étend avec rapidité, comme du vin dans de l’eau pure, se varie richement et se nuance depuis le bout du nez rose jusqu’aux oreilles lilas. Chacun peut opérer soi-même, Marseau se prête complaisamment aux expériences. On l’a surnommé Veilleuse, Lanterne, Joue Rouge. Cette faculté de s’embraser à volonté lui fait bien des envieux.

   Poil de Carotte, son voisin de lit, le jalouse entre tous. Pierrot lymphatique et grêle, au visage farineux, il pince vainement, à se faire mal, son épiderme exsangue, pour y amener quoi ! et encore pas toujours, quelque point d’un roux douteux. Il zébrerait volontiers, haineusement, à coups d’ongles et écorcerait comme des oranges les joues vermillonnées de Marseau.

   Depuis longtemps très intrigué, il se tient aux écoutes ce soir-là, dès la venue de Violone, soupçonneux avec raison peut-être, et désireux de savoir la vérité sur les allures cachottières du maître d’étude. Il met en jeu toute son habileté de petit espion, simule un ronflement pour rire, change avec affectation de côté, en ayant soin de faire le tour complet, pousse un cri perçant comme s’il avait le cauchemar, ce qui réveille en peur le dortoir et imprime un fort mouvement de houle à tous les draps ; puis, dès que Violone s’est éloigné, il dit à Marseau, le torse hors du lit, le souffle ardent :

   Pistolet ! Pistolet !

   On ne lui répond rien. Poil de Carotte se met sur les genoux, saisit le bras de Marseau, et, le secouant avec force :

   Entends-tu ? Pistolet !

   Pistolet ne semble pas entendre ; Poil de Carotte exaspéré reprend :

   C’est du propre !… Tu crois que je ne vous ai pas vus. Dis voir un peu qu’il ne t’a pas embrassé ! dis-le voir un peu que tu n’es pas son Pistolet.

   Il se dresse, le col tendu, pareil à un jars blanc qu’on agace, les poings fermés au bord du lit.

   Mais cette fois, on lui répond :

   Eh bien ! après ?

   D’un seul coup de reins, Poil de Carotte rentre dans ses draps.

   C’est le maître d’étude qui revient en scène, apparu soudainement !

 

     II

 

   Oui, dit Violone, je t’ai embrassé, Marseau ; tu peux l’avouer, car tu n’as fait aucun mal. Je t’ai embrassé sur le front, mais Poil de Carotte ne peut pas comprendre, déjà trop dépravé pour son âge, que c’est là un baiser pur et chaste, un baiser de père à enfant, et que je t’aime comme un fils, ou si tu veux comme un frère, et demain il ira répéter partout je ne sais quoi, le petit imbécile !

   À ces mots, tandis que la voix de Violone vibre sourdement, Poil de Carotte feint de dormir. Toutefois, il soulève sa tête pour entendre encore.

   Marseau écoute le maître d’étude, le souffle ténu, ténu, car tout en trouvant ses paroles très naturelles, il tremble comme s’il redoutait la révélation de quelque mystère. Violone continue, le plus bas qu’il peut. Ce sont des mots inarticulés, lointains, des syllabes à peine localisées. Poil de Carotte qui, sans oser se retourner, se rapproche insensiblement, au moyen de légères oscillations de hanches, n’entend plus rien. Son attention est à ce point surexcitée que ses oreilles lui semblent matériellement se creuser et s’évaser en entonnoir ; mais aucun son n’y tombe.

   Il se rappelle avoir éprouvé parfois une sensation d’effort pareille en écoutant aux portes, en collant son oeil à la serrure, avec le désir d’agrandir le trou et d’attirer à lui, comme avec un crampon, ce qu’il voulait voir. Cependant, il le parierait, Violone répète encore :

   Oui, mon affection est pure, pure, et c’est ce que ce petit imbécile ne comprend pas !

   Enfin le maître d’étude se penche avec la douceur d’une ombre sur le front de Marseau, l’embrasse, le caresse de sa barbiche comme d’un pinceau, puis se redresse pour s’en aller, et Poil de Carotte le suit des yeux, glissant entre les rangées de lits. Quand la main de Violone frôle un traversin, le dormeur dérangé change de côté avec un fort soupir.

   Poil de Carotte guette longtemps. Il craint un nouveau retour brusque de Violone. Déjà Marseau fait la boule dans son lit, la couverture sur ses yeux, bien éveillé d’ailleurs, et tout au souvenir de l’aventure dont il ne sait que penser. Il n’y voit rien de vilain qui puisse le tourmenter, et cependant, dans la nuit des draps, l’image de Violone flotte lumineusement, douce comme ces images de femmes qui l’ont échauffé en plus d’un rêve.

   Poil de Carotte se lasse d’attendre. Ses paupières, comme aimantées, se rapprochent. Il s’impose de fixer le gaz, presque éteint ; mais, après avoir compté trois éclosions de petites bulles crépitantes et pressées de sortir du bec, il s’endort.

 

     III

 

   Le lendemain matin, au lavabo, tandis que les cornes des serviettes, trempées dans un peu d’eau froide, frottent légèrement les pommettes frileuses, Poil de Carotte regarde méchamment Marseau, et, s’efforçant d’être bien féroce, il l’insulte de nouveau, les dents serrées sur les syllabes sifflantes.

   Pistolet ! Pistolet !

   Les joues de Marseau deviennent pourpres, mais il répond sans colère, et le regard presque suppliant :

   Puisque je te dis que ce n’est pas vrai, ce que tu crois !

   Le maître d’étude passe la visite des mains. Les élèves, sur deux rangs, offrent machinalement d’abord le dos, puis la paume de leurs mains, en les retournant avec rapidité, et les remettent aussitôt bien au chaud, dans les poches ou sous la tiédeur de l’édredon le plus proche. D’ordinaire, Violone s’abstient de les regarder. Cette fois, mal à propos, il trouve que celles de Poil de Carotte ne sont pas nettes. Poil de Carotte, prié de les repasser sous le robinet, se révolte. On peut, à vrai dire, y remarquer une tache bleuâtre, mais il soutient que c’est un commencement d’engelure. On lui en veut, sûrement.

   Violone doit le faire conduire chez M. le Directeur.

   Celui-ci, matinal, prépare, dans son cabinet vieux vert, un cours d’histoire qu’il fait aux grands, à ses moments perdus. Écrasant sur le tapis de sa table le bout de ses doigts épais, il pose les principaux jalons : ici la chute de l’empire romain ; au milieu, la prise de Constantinople par les Turcs ; plus loin l’Histoire moderne, qui commence on ne sait où et n’en finit plus.

   Il a une ample robe de chambre dont les galons brodés cerclent sa poitrine puissante, pareils à des cordages autour d’une colonne. Il mange visiblement trop, cet homme ; ses traits sont gros et toujours un peu luisants. Il parle fortement, même aux dames, et les plis de son cou ondulent sur le col d’une manière lente et rythmique. Il est encore remarquable pour la rondeur de ses yeux et l’épaisseur de ses moustaches.

   Poil de Carotte se tient debout devant lui, sa casquette entre les jambes, afin de garder toute sa liberté d’action.

   D’une voix terrible, le Directeur demande :

   Qu’est-ce que c’est ?

   Monsieur, c’est le maître d’étude qui m’envoie vous dire que j’ai les mains sales, mais c’est pas vrai !

   Et de nouveau, consciencieusement, Poil de Carotte montre ses mains en les retournant : d’abord le dos, ensuite la paume. Il fait la preuve : d’abord la paume, ensuite le dos.

   Ah ! c’est pas vrai, dit le Directeur, quatre jours de séquestre, mon petit !

   Monsieur, dit Poil de Carotte, le maître d’étude, il m’en veut !

   Ah ! il t’en veut ! huit jours, mon petit !

   Poil de Carotte connaît son homme. Une telle douceur ne le surprend point. Il est bien décidé à tout affronter. Il prend une pose raide, serre ses jambes et s’enhardit, au mépris d’une gifle.

Car c’est, chez Monsieur le Directeur, une innocente manie d’abattre, de temps en temps, un élève récalcitrant du revers de la main : vlan ! L’habileté pour l’élève visé consiste à prévoir le coup et à se baisser, et le directeur se déséquilibre, au rire étouffé de tous. Mais il ne recommence pas, sa dignité l’empêchant d’user de ruse à son tour. Il devait arriver droit sur la joue choisie, ou alors ne se mêler de rien.

   Monsieur, dit Poil de Carotte réellement audacieux et fier, le maître d’étude et Marseau, ils font des choses !

   Aussitôt les yeux du Directeur se troublent comme si deux moucherons s’y étaient précipités soudain. Il appuie ses deux poings fermés au bord de la table, se lève à demi, la tête en avant, comme s’il allait cogner Poil de Carotte en pleine poitrine, et demande par sons gutturaux :

   Quelles choses ?

   Poil de Carotte semble pris au dépourvu. Il espérait (peut-être que ce n’est que différé) l’envoi d’un tome massif de M. Henri Martin, par exemple, lancé d’une main adroite, et voilà qu’on lui demande des détails.

   Le Directeur attend. Tous ses plis du cou se joignent pour ne former qu’un bourrelet unique, un épais rond de cuir, où siège, de guingois, sa tête.

   Poil de Carotte hésite, le temps de se convaincre que les mots ne lui viennent pas, puis, la mine tout à coup confuse, le dos rond, l’attitude apparemment gauche et penaude, il va chercher sa casquette entre ses jambes, l’en retire aplatie, se courbe de plus en plus, se ratatine, et l’élève doucement, à hauteur de menton, et lentement, sournoisement, avec des précautions pudiques, il enfouit sa tête simiesque dans la doublure ouatée, sans dire un mot.

 

     IV

 

   Le même jour, à la suite d’une courte enquête, Violone reçoit son congé ! C’est un touchant départ, presque une cérémonie.

   Je reviendrai, dit Violone, c’est une absence.

   Mais il n’en fait accroire à personne. L’Institution renouvelle son personnel, comme si elle craignait pour lui la moisissure. C’est un va-et-vient de maîtres d’étude. Celui-ci part comme les autres, et meilleur, il part plus vite. Presque tous l’aiment. On ne lui connaît pas d’égal dans l’art d’écrire des en-têtes pour cahiers, tels que : Cahiers d’exercices grecs appartenant à… Les majuscules sont moulées comme des lettres d’enseigne. Les bancs se vident. On fait cercle autour de son bureau. Sa belle main, où brille la pierre verte d’une bague, se promène élégamment sur le papier. Au bas de la page, il improvise une signature. Elle tombe, comme une pierre dans l’eau, dans une ondulation et un remous de lignes à la fois régulières et capricieuses, qui forment le paraphe, un petit chef-d’oeuvre. La queue du paraphe s’égare, se perd dans le paraphe lui-même. Il faut regarder de très près, chercher longtemps pour la retrouver. Inutile de dire que le tout est fait d’un seul trait de plume. Une fois, il a réussi un enchevêtrement de lignes nommé cul-de-lampe. Longuement, les petits s’émerveillèrent.

   Son renvoi les chagrine fort.

   Ils conviennent qu’ils devront bourdonner le Directeur à la première occasion, c’est-à-dire enfler les joues et imiter avec les lèvres le vol des bourdons pour marquer leur mécontentement. Quelque jour, ils n’y manqueront pas.

   En attendant, ils s’attristent les uns les autres. Violone, qui se sent regretté, a la coquetterie de partir pendant une récréation. Quand il paraît dans la cour, suivi d’un garçon qui porte sa malle, tous les petits s’élancent. Il serre des mains, tapote des visages, et s’efforce d’arracher les pans de sa redingote sans les déchirer, cerné, envahi et souriant, ému. Les uns, suspendus à la barre fixe, s’arrêtent au milieu d’un renversement et sautent à terre, la bouche ouverte, le front en sueur, leurs manches de chemise retroussées et les doigts écartés à cause de la colophane. D’autres, plus calmes, qui tournaient monotonement dans la cour, agitent les mains, en signe d’adieu. Le garçon, courbé sous la malle, s’est arrêté afin de conserver ses distances, ce dont profite un tout petit pour plaquer sur son tablier blanc ses cinq doigts trempés dans du sable mouillé. Les joues de Marseau se sont rosées à paraître peintes. Il éprouve sa première peine de coeur sérieuse ; mais troublé et contraint de s’avouer qu’il regrette le maître d’étude un peu comme une petite cousine, il se tient à l’écart, inquiet, presque honteux. Sans embarras, Violone se dirige vers lui, quand on entend un fracas de carreaux.

   Tous les regards montent vers la petite fenêtre grillée du séquestre. La vilaine et sauvage tête de Poil de Carotte paraît. Il grimace, blême petite bête mauvaise en cage, les cheveux dans les yeux et ses dents blanches toutes à l’air. Il passe sa main droite entre les débris de la vitre qui le mord, comme animée, et il menace Violone de son poing saignant.

   Petit imbécile ! dit le maître d’étude, te voilà content !

   Dame ! crie Poil de Carotte, tandis qu’avec entrain, il casse d’un second coup de poing un autre carreau, pourquoi que vous l’embrassiez et que vous ne m’embrassiez pas, moi ?

   Et il ajoute, se barbouillant la figure avec le sang qui coule de sa main coupée :

   Moi aussi, j’ai des joues rouges, quand j’en veux!

 

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