只野真葛 むかしばなし (89) / 「むかしばなし」五~了
一、たわけなる事も、言(いひ)つのれば、事六ケ(ことむつか)しく成(なる)こと有(あり)。
御國(みくに)にて、あるねぢけぢゝ[やぶちゃん注:「爺」。]、見世先(みせさき)にmあぐらかきてゐしが、金玉(きんたま)、あらはに見えしを、道行人(みちゆくひと)、みせの物に、直(あたい)を付(つく)る序(ついで)に、
「その金玉も、うり物か。」
と、をどけて[やぶちゃん注:ママ。]聞(きき)しを、
「左樣でござる。」
と答へし故、
「いくらだ。」
と、いへば、
「三兩でござります。」
「三兩、金を出したら、賣(うる)か。」
「隨分、うります。」
と云(いひ)し故、
「おもしろし。」
と、明日(みやうにち)、金三兩、持(もつ)て、
「きのふの金玉、かいにきた。」
と、いひし時、こなたには、死人(しびと)の金玉を切(きり)ておきて、いだしたり。
「是では、ない。」
と、いへば、
「きのふのは、看板で、うられぬ。」
と、いふを、
「それは、ならぬ。」
と、いひつのり、大喧嘩となり、中々、たがひに、きかず、うつたへに成(なり)しぞ。
まがまがしき事かな。
[やぶちゃん注:巻掉尾に女の真葛が掲げるには、ちと、下ネタに落ち過ぎるが、これこそ、当時の稀なる才媛の作家としての面目とも言えなくもない。]
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