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2023/12/31

フライング単発 甲子夜話卷二十三 10 飛脚、箱根山にて怪異に逢ふ事

[やぶちゃん注:現在、作業中である柴田宵曲「随筆辞典 奇談異聞篇」のために必要となったので、フライングして電子化する。句読点の変更・追加と、読み・記号・改行・段落を加えた。]

 

23-10 箱根山(はこねやま)にて怪異に逢ふ事

 何(いづ)れの飛脚か、二人づれにて箱根を踰(こえ)けるとき、夜(よ)、闌(たけなは)に及び、ひとしほ、凄寥(せいれう)[やぶちゃん注:物凄く寂しいこと。]たる折から、山上(さんじやう)、遙(はるか)に、人語の喧々(けんけん)たるを聞く。

 二人、不審に思ひながら行くに、山上の路傍、芝生の處に、幕(まく)、打𢌞(うちまわ)し、数人(すにん)群宴の體(てい)にて、或(あるい)は醉舞、或は放歌、絃声(げんせい)、交〻(こもごも)、起(おこ)り、道路、張幕の爲に、遮られて行(ゆく)こと能(あた)はず。

 二人、相言(あひいひ)て曰(いはく)、

「謁(えつ)を通じて可(か)ならん。」

と。

 因(より)て、幕中(まくうち)に告ぐ。

 幕中の人、應(こたへ)て云ふ。

「通行すべし。」

と。

 二人、卽(すなはち)、幕に入れば、幕、忽然として消滅し、笑語・歡聲も絕えて、寂々たる深山の中(なか)なり。

 二人、驚き、走行(はしりゆ)くに、やゝありて、絃歌(げんか)・人響(じんきやう)、故(もと)の如し。

 顧望(こばう)[やぶちゃん注:振り返って見ること。]すれば、幕を設くること、如ㇾ初(はじめのごとし)。

 二人、益々(ますます)驚き、疾行(しつかう)、飛(とぶ)が如くにして、やうやく、人居(じんきよ)の所に到りし、と。

 これ、世に、所謂、「天狗」なるものか。

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