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2023/12/07

「にんじん」ジュウル・ルナアル作・岸田國士譯(正規表現版・ヴァロトン挿絵+オリジナル新補注+原文) 「大事出來」

[やぶちゃん注:ジュール・ルナール(Jules Renard 一八六四年~一九一〇年)の “ Poil De Carotte(原題は訳すなら「人参の毛」であるが、これはフランス語で、昔、「赤毛の子」を指す表現である。一八九四年初版刊行)の岸田国士による戦前の翻訳である。

 私は既にサイト版「にんじん ジュウル・ルナアル作 岸田国士訳 挿絵 フェリックス・ヴァロトン(注:やぶちゃん copyright 2008 Yabtyan)」で、新字新仮名遣のそれを十五年前に電子化注している。そこでは、底本は岩波文庫版(一九七六年改版)を用いたが、今回は、国立国会図書館デジタルコレクションのジュウル・ルナアル作岸田國士譯「にんじん」(昭和八(一九三三)年七月白水社刊。リンクは標題のある扉)を用い、正字正仮名遣で電子化し直し、注も新たにブラッシュ・アップする。また、本作の挿絵の画家フェリックス・ヴァロトンFelix Vallotton(一八六五年~一九二五年:スイス生まれ。一八八二年にパリに出、「ナビ派」の一員と目されるようになる。一八九〇年の日本版画展に触発され、大画面モノクロームの木版画を手掛けるようになる。一九〇〇年にフランスに帰化した)の著作権も消滅している。上記底本にはヴァロトンの絵はない(当時は、ヴァロトンの著作権は継続していた)が、私は彼の挿絵が欠かせないと思っているので、岩波版が所載している画像を、今回、再度、改めて取り込み、一部の汚損等に私の画像補正を行った。

 ルビ部分は( )で示したが、ざっと見る限り、本文を含め、拗音・促音は使用されていないので、それに従った。傍点「丶」は下線に代えた。底本の対話形式の部分は、話者が示されダッシュとなる一人の台詞が二行に亙る際、一字下げとなっているが、ブラウザの不具合が起きるので、詰めた。三点リーダは「…」ではなく、「・・・」であるのはママである。各話の末尾に若い読者を意識した私のオリジナルな注を附した(岸田氏の訳は燻し銀であるが、やや語彙が古いのと、私(一応、大学では英語が嫌いなので、第一外国語をフランス語にした)でも、原文と照らしてみて、首をかしげる部分が幾分かはある。中学二年生の時、私がこれを読んだときに立ち返ってみて、当時の私なら、疑問・不明に思う部分を可能な限り、注した。原文はフランスのサイト“Canopé Académie de Strasbourg”の“Jules Renard OIL DE CAROTTE (1900)”PDF)のものをコピーし、「Internet archive」の一九〇二年版の原本と校合し、不審箇所はフランス語版“Wikisource”の同作の電子化も参考にした。詳しくは、初回の冒頭注を参照されたい。

 

Daijisyuttai

 

     

 

       ―― 芝 居 風 に ――

 

    第 一 場

 

ルピツク夫人――どこへ行くんだい?

にんじん(彼は新しいネクタイをつけ、靴へはびしよびしよに唾をひつかけた)――父さんと散步に行くの。

ルピツク夫人――行くことはならない。わかつたかい? さもなけや・・・(彼女の右手が、勢ひをつけるために後ろへさがる)

にんじん(低く)――わかつたよ。

 

    第 二 場

 

にんじん(柱時計の下で考へ込みながら)――おれは、どうしたいつていふんだ  痛い目にあわなけや、それでいゝんだ。父さんは、母さんより、そいつが少い。おれは勘定したんだ。父さんには氣の毒だが、まあしやうがない。[やぶちゃん注:初めの一文のあとの二字空隙はママ。戦後版は「? 」。脱字の可能性が極めて高いが、ママとしておく。]

 

    第 三 場

 

ルピツク氏(彼はにんじんを可愛がつてゐる。しかし、いつこう、かまひつけない。絕えず、商用のため、東奔西走してゐるからだ)――さあ、出掛けよう。

にんじん――うゝん、僕、行かないよ。

ルピツク氏――行かないたあ、なんだ? 行きたくないのか?

にんじん――行きたいんだよ。だけど、駄目なんだ。

ルピツク氏――譯を云へ、どうしたんだ?

にんじん――なんでもないの。だけど、家にゐるんだ。[やぶちゃん注:「家」前例に徴して「いへ」と訓じておく。]

ルピツク氏――あゝ、さうか、また例の氣紛れだな。五月蠅い眞似はよせ。一體、どうすれやいゝんだ! 行きたいつて云ふかと思ふと、もう行きたくない。ぢや、いゝから家にゐろ。そして、勝手に泣き面かくがいゝ。

 

    第 四 場

 

ルピツク夫人――(彼女は何時でも、人の話がよく聞えるやうに、用心深く、戶の蔭で聽き耳を立てゝゐるのである)――よしよし、可哀さそうに!(猫撫聲で、彼女は、彼の髮の毛の中に手を通し、それを引つ張る)――淚をいつぱい溜めてるよ、この子は・・・。さうだらうとも、父さんが・・・(そこで彼女は、ルピツク氏の方をそつと見る)――いやだつていふもんを無理に連れて行かうとするからだね。母さんはそんなことしないよ、そんな殘酷ないぢめかたは・・・。(ルピツク夫婦は、背中を向き合はせる)

 

 

    第 五 場

 

にんじん(押入の奧である。二本の指を口の中へ、一本を鼻の孔へ突つ込み)――誰れもかれも、孤兒(みなしご)になるつてわけにやいかないや。

 

[やぶちゃん注:老婆心乍ら、標題中の「出來」は「しゆつたい(しゅったい)」と読む。

原本はここから。なお、「にんじん」には、本書刊行から六年後に書かれた全十一場からなる、同名の戯曲(一九〇〇年初演)が存在する。

「第五場」の前の行空けは二行空けはママ。

 以下の原文は、ト書きに斜体処理が施されているので、一部の字配を除いて、全面的に大文字などを含め、再現した。]

 

 

 

 

    COUP DE THÉÂTRE

 

     SCÈNE PREMIÈRE

 

     MADAME LEPIC

   Où vas-tu ?

     POIL DE CAROTTE

Il a mis sa cravate neuve et craché sur ses souliers à les noyer.

   Je vais me promener avec papa.

     MADAME LEPIC

   Je te défends d’y aller, tu m’entends ? Sans ça… Sa main droite recule comme pour prendre son élan.

     POIL DE CAROTTE, bas.

   Compris.

 

 

     SCÈNE II

 

     POIL DE CAROTTE

  En méditation près de l’horloge.

Qu’est-ce que je veux, moi ? Éviter les calottes. Papa m’en donne moins que maman. J’ai fait le calcul. Tant pire pour lui !

 

     SCÈNE III

 

     MONSIEUR LEPIC

   Il chérit Poil de Carotte, mais ne s’en occupe jamais, toujours courant la pretentaine, pour affaires.

   Allons ! partons.

     POIL DE CAROTTE

   Non, mon papa.

     MONSIEUR LEPIC

   Comment, non ? Tu ne veux pas venir ?

     POIL DE CAROTTE

   Oh ! si ! mais je ne peux pas.

     MONSIEUR LEPIC

   Explique-toi. Qu’est-ce qu’il y a ?

     POIL DE CAROTTE

   Y a rien, mais je reste.

     MONSIEUR LEPIC

   Ah ! oui ! encore une de tes lubies. Quel petit animal tu fais ! On ne sait par quelle oreille te prendre. Tu veux, tu ne veux plus. Reste, mon ami, et pleurniche à ton aise.

 

     SCÈNE IV

 

     MADAME LEPIC

   Elle a toujours la précaution d’écouter aux portes, pour mieux entendre.

   Pauvre chéri ! Cajoleuse, elle lui passe la main dans les cheveux et les tire. Le voilà tout en larmes, parce que son père… Elle regarde en dessous M. Lepic… voudrait l’emmener malgré lui. Ce n’est pas ta mère qui te tourmenterait avec cette cruauté. Les Lepic père et mère se tournent le dos.

 

     SCÈNE V

 

     POIL DE CAROTTE

Au fond d’un placard. Dans sa bouche, deux doigts ; dans son nez, un seul.

   Tout le monde ne peut pas être orphelin.

 

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