柴田宵曲「随筆辞典 奇談異聞篇」 「土佐の竜」
[やぶちゃん注:本書は昭和三六(一九六一)年一月に東京堂から刊行された。この総題の「随筆辞典」はシリーズ物の一書。本書については、初回の冒頭注を、また、作者については、私の『柴田宵曲 始動 ~ 妖異博物館 「はしがき」・「化物振舞」』の私の冒頭注を参照されたい。
底本は国立国会図書館デジタルコレクションのこちらを使用した。新字新仮名である。但し、加工データとして、所持する筑摩書房『ちくま文芸文庫』の「奇談異聞辞典」(底本を解題したもの・二〇〇八年刊)を加工データとして使用させて貰った。ここに御礼申し上げる。
読みが振れる、若い読者が躓くかも知れぬ箇所には《 》で読みを添えた。引用文の場合は歴史的仮名遣を用いた。なお、( )は柴田自身が附したルビである。
また、柴田のストイックな編集法を鑑み、私の注は、どうしても必要と判断したもののみとした。幸い、有意な部分は私が既に電子化注したものがあるので、それをリンクさせてもいる。但し、この原本は新字新仮名であるため、私が電子化していない引用文の原本に当たることが出来たものは、極力、視認出来るように、国立国会図書館デジタルコレクションや他のデータベースの当該部をリンクさせるように努めた。
なお、辞典形式であるので、各項目を各個に電子化する。公開は基本、相互の項目に連関性がないものが多いので、一回一項或いは数項程度とする。]
土佐の竜【とさのりゅう】 〔譚海巻十〕四国の内、土佐は第一の暖国なり。これに続きては伊予なれども、土佐程にはあらず。この二国は南海にむかひ、阿波・讃岐は内海に向ひ、北に向けたれば、さむき事格別異なり。土佐は土用過初秋にいたりて、毎年極りて人家を吹きたふす如きの南風、一両度おこる。この風吹かんとするときは、四五日以前より海の鳴る音、日夜夥だしきゆゑ、人々かねて風の来らん用心をするなり。また夏月は時々竜出る事あり。竜のとほりたる道筋、左右へ二間ほどの間は、一物も残らずかなぐりすてて、赤地《せきち》[やぶちゃん注:草木の全くない荒地。赤土(せきど)。]となる事たえず。それゆゑ竜の出るをみては、人々競ひ集りて鳴物を打ちたゝき竜を逐ふなり。かくすれば竜逐はれて人家によりつかず、遠くさけてしりぞくといふ。また夏月は夜々電光の照らす事、暗夜は海面に映じて、その光りはなはだいやなる気味なり。これがために、夏は夜漁すれども魚を得る事少なしといへり。
[やぶちゃん注:事前に「譚海 卷十 土州暖國幷夏月龍を逐事(フライング公開)」を公開しておいた。]
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