柴田宵曲「随筆辞典 奇談異聞篇」 「濃州仙女」
[やぶちゃん注:本書は昭和三六(一九六一)年一月に東京堂から刊行された。この総題の「随筆辞典」はシリーズ物の一書。本書については、初回の冒頭注を、また、作者については、私の『柴田宵曲 始動 ~ 妖異博物館 「はしがき」・「化物振舞」』の私の冒頭注を参照されたい。
底本は国立国会図書館デジタルコレクションのこちらを使用した。新字新仮名である。但し、加工データとして、所持する筑摩書房『ちくま文芸文庫』の「奇談異聞辞典」(底本を解題したもの・二〇〇八年刊)を加工データとして使用させて貰った。ここに御礼申し上げる。
読みが振れる、若い読者が躓くかも知れぬ箇所には《 》で読みを添えた。引用文の場合は歴史的仮名遣を用いた。なお、( )は柴田自身が附したルビである。
また、柴田のストイックな編集法を鑑み、私の注は、どうしても必要と判断したもののみとした。幸い、有意な部分は私が既に電子化注したものがあるので、それをリンクさせてもいる。但し、この原本は新字新仮名であるため、私が電子化していない引用文の原本に当たることが出来たものは、極力、視認出来るように、国立国会図書館デジタルコレクションや他のデータベースの当該部をリンクさせるように努めた。
なお、辞典形式であるので、各項目を各個に電子化する。公開は基本、相互の項目に連関性がないものが多いので、一回一項或いは数項程度とする。]
の
濃州仙女【のうしゅうせんじよ】 〔兎園小説第十集〕大垣領にや、北美濃越前境にもや、根尾野山中に仙女住居申候。初めには斎藤道三の女子なりと申し伝へ候所、さにはあらで越前の朝倉が臣の妻、懐妊の身にて朝倉没落の時、山中へのがれ、女子を出産せし。その女子幽穴中にて成長し、今年は二百六十歳計り、顔色は四十歳の人と相見え申候。髪はシユロの毛の如しと申候。写真も不ㇾ遠来り可ㇾ申存候。詳《つまびらか》なる事は未だ所々水災にて、誰も誰も途中の決口を恐れ得往観不レ申候なり。奇な事に候。
九月四日
右尾張公儒官秦鼎手簡なり。〈『道聴塗説十編』に同様の事がある〉
[やぶちゃん注:私の『曲亭馬琴「兎園小説」(正編) 濃州仙女』を参照されたい。書簡の枕部分が、全部、カットされてしまっている。これはいかんでしょう! 以下に示す。
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今年は、雨、多にて、濃州も前月十四日夜、水災、長良川、殊に溢決いたし、尾州領も、堤三千間も溢決申し候。溺死も今日にて百人計も相分候へども、いづれも二百人からの儀と相聞候。總ては八百人とも千人とも申候。可憐事ども、いはん樣も無之候。
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なお、発表者「輪池」は、馬琴と非常に親しかった幕府御家人で右筆にして国学者であった屋代弘賢(やしろひろかた)の号。]
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