只野真葛 むかしばなし (98)
一、濱町に工藤家かり宅せし時の家主は、木村養春とて、二百俵の公義御醫師にて有(あり)しが、勝(すぐれ)たる小男なり。
品川の「年明(ねんあけ)女郞」を後妻とせしが、此女も、
「坊主、大きらひ。小男も、きらひ。」
にて、いつも此二色(ふたいろ)の客をとれば、ふりつけて、あはざりし、とぞ。
[やぶちゃん注:「ふりつけて」「振り付けて」で、「人を嫌って、はねつける。」の意。]
其女のかたへ、なじみにてくる客、二人、有し時、壱人は有馬の家中とやらにて、殊の外、わる氣のまわる大ねぢ客なりし。
此客、きたれば、粉(こ)になるおもひなりしに、二日、居(ゐ)つゞけせられ、やうやう、かへして、
『やれ、うれしや。橫にでもなつて、ちと、休(やすま)う。』
と、おもふ時、初會の客、有(あり)。
みれば、小男・ぼうづなり。
物をも、いはず、得手(えて)のごとく、ふりつけしを、少しも氣にかけしていもなく、居つゞけして、新造・かむろを相手にして、打(うち)はを、ふつて、居(をり)し、氣のかるさ。[やぶちゃん注:「打(うち)は」「団扇」か。]
「寢床の中にて、『是そこ[やぶちゃん注:ママ。「是(これ)こそ」の誤記。]、まことの『こなれ人(びと)』といふにやあらん。』と、おもひしより、打とけてなじみとなり、年明にて、身のかたづく時も、願(ねがひ)て、爰(ここ)へきたりしが、緣は、いなものなり。」
と、心やすき人に、かたりし、とぞ。
[やぶちゃん注:「97」に続く「うかれめの、おもはぬ人にそふは、珍らしからず、といへども、まさしく見しこと」の第二話。]

