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2023/12/10

柴田宵曲「随筆辞典 奇談異聞篇」 「手形傘」

[やぶちゃん注:本書は昭和三六(一九六一)年一月に東京堂から刊行された。この総題の「随筆辞典」はシリーズ物の一書。本書については、初回の冒頭注を、また、作者については、私の『柴田宵曲 始動 ~ 妖異博物館 「はしがき」・「化物振舞」』の私の冒頭注を参照されたい。

 底本は国立国会図書館デジタルコレクションのこちらを使用した。新字新仮名である。但し、加工データとして、所持する筑摩書房『ちくま文芸文庫』の「奇談異聞辞典」(底本を解題したもの・二〇〇八年刊)を加工データとして使用させて貰った。ここに御礼申し上げる。

 読みが振れる、若い読者が躓くかも知れぬ箇所には《 》で読みを添えた。引用文の場合は歴史的仮名遣を用いた。なお、( )は柴田自身が附したルビである。

 また、柴田のストイックな編集法を鑑み、私の注は、どうしても必要と判断したもののみとした。幸い、有意な部分は私が既に電子化注したものがあるので、それをリンクさせてもいる。但し、この原本は新字新仮名であるため、私が電子化していない引用文の原本に当たることが出来たものは、極力、視認出来るように、国立国会図書館デジタルコレクションや他のデータベースの当該部をリンクさせるように努めた。

 なお、辞典形式であるので、各項目を各個に電子化する。公開は基本、相互の項目に連関性がないものが多いので、一回一項或いは数項程度とする。

 

        

 

 手形傘【てがたがあ】 〔裏見寒話巻二〕常の長柄の傘なり。中古徳行いみじき勇猛剛強なる住僧ありしとかや。国中その力を賞して朝比奈和尚と云ふ。或る時当寺へ亡者来れり。既に葬礼を行ひ、和尚引導に立つ時、雷鳴烈しくして疾風暴雨、衆僧も施主も大いに恐れ怖(をのの)く所に、黒雲、堂中に舞下り、電光眼《まなこ》を突く。和尚も龕(がん)<寺の塔>の上に登りて、読経して居られしに、忽然として一声の迅雷、龕の上へ落掛ると見えしが、雲の中より大手を出して、和尚を摑み除かんとす。和尚も腕を伸《のば》し怪物の腕をつかみ、暫く争ふと見えしが、雲中より怪異の獣《けだもの》を引下《ひきおろ》し、和尚膝の下に敷き、怪物刎(はね)返らんとすれども、猛力に挫《くじ》かれて働き得ず。その内に雲晴渡りて、雨止み風静まり、怪獣登らんとするに雲気なく、色々悲しみて命を乞ふ。住侶《ぢゆうりよ》[やぶちゃん注:住僧に同じ。]怒て曰く、□□□[やぶちゃん注:底本の当該部(最上段後ろから六行目)は、二字半から三字分程の長方形の欠字表記となっている。しかし、後に掲げる活字本では、別底本で、欠字はなく、前の部分や後の部分が、かなり異なり、『……雲氣なく、頻りに悲しみ“て命の助からん事を乞。和尙怒て此事を聞入され共、衆僧命丈は助け遣さん事を願ふ。然らば事故以後、我同宗の亡者を妨げ、……』となっている。是非、正字表現のそちらを読まれたい。]悲しむ事甚し。衆僧も彼が為に一命を助けん事を願ふ。和尚曰く、自今我同宗の亡者を妨げ、または時宗の人たらば、在俗の家たりといふとも、雷落《おつ》る事有るべからず。怪物悦んで肯(うけが)ふ。和尚の云ふ。然らばこの約束相違有るべからず、証文を書けと云ふ。怪物曰く、臣《しん》[やぶちゃん注:和尚に対して遜った自称。]は深山の怪獣、字を学びし事なし、願くば[やぶちゃん注:活字本は『願くは』と清音。私はその方が好きだ。]その証文を免(ゆる)せ。和尚云ふ。然《しか》らば己れが掌《てのひら》に墨を付け、この傘に手形を押すべしとて、即ちその通りになす。今に於いてこの長柄傘を葬送の時は必ずさすと云ふ。六月蟲干の時、諸人に見す。其手の跡、貓(ねこ)の類《たぐひ》にもあらんか、猫より至極大いなりといふ。[やぶちゃん注:逆に活字本では、この最後の一文がない。

[やぶちゃん注:この怪物、雷鳴とともに現われ、お和尚に引き落とされているところからは、まさに怪奇談に出現する「雷獸(らいじう)」とすべきところなのに(おまけに人語まで操っているのは、私の知るそれでは珍しい部類である)、そう書いていないのは不審である。「雷獸」は、私のものでは、「耳嚢 巻之六 市中へ出し奇獸の事」(挿絵有り)、

「谷の響 五の卷 五 怪獸」、また、『「南方隨筆」底本正規表現版「紀州俗傳」パート 「十四」』(私の注に挿絵有り)がよかろう。手っ取り早く、総覧的に読むなら、ウィキの「雷獣」がある。

「裏見寒話」「小豆洗」で既出既注。国立国会図書館デジタルコレクションの『甲斐志料集成』第三(昭和八(一九三三)年甲斐志料刊行会刊)のここで正字表現で視認出来るが、本文注で書いた通り、かなりの異同がある別底本である。

「貓(ねこ)の類にもあらんか、猫より至極大いなりといふ。」の「貓」と「猫」の違いはママ。意味は同じくネコを指し、異なった意味は基本的には、ない(熟語になると、別種となることはある)。「拝島大師」「本覚院」の公式サイト内の「【漢字講座】猫・貓(ねこ)」によれば(ちょっと叙述に不全があるので、私が少し補填しておいた)、『実は猫という漢字は「ねこ」に相応しくないのです。猫の偏は獣偏(けだもの偏)』[やぶちゃん注:ママ。通常は「けものへん」。]『ですが、犬偏という言い方もあります。犬の偏に苗と書いて猫になるのでは、犬と猫が同類になってしまう。ねこは猫という漢字ではイヤだというでしょう。ねこは貓が正字です。豸偏』(通常は「むじな」「むじなへん」と読む)『なのです。豸は獣が背を長くし、飛び上がって獲物に襲いかかろうとする様を表わします。ねこの漢字にぴったりです。貓も猫も右のつくりには苗があります。その音は』『びょう』、『現在の中国語では』『みゃお』『(miao)ですが、猫・貓の啼き声「にゃおにゃお」を現在の中国人は「みゃおみゃお」、昔の中国人は「びょうびょう」と聞こえたのです。猫・貓のつくりの苗の意味は田圃の「なえ」ですが』、『何の関係もありません。ただ猫・貓の音を苗の音に借りたのです。要するに「にゃおにゃお」「みゃおみゃお」と啼く獣が貓・猫なのです。豸偏の獣には豹(ひょう)・豺(やまいぬ)・貂(てん)・貉(むじな)・貍(たぬき)・貘(獏、ばく)などが有ります。豹は虎に似ているので彪という漢字もあります。容貌の貌も豸偏ですが、顔を言います。かたちの意味です』。『中国では猫の熟語はなく、貓の熟語ばかりです。ただ日本では貓をねこの漢字に使うことが少ないので、逆に猫の熟語ばかりです。まず、』貓『・猫共通の熟語を挙げますと、猫の額(ひたい)、猫額大』(びょうがくだい:猫の額ほどの大きさ。「非常に狭いこと」を指す熟語。)『があります。猫はひたいがせまいので猫の額の土地という言い方があります』。『猫目、貓目はきらきら輝く目ですが、猫目珠、貓目珠、猫目石、貓目石』(総て「ねこめいし」と訓じてよい)『という宝石があります。猫足、貓足は香炉などの足で装飾的な卓台、テ―ブル、膳の足に使われますが、猫脚、貓脚とも言います』。『猫・貓が犬と根本的に異なる動物だと日本人が考えたのは、猫は化けることがあるということです。化け猫ですが、中国でも貓鬼、貓王という怪物が居ます。貓股は日本でも猫股、能く化けて人を害すと言われました。日本の佐賀鍋島の化け猫は有名な話です』とあった。]

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