譚海 卷之六 泉州水馬觀音に福を借る事
[やぶちゃん注:これまでのフライング単発で、推定歴史的仮名遣の読みは勿論、句読点・記号変更・追加、段落成形を行ってきた関係上、以下でも、読者の読み易さを考え、「卷之六」以降、それをルーティンに正式に採用することとする。]
○泉州、水馬屋(みづまや)觀世音へは、大坂より、六里あり。
「觀世昔は、稻荷明神の本地(ほんぢ)にまします。」
とて、二月初午には、參詣する人、あまたなり。
「此觀音に、福をかる事。」
とて、觀音の散錢を借(かり)て、もて歸り、あきなひなどするに、かならず、德ぶん、つく事なり。
それゆゑに、觀昔に詣(まふで)て、錢、借る人、おほし。
この錢、たとへば、二百錢、かりまゐらすれば、かへす時、倍して、四百せんにて、返す事也。
むかし、大坂の人、
「觀音の錢、二百錢かりて、商賣のもとでとなせしが、大(おほき)に、德、つきて、八千貫の利を得候。」
よし、ものがたりぬ。
「その事は、かしこの記にも、しるしあり。」
と、いへり。
[やぶちゃん注:「泉州、水馬屋觀世音」底本後注に、『大阪府下貝塚市水間の水間寺』(みづまでら)『の観世音堂。水間観音の福銭のことは、西鶴の「日本永代蔵」にも見えている』とある。ここ(グーグル・マップ・データ)。「日本永代藏」のそれは、国立国会図書館デジタルコレクションの岩波文庫版(和田万吉校訂・昭和七(一九三二)年刊)の「卷之一」の巻頭の『初午(はつうま)は乘(のつ)てくる仕合(しあはせ)』の中に記されてあるのが、視認出来る。]