譚海 卷之六 江戶御本丸溜りの間鍵井伊家預りの事
[やぶちゃん注:これまでのフライング単発で、推定歴史的仮名遣の読みは勿論、句読点・記号変更・追加、段落成形を行ってきた関係上、以下でも、読者の読み易さを考え、「卷之六」以降、それをルーティンに正式に採用することとする。]
○御本丸「溜(たまり)の間(ま)」、鍵(かぎ)は、井伊掃部頭殿、御預りにて、井伊家の留守居の下役、每朝・暮、登城して、開閉を勤(つとむ)る也。
又、御城近火(ちかび)には、井伊家玄關前には、軍陣の道具を指置(さしおき)、公方樣、御立退(おたちのき)あれば、そのまゝ、御供の用意のために備へらるゝ、とぞ。
都(すべ)て、井伊家、甲州の浪人を付置(つきおか)れしより、軍事に、うけはりたる家にて、掃部頭殿、道中往來のせつも、大井川こえらるゝときは、掃部頭殿ばかり、れん臺にて、その餘、家來は、大身といへども、みなみな、かちわたりにて、主人の駕(かご)につきそひ、川中といへども、行列を、みださず、わたらるゝ事といへり。
尤(もつとも)、川ごしのもの、壹人づつは、したがへらるゝといへども、
「殊に、なんぎなる事。」
と、いへり。
[やぶちゃん注:「溜りの間」大名詰所の一つとして江戸城内黒書院に附属する部屋。]