柴田宵曲「随筆辞典 奇談異聞篇」 「貧乏神」 / 「ひ」の部~了
[やぶちゃん注:本書は昭和三六(一九六一)年一月に東京堂から刊行された。この総題の「随筆辞典」はシリーズ物の一書。本書については、初回の冒頭注を、また、作者については、私の『柴田宵曲 始動 ~ 妖異博物館 「はしがき」・「化物振舞」』の私の冒頭注を参照されたい。
底本は国立国会図書館デジタルコレクションのこちらを使用した。新字新仮名である。但し、加工データとして、所持する筑摩書房『ちくま文芸文庫』の「奇談異聞辞典」(底本を解題したもの・二〇〇八年刊)を加工データとして使用させて貰った。ここに御礼申し上げる。
読みが振れる、若い読者が躓くかも知れぬ箇所には《 》で読みを添えた。引用文の場合は歴史的仮名遣を用いた。なお、( )は柴田自身が附したルビである。
また、柴田のストイックな編集法を鑑み、私の注は、どうしても必要と判断したもののみとした。幸い、有意な部分は私が既に電子化注したものがあるので、それをリンクさせてもいる。但し、この原本は新字新仮名であるため、私が電子化していない引用文の原本に当たることが出来たものは、極力、視認出来るように、国立国会図書館デジタルコレクションや他のデータベースの当該部をリンクさせるように努めた。
なお、辞典形式であるので、各項目を各個に電子化する。公開は基本、相互の項目に連関性がないものが多いので、一回一項或いは数項程度とする。
本篇を以って、「ひ」の部は終わっている。]
貧乏神【びんぼうがみ】 〔譚海巻十二〕叔父壮年時昼寐せし夢に、乞食の如き老人繿縷(らんる)にて座敷に入り来り、直《ただち》に二階へ上《あが》りたると見たり。それより後《のち》、万事不如意なる事多くて過《すご》しけるに、四年をへてまた昼寐せし夢に、前年二階へ上りたる老父、座敷へ出て暇《いとま》を乞ひ、立去《たちさ》らんとせし時申しけるは、我等は貧乏神なり、四年以前この家に来りしが、只今出でさるなり、我等出で行きたる跡にて、焼めしに焼みそを少しこしらへ、をしきにのせ、うらの戸口より持出《もちいで》て、近き川へ流すべしと。また教へて云ふ、かまへて已来《いらい》焼みそを拵《こしら》ふべからず、貧乏神殊に好みたらむ物なり、生味噌食ふは殊に悪しく、味噌を焼くべき火の気《け》さへなき程の事なりと、語りて夢さめぬ。教への如くいとなみて川へ流せし、それより後《のち》窮迫の事なくてありき。
[やぶちゃん注:事前に「譚海 卷十二 貧乏神の事(フライング公開)」を挙げておいた。]
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